第七話 浴室
二宮が出て行ってから数分が経つ。俺は未だに倒された場所から動かずただ茫然と座っていた。…流石に何もない部屋にじっといるのはキツい。しかも上の服何処いったんだよ……
「聡君」
ドアの向こうから二宮の声がした。
「はい」
「朝食出来るまでもう少しかかるからその間シャワーでも浴びてくる?」
「…はい‼︎」
シャワー‼︎ 一刻も早く浴びたかった。極度のストレスで汗びっしょりな上足の怪我も洗い流したい。
二宮が鍵を解除しドアが開けた。
「じゃあ、行こうか」
その後浴室まで案内された。浴室はトイレの丁度隣にあたる。なんと浴室前の洗面所の戸も外部から鍵を掛けられる仕様になっていた。
「行ってらっしゃい。終わった時は鍵を開けに行くから浴室の呼び出しボタン押してね」
「あの…服って」
シャワー浴びるのはいいが、その後何着ればいいんだよ!
「服は用意してあるよ」
洗面所の棚の上を指す。二宮の下着と私服と思われるものが重なって置いてあるのが見えた。
「でも二宮さんと俺じゃサイズが合わないですよね…?」
「ちゃんと君のサイズにピッタリのを用意してあるから安心して」
「え…そうですか」
いやいや用意周到だな!ストーカーかよ。
その後洗面所で服を脱いで浴室に入った。
「…すげえ」
浴室は広く綺麗で真新しく見えた。おそらくこの家は建てたばかりなのだろう。監禁された部屋や廊下、トイレ等見てきた時もヒビや汚れ等はほぼ一切見当たらなかった。俺の家とは大違い。二宮が金持ちなのは本当みたいだ。
「すげえ、でっかい鏡ある!」
シャワーの隣に全身が映る長い鏡が有った。俺ん家の浴室には鏡すら置いてないのに…。ちょっとテンション上がってしまう。てか朝風呂始めてしたわ……朝シャワーか。
早速シャワーのスイッチを入れ全身に浴びせた。汗ばんだ体を洗い流すのは実に気持ち良い。ずっと窓のない部屋に居ただけあり、外から差し込む自然光が尚更爽快な気分を促進させてくれる。…ここの窓は窓ガラスの外に目隠しルーバーが付いていてやはり外には出られないようになっていた。
「痛…」
左足の膝の傷口がシャワーに染みる。あの時の二宮の舌の感触が蘇る。あいつ…舐めるなんてどうかしてるよ。これから本当に毎日をここで過ごしていく事になるのか……また何かされそうで正直めちゃくちゃコワい。それを考えると溜息がこぼれた。
シャワーを終え、洗面所に置いてあるバスタオルで身体を拭いた後二宮が用意した服に袖を通した。
…本当にピッタリだった。怖いぐらいに。なぜ俺の事をこんなにも知り尽くしてる?二宮への謎は深まるばかりだった。
着替えを完了させ呼び出しボタンを押した。数秒後足音がこっちに近付き、鍵を開ける音がした。
「お。サイズぴったしだね」
二宮が入ってくるなり嬉しそうに言った。どんどん距離を縮めて来る。
「すっげー…良い匂いする」
虚ろな目をしながら俺の首筋に顔を近づけて来た。いきなり何を言い出すかと思えばこいつは!
「このボディソープ、絶対聡君に合うと思ったんだよね」
上目遣いで俺を見つめてきた。二宮の顔が妖艶に見える。こんな至近距離で…あーもーやめてくれよ。
「そ、そうなんですか! そういえば昨日の上の服達は何処にいったんですか?」
一歩遠ざかり慌てて話を変える。
「ああ、制服はちゃんとハンガーに掛けて置いてあるよ。下着は洗濯機。この制服ズボンも掛けとくよ」
俺が脱いだ制服ズボンとベルトを二宮が持ち、その後二人で洗面所を出た。
監禁部屋に戻らされるなりすぐ二宮が鍵を閉め、
「今もう朝食作り終わるから。すぐ持ってくるから待ってて」
「…はい」
ドア越しにそう言われた後足音が遠ざかった。