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DUSTER  作者: 703
7/13

吹き出す私情

-AM8:15 司令室-


「お〜う、ハジメ君。相変わらずバカ真面目に

やって来るねぇ〜、感心感心!」


「はい…。あの…カレンさんは、今どの辺りに?」


「あらあら、今日はいつもよりテンション低め?

な〜んかあったのね。ふんふん…カレン、カレンは

あ〜…今、特急車でD2地区通過だねぇ〜。無線機

持ってるね?繋ぐよ〜…。ハイ!ハロー、カレン、

今日は朝何食べて来た?」


『面食らったところよ』


「そう。過食は毒だから、私は静かにしてるわね〜」


視報長官は口と手が別の生き物なのではないかと

思うほどに、冗談と通信を同時進行で行う。それに

仕事とは認識しているようで、はたからも暗く見える

ボクとカレンさんの表情にはあまり踏み込んで

こなかった。いや、ボク達社員の考えなどは

どうとも思っていないのだろう。ただ、仕事に

悪影響を出さないか。それだけを、見ているのだ。



「そういえば、地下鉄で移動してる」


「ああ、社員専用の移動用電車。カレンは普段

地上の抜け道を通っていくから初見でしょ?

あの子が利用するなんて珍しいわねぇ〜…誰かに

最短ルートを知られたくないみたい。それに

緊急事態の時しか使わない発熱剤まで既に

手に持ってるみたいだし、これは誰かに

本当の"仕事"を教えたいみたい。ね?」


意味深な視線でボクを見ると、肩をポンと叩き

視報長官は自分のデスクに戻った。どうやら

些細な観察で状況を読み取れるようだ。…ボクも

持ち場に行かないと。



「カレンさん…。その…よろしくお願いします」


『ゴミはどの辺だ?位置は変わった?』


「ああ…えっ…とですね。移動してますが

早く移動してるわけじゃないので、大丈夫です。

相変わらずE2地区です!」


『…わかった』


画面の向こうではガラガラの車内で、悠々と座席で

足を組み、車窓を退屈そうに見つめる姿が映る。

相変わらず無感情といえば当てはまりそうだが、

いつもなら悪態を吐くハズの通話にも、それなりに

応じた。それはつまり、今回の戦いは適切に対処し、

ボクを司令室に閉じ込めておきたいという意思表示

だろう。…嫌々でも知り合った人間を、目の前で

死なせないために。



『E2地区。階段出口から、どの方向?』


「階段を出て右に約200m!M型の犬タイプです。

…あっ!DUSTERの進行方向と逆側150mに通勤中の

民間人が10名以上います!…あの…」



『DUSTERは潰す……それ以上の期待はしないで

…ゴクリッ』


地下鉄の扉が開く瞬間に、肉食獣ケモノのようなスピードで

地上を駆け上がる。その目は抹殺対象しか見えて

おらず、皮肉な事にゴミ以外の市民ゴミは野放しを

決め込んでいる目だった。自分と関係を持っていない

人間は死んでも良い。いや、関係を持つ前に永遠に

自分と引き離そうとする攻撃性。その非情な境界は、

彼女の心にほのかにある心を、自分で傷付けないよう

線引きしているからなのだろう。

地上に出た瞬間に、狩りの視線を遠く離れたDUSTER

に向ける。話に出た体温を無理矢理、限界値まで

引き上げる【発熱剤】を服用し顔は青白く変色。

逆に双眸そうぼうは炎を灯したように充血し、狂い出した

膂力が地を蹴り、宙を跳ぶ。




『フゥゥウウウウ………ッ!!』



【悪魔】…画面に映るDUSTERの狩人を一言で

言い表すなら的確の言葉だ。低く唸る声は、側から

見るボクでさえ恐怖で震える。言葉を失うほどに。




『…E4、C5地区にDUSTER出現。タイプB型・M型

全5体。共に最短市民との距離180m。危険度…8』


「5体!?」 「えッ!?」 「手の空いてる社員を!」




「な…!?」


緊急事態。白都全土を映すモニターに、反応が5つ

星座のように現れる。司令室は一転、各社員が

驚きの顔を表す。報告した視報長官も苦虫を

噛み潰したような顔でモニターを睨みつけている。

…そういえば、司令室に常にいるハズの長官の姿が

今日は無い!どうしてこんな時に…!



「カレンさん…、聞こえますか…!?」



『アァアアア…!』


『ギッガガゥッ!?アァグッ!!』


駄目だ。既に出煙破臭剤ショックボールもやが展開して戦いが

始まってる…!それに、興奮状態でボクの声が

届いていない…!



『ッルァッ!!』


『コッ…コカカッ………カ…ッ』



『はぁぁ…っ』


靄の中が一瞬、赤く光る。その中で金切り声が

響くと、すぐに出煙破臭剤からカレンさんが現れる。

でも、腕はダラリと下がり荒い呼吸をする姿は

とても万全といえない。



『さっき…はぁ…なんか言った?』


「あ…その」


『なに?』


「DUSTERが新たに……5体…E4とC5に…」


『……近い方から狩る…』



気付けば、泣きそうになっていた。

別にボクに責任があるわけじゃ無い。急にDUSTERが

現れた事が問題だと言う事は、誰の目にも明らかだ。

…情け無かった。きっとカレンさんはボクが

ナビゲートしなくてもDUSTERの1匹くらい

仕留められる。逆に、ボクに危険性を教えるために

発熱剤を使った事で今、衰弱した状態で新たな

DUSTERに挑まなければならない…!

擦りきれてる命を削って…!!




「カレンさん…。すいません…。席を外します」


『…勝手にすれば』


「はい…」


通信を切ると、足早に司令室を出ていた。

早足で歩く。廊下に備えられたモニターにも

カレンさんを含め、DUSTERと戦う社員が映る。

無音で流れているため、声は聞こえてこない。

しかし、社員達の表情は焦る顔・苦い顔・狂った顔。

腐った肉片が飛び、煙と炎と酸が白い街を濡らす。

仮にこのモニターが絵画なら、地獄絵図という言葉が

よく似合うだろう。





-E4地区-


新参者あのバカのせいで…下手打った。発熱剤なんて

使ったのは何十日ぶりだったっけ…?

…はぁ…見つけた。鳥のゴミじゃねぇか。あの新入り

肝心な事、言い忘れやがって…。)


七面鳥のようにブクブクと太ったDUSTER Bバード型。

その分、羽根も巨大に育ち、慌てた時すぐに飛ぶ。

その後、出煙破臭剤の外から羽撃はばたきと一緒に身体の

ウィルスをバラ撒く。幸い、目立って人はいない。

道をフラフラ歩いているだけだが…、行けるか…。

仕留められるか…。…今の身体で。




「ガーォガーォ、ギッギッ」


「…っ」


常に後ろ80mの距離を保ち追う。やや風向きに

よっては腐臭が鼻を突くが、耐えられる程度。

ヤツ等は動物的な直感は健在だが、それ以外の

視力・聴覚・嗅覚は死んでるも同然。この距離なら

堂々と追ってもバレる事は無い。

…ただ、これからどうするか。私以外の戦闘員は

無事ならあと3人。DUSTERゴミ共は5体。



「…1匹だけ、か」


他の戦闘員もDUSTERの気配も無い。C5地区で

やり合ってるか…。なら、アイツが混戦に気付いて

逃げる前に、一対一の内に潰す…!

無理なんて…知ったことか!




-AM8:25 司令室-


モニターを流れるNDSとDUSTERの戦いも徐々に

終わりが見え始めている。優劣をつけるなら

当然、NDSが有利。戦闘員の数が少ないとは言え

場数が違う。悪条件にならなければ、ポッと

湧いただけのDUSTERに遅れをとる事は無い。

…ただ、それは勿論、悪条件になれば

負ける事を意味している。



「社員No.18シュン、Sリングの負担に耐えきれず

M型1体を倒した後、死亡を確認しました」


「そう…。滅菌隊にはDUSTERと共にシュンの

遺体も徹底的に処分するよう言っておいて。

DUSTERに触れた物と死体は何であろうと

除菌を行う必要があるから、よろしく頼むわ」


「はっ!」



(戦闘員も、もう3人…か。まぁ、設立して今まで

2桁になった事もないんだけど)


視報長官は1人、モニターを見ながら思いふける。

NDSが設立時の初期から何度も聞いた。死亡による

脱落の報告。昔は社員の生死に思う所があったが、

今はその思いさえ、消耗品の取り換えくらいにしか

思わないようになってしまった。それを話して

『イカレてる』そう言われた事もあった。その後

『アンタもね』そう返した。今更どうでも良いが。



-6番モニター-


『フンヌッ!!』


『ヴモゥーーオオオッ!!』


出煙破臭剤も無い場所で2m近い屈強な戦闘員が、

牛型のDUSTERを遠隔で地面に押し潰す。

【圧迫】のSリング。能力は遠隔の重力操作という

3タイプ中で最強だが、使えば脳や神経が擦り切れる

最も危険なSリング。


『アアッ!!』


『ゴッモゥ…ッ』


トドメに正拳突きを倒れたDUSTERの頭に決める。

No.10アツシは上部の人間の命令しか聞かない。

いや、もう既に長年のSリング使用が祟り、それしか

出来ないように体を調整されている。最近では

感覚神経も停止したらしく、痛みも苦しみも無い。

この数年、最古参の戦闘員ながら【戦闘員】として

生き長らえている稀有な社員だ。



-8番モニター-


『ね〜ね〜、どぉ?イイ!?キモチィイイ!??』


『グプ…グ…ッ』


【溶解】のSリングは最大の攻撃範囲を持つ。本来は

手や足から汗のように溶解液を分泌し、徐々に

DUSTERを溶かすもの。だが、No.24ヨウカは違う。

幼少期より病にかかり、余命幾ばくか。それを聞いて

彼女は振り切れた。Sリングを使い熟すと、自分の

体に劇薬を次々投入。体に溶かす事で解毒不可能の

有毒体へと姿を変えた。自らの体を溶かし、

DUSTERを包み込んで体で消化する。



『アァ〜アアア〜…オナカいっぱい…ふふふっ

ほかのダスターあとナンタイ?』


「あ…、はい!西方向300m地点の交差点で、

す、座り込んでいます!」


『うぃ〜!いつもドーリにパイプとーって

とかしてクルネ〜?すーぐモドるよー!』



戦いを繰り返す度に、体を修正する度に

頭も心も異物と混ざり合って崩れていく。

記憶も曖昧、ここがどこかも、もうわからない。

『ただ、体が求めるように、死ねれば良い』。

まだ人格がまともだった頃、そう言っていた。




『ジャッバ〜〜〜ンッ!!!』


『ワッブ!?グッ…グルッ………ッ』


町の水路は全てヨウカの道。高濃度の酸の塊が

下水道やパイプを駆け抜け、気に入ったものを襲う。

それが腐っていようが、何であろうが構わない。

なぜなら、死に近付ける道を選んで進んでいるから。




「あとは一番、まともな…いや、ここでは

最も異端なカレン。ここに来て…3年くらい?

それでよくもまぁ、他人も心配できる心が

残ってるよ。一番いらないものだって

自分が言ってたクセに…」


「アイツは両親をDUSTERに殺された人間だ。

単なる殺戮じゃなく、復讐なら終わるまで

人間らしくなくてはならない」


「ああ、帰ったの?長官殿。

戦闘員が1人脱落したわ。貴方のせいでね」


目を合わせると、責任は感じているようで

一瞬、目を逸らした。その後、また目を合わせると

神妙な面持ちで、司令室を離れていた時に

あった事を語り始めた。



「国とは、話をつけてきた。今回のような手違いは

もう起こらないだろう。だが、外の事情を打破する

のが我々の仕事だ。逆に言えば…」


「それしか、私達に出来る事は無い。そう

彼等は言いたいのかもね」


お互いに溜め息を吐くと、話を打ち切る。このまま

無駄話をして良い場面では無い。それに、この話を

誰かに聞かれるわけにもいかない。

それに、E4地区で面白い事が始まりそう。




-E4地区-


「るぁッ!!」


「クカカカカッ!?」


目の前のゴミは、背後からの煙幕に驚き羽と足を

バタつかせる。だが、コイツが飛んでしまえば

出煙破臭剤ショックボールも役に立たない。私の嗅覚が無くなり

且つ、コイツが動かなくなってる今が速攻で潰せる

チャンス…!今以外、確実に潰せる機会は無い…ッ


「喰らえッ!」


「ゴギョギョ!?」




足りない…か。…炎は顔面を捉えた。生きてた頃の

名残か、ゴミ共は顔を焼かれると怯む。それで

激情して襲い掛かってくる。普段なら、軽く躱して

トドメだけど…。参ったな…。



「カココ!カココ!」


「く…ッ」


今、体温は何度だ…?35度あるくらいか…。

…コイツは誘いに乗ってこのまま、私と少しは

遊んでくれるみたいだ…。一先ずそれは良かった。

問題は…、打つ手が無い事だ。

やっぱり、最初に調子乗り過ぎたな…。バカの為に

気を使い過ぎると、死ぬ羽目になるって…。



「コッコッ!!ギィヤ!」


「はぁっ…はぁっ…」



呼吸が荒くなると、腐臭がキツくなる…。

一撃でいいからダメージを与えたい…!

でも、燃料たいおんが無い。撃てても体が耐えられない…。



「ギャア!!ゴコココッ!!」


「…ッ…、ッ…!」


もう…マズイな…。気持ち悪くなってきた。

体が重い。感覚も…おかしくなってきたのか

腐臭がしてくる。気持ち悪い…。寒い、嫌だ。


燃やし尽くすつもりだったのに!!

…変だな。


「はッ…!はッ…!」


私は今までDUSTERなんかに負けた事なんて

無かったのに!!

…吐き気がしてくる。


「くッ…ッ…」


なんでこんな急に!!全部アイツを思って

やった事なのに!!

…何で…私。




「ガアァアガガッ!!ガアァア!!」


「…っ」



助けたかったハズ、だったんだけどな…。…そう…

そうだよ…。…そうだよね…?…ヨシノ……さん…。





「…………お母さん………」







…崩れた。今まで地面を踏んでいた両足は外れ、

目は見開く。急所の腹部は抉れ、人間ならば誰しも

一目見て致命傷だと分かる。





「…カレンさんッ!!」


通信機を切り、大急ぎでここまで向かって来たボクは

カレンさんの側で、自分でも驚くほどの声を出した。

予感はしていた。自信もあった。だけど、

『意外に上手くいった事』に喜んでしまったからだ。






「カッ…コココ…」


ボクのSリングの一撃を受け『DUSTER』は

目を回して倒れている。不意を突いた、

腹部への一撃。流石に、腹を抉られては回復に

時間がかかるらしい。



「上手く当たりましたよ!」


「…新…入り…?なんで…」


今まで何があったのか、通信を切っていた為に

わからないが、カレンさんは随分弱っている。

辛うじて立っているが、今すぐ復帰は無理だろう。


「話は後にしましょう…。とにかく…

これでも飲んでいてください」


お汁粉。ここに来る間に、買っておいたものだ。

戦いが終わった後、飲む予定だったが、目の前に

冷え切っている人がいるなら仕方無い。終わる頃には

太陽が、この町の壁を越える頃だろうから、それで

体を温めよう。



「ふぅ〜…ふぅ〜……、ゴクッゴクッ…ゴクッ…。

…ッはぁ…。…新入り、今は深く聞かないけど…

戦えんのよね?前みたいな…死にかけと違って

ソイツはまだ余力がある。爪でも何でも、一撃

喰らえば終わりよ…?」


「厚着して来たので大丈夫です、多分。

それにちょっと、考えもあるので。あ…もし、

良ければ、いつもと反対にナビをしてくれると

助かるんですけど…。どうですかね?」


缶一本飲み干して、少し気力が戻ったらしい。

確かに目の前の敵は余力を残してる。でも、

出煙破臭剤越しに見えるDUSTERは、くちばしが燃えただ

横腹に穴が空いて重心がズレている歪な状態。

油断しているわけでは無いが、足の爪さえ

気を付ければ勝機はあるハズ。



「わかった…。アンタを邪魔する理由は無いから

指図してあげる。せいぜい、正しいナビを覚えて

次からマシになる事ね…」


「いや、もうナビゲートには…戻りませんよ…!」


「…!」


B型DUSTERに突進する。顔は燃え爛れていても

やはり、動物的直感で体が強張るのが分かった。

DUSTERの大きさは、ボクの腰くらい。

足の爪に気を付けるなら、上から叩く!



「フッ!」


「ギャフ!?」


頭部を狙った回し蹴りが避けられた…!

いや、避けられたと言うより、飛び退いて

距離を取られたと言うべきか…!?



「新入り!距離を取らせるな!!隙を見せると

飛ばれる!羽根のウィルスを吸い込んだら死ぬぞ!」



「あッ、ぐッ!」


カレンさんの警告で我に返る。そうだ、DUSTERは

別にボクと戦いたいわけじゃない。勝てないなら

逃げてしまうんだ…!


「クチャ…クチャクチャ!」


「!?」


だったら逃さない…!ボクはカレンさんみたいに

感覚で仕留められるほど、経験が無い。だから

一つ一つ、今やるべき事を考える。まずは布石の為に

酸素凝縮紙オキシガムを噛んで息を整える。そして…!



「ハァッ!」


「ギョ!?ククェ!!」


飛ばれるなら、羽根を狙う。火力は弱火で良い。

どうせ、一気に決めようとしたらスタミナ切れで

最悪な展開になる。幸い相手は半分くらい

逃げる気持ちでいる。逃げようとして羽根が羽撃けば

的が大きくなって…当たる!



「ゴクゴッ!!キェェエエッ!!」


当たった!しかし、痛覚も視力も無いハズなのに。

体に異変が起きるとDUSTERは叫ぶ習性が

あるんだろうか?…いや、今はそんな事を

気にしてる余裕は無い…。



「新入り!刺激し過ぎだ!見ろ、飛ぶぞ!」


「ええ!ですので、布石を打っておきました!」


口から柔らかくなった酸素凝縮紙を取り出し伸ばす。

カレンさんが前に使っていたのを見て思ったが

このガムは強度もあって随分伸びる。だから…!



「DUSTERに付けるなら早くしろ!」


「ただ付けたりしませんよ!」



「グガッ!?」


飛び立とうとしたDUSTERの、羽根の根元を狙い

ロープ状にした酸素凝縮紙を巻き付ける。

ただ、ガムを付けて火を灯すだけじゃ即効性が

足りない。中途半端な火の鳥が空を舞うだけだろう。

だけど、細く通したガムにSリングで火を付けて

思い切り引けば…!




「ギギ!?ガ、ガガァアガアァアアッ!?」



「羽根を、引き千切ったのか…」


「これで、もう飛べません。ひとまず…」


「おい!新入りッ!」



「ガガァアガアァアア!!」


錐揉み状のDUSTERが無我夢中でボクに飛ぶ…。

油断した…、マズい…、避けきれ…っ



「フッ!」


「ガッ…ァァァ……」


まさに一瞬の出来事。庇おうと頭を包んだ腕が

急激な熱を感じ、産毛と白衣が焦げる。DUSTERは

急速に速度を無くし、ボクのすぐ真横に落ちる。



「はぁッ、はぁッ…油断すんな…。バカが!」


「カレンさん…っ。ありがとう…ございます…ッ!」


ほんの少し回復した力を、使わされたカレンさんの

怒りの声が耳を突く。思わず苦笑が顔に出てしまう。

事が上手く運び過ぎて油断していたらしい。いや、

油断よりもDUSTERの生命力を甘く見ていた。

何にしても、実践というものの恐ろしさとバックに

信頼できる人がいる安心感を、身を以て味わった。

緊張が緩んで力が抜ける…。



-5分後-


5分間、ボクとカレンさんはお互いに体力の回復を

決め込んだ。本部から帰還命令も無かった為

やっと白壁から顔を出した太陽を受け、

じっくりと体を休めた。その後、会話に

切り込んだのはカレンさんだった。質問の内容は

当然の如く『どうしてここに来たか』、『どんな

方法でここに来たか』簡潔に2点の質問だった。



「多分…、反吐が出るとか言うと思いますけど

…助けたかったんです。この街とか、人を」


「そう…。ホント、反吐が出るわ…。

そんな事の為に、吐くほど不快なゴミと戦う

気になったわけ?」


「まぁ…。そうですかね…?実際、見るのも結構

気持ち悪いです。でも、人が喰われてるのを

見るのより戦った方が何倍も楽ですよ。アレは

昔を思い出して…その…嫌なので」


「昔…?」


口をついて出た言葉に我ながら動揺した。別に

誰かに言う気は無かった。本当に気が緩んで

いるんだろう。

ボクの濁した言葉に横目で反応したのを見て、

見逃してくださいと苦笑を返した。


「まぁ…良いわ。言いたくない事を言う必要無い。

私とアンタは、はらの中の秘密を言い合える仲じゃ

無いし。そうよね?」


反応を求められた。どうやら僅かに芽生えた絆を

また、断ち切りたいのだろう。ここで賛成すれば

今後も、コミュニケーションが難しくなる。

かと言って、反対する理由は自分から、秘密を

隠すという形で消してしまった。…でも。



「そうです…けど、このままにしておくのも

勿体無いので…コレ、貰ってください」


「なに?ケータイ?」


カレンさんとの初任務の後、買っておいた

スマートフォン。結局、司令室では必要に

ならなかったけど、これならお互いが外に

出ていても、連絡を取り合う事が出来る。問題は…

カレンさんが受け取ってくれるかだけども…。



「…コレ、ゲームとかできるヤツ?」


「え?…ええ、アプリを落とせば、大体の

事は出来ますよ。一応もう、必要そうなアプリは

それなりに入れておきましたけど、連絡帳に

ボクの番号も入れておいたので。やり方は…」


「いい…!自分で覚える」



ガンコ。でも、気に入ってくれたらしい。というか

カレンさんは機械とかには慣れているんだろうか?

シツレイだが、野生で育ったようなイメージが

ついているけど…。



「カレンさん、説明書とか読めます?」


「はぁッ!?読まないと思ってるわけ?」


「でも、手紙は平仮名だらけだったですよね?」


「手紙…?」


今朝、部屋に置いてあった手紙を見せる。確かに

平仮名だらけで、とても同世代の人間が書いた

手紙には見えないけど。



「こんな物、私は書いてないわよ!視報長官の

筆跡に似てる…。あの女の仕業か…!」


あ、視報長官のイタズラか…。そういえば、確かに

今日、カレンさんは一言も手紙について話を

しなかったな…。



「そうですか…。そうですよね。流石に

司令室くらい、漢字で書けますよね」


「………ま、まぁ…ね」


カレンさんは、そう小さく言うと早足で歩き出し

姿を消した。GPS機能をONにしている事は

しばらく黙っていた方が良いだろう。さて、ボクも

そろそろ帰らなければ…。




-司令室-


「無断の戦闘だったがご苦労だった。

今後もNDSに尽力してほしい」



2人揃って長官に報告すると、返答は淡白な

ものだった。無断行動へのお咎めは無し。しかし、

その代わり、これからもDUSTERの戦いを続けろ。

思った通りの答えだった。



「今度から、コイツを1人で戦わせるつもり?

また、戦闘員を減らしたいわけ?今日も1人

いなくなったとか聞いたけど」


「え…?」



「今後しばらくは、2人1組で作業を行ってくれ。

これ以上、人員が減るのは避けたい」


「人が減ったのはDUSTERの問題よりもSリングの

問題だってわかってんでしょ!?前線に出す時点で

人員が減る問題が出るのは変わり無い!

また今日みたいなゴミの大量発生が来たら、持久戦で

危険性も更に増えるわ!」


「…ああ。それに関して、国から許可を得てきた」


「あぁ?」



「時期に分かる…。いや、分からない方が

良いのかもしれないが…」


感情的な問題点の追求を、やや冷めた態度で返す。

長官の目は、常に冷静で威圧感があるが、今は

それ以上に諦観したような、何を言っても

仕方無い気配が表れていた。







-深夜 E5地区-


「ゴフ…ゴフ…グプッ…ハッ、ハッハッ…」


気味の悪い咀嚼音が、誰もいない路地裏で聞こえる。

全身を炎で焦がした犬タイプのDUSTER。

顔の皮膚は剥がれ、肉と骨は剥き出し。だが、

恨みも悲しみも無く目の前の筋張った肉を

喰らっている。食い散らかすモノは同族の羽根。

朝方、NDSの新入りが千切った鳥タイプDUSTERの

羽根。それを、ただただ喰う。犬の体が徐々に

痙攣けいれんを始めた。カタカタと歯を鳴らす。

…そして、左右の肩甲骨の辺りが裂ける。まるで、

産まれたばかりの雛鳥のように、体液の垂れる翼が

犬DUSTERから這い出た。

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