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DUSTER  作者: 703
5/13

消す物

-ヨシノ退社から3日後-



-多目的ホール


「ふぐッ!」


「下手クソ」


ヨシノさんの件がある程度落ち着き

ボクは今日からテスト用Sリングで

来る戦いの時に向けカレンさん講師の下、

日々トレーニングに励んでいる…わけだけど。



「燃料無くなりかけのライターの方が使えるわ」



「えっと…思い切り腕を振れば

炎が出るんですよね!?」


「力み過ぎなのよ。ボールを投げるみたいに

肩から手首に掛けて、腕を鞭のように振る。

それと、炎が出た時にビビるな。

鼓動に乱れがあると安全装置が起動して炎が止まる」


「はい!」


カレンさんは遠巻きに見てるだけだけど

アドバイスが具体的だ。しかし、この

Sリング…テスト用のヤツだけど、疲れるな…。


「ていうか、戦場に出る気…?」


「え…。あぁ…まぁ、予行練習と言いますか…。

使えた方が良いかな…って」


チラリとカレンさんの顔色を伺い呟く。

一瞬見えたカレンさんの顔は当然、不機嫌で

怒りの雰囲気がボクの胸を締め上げる。



「半端な覚悟で戦うなんて、

よく私に面と向かって言えるわね」


カレンさんはボクに向かい足を進め、

その灼けるような目で、静かに威圧する。



「…怒らせたいの?」


カレンさんのSリングがパチパチと火花を上げる。

ヨシノさんの一件から、その炎は更に冷徹に

出されるようになった。

…その時。


『DUSTER.type- Mママル全1体。最短の

市民距離まで510m。只今の外気の天候。

快晴・微風。計測から死臭影響距離まで

300m、警戒度3です』



「あ…カレンさん…!」


「一々呼ぶな…。あとは勝手にやってれば?」


「え…いや!ボク本業はカレンさんの

ナビゲーターなので!司令室に!」


私情と仕事は別物。入社してから、

いまいち仕事をしていない気がするが、

役目は果たさないと…!



「勝手にすれば…」


カレンさんも公私混同はせず、湧き出た怒りを消し

文句の一つも言わず、歩き出した。



-司令室-


「放送の通りだ。相手は中型犬DUSTER。C5地区を

闊歩している。周りに人の気配は無い」


司令室に入るなり長官が現状を伝える。確かに

モニターをチェックすると腐乱した犬がフラフラと

無軌道に歩いている。


「わかった」


カレンさんは相変わらず了解だけ意思表示し、

司令室を早々と出て行った。


「ハジメ、訓練の調子はどうだ?」


個人のデスクに向かおうとしたボクの背後に

長官の声がぶつかる。



「カレンさんに怒られました。

覚悟が無さそうだから出ても仕方が無い、と」


「実際、そうなのか?ハジメ、お前は何の

覚悟も無く、戦おうと思ったのか?」


「…。」


長官にしては、他人の心奥を覗き込む態度で

思わず、返答が鈍る。



「お前の過去、実は私達は知っている。お前が

どういう境遇でNDSを志望したのか。お前の

身内の現状から推察される、本心もな」


「…そう、ですか」


淡々と告げられる長官の言葉。ボク自身、いつかは

知られると思った事であり、別に驚きもしなかった。

ただ…。



「ボクの今の仕事は、DUSTERの駆除です。

私情は今の所、挟む気はありません。失礼します」


これ以上、話が続くと感情的になってしまう。

ボクは急ぎ、デスクに向かいカレンさんに

視線を走らせる。




「ハジメ君、なかなか特殊なワケありよね」


「個人の問題を我々がどうこうする気は無い。

しかし、もしかすればハジメは…''人"を殺す気かも

しれない。身内の人間をな」


「そうかなぁ…。彼、葛藤してるように見えるよ?

そういう子は、大胆な行動はできないもんだと

私は思うけどね。まぁ、今ならね」


長官と視報長官はハジメを見ながら意見を述べ合う。

すると、視報長官は紙資料を取り出し、息を吐くと

書いてある内容を口にする。


「清代 一。注意事項、父親が殺人を行なった

犯罪者。現在、白都にて生活中、か。

長官殿がハジメ君の立場ならどうする?」


「事故を装い、その父親を殺す」


「相変わらず苛烈だねぇ」


軽く笑い飛ばすと、紙資料を長官の机に置き

視報長官は自分のデスクに戻る。




-C5地区-


C5地区はこの白都を構成するA〜G地区の中間地区。

景観も市街地と工業地帯の境目といった感じで

向きによっては視界が狭い独特な場所だ。



『ブルッ…ブルゥ…ルゥ』


『いつ見ても、気持ち悪い…』


犬型DUSTERは痙攣したように体を震わせ

鳴き声なのかもわからない声を零す。

画面に映るカレンさんは、一言呟き、ビルの影に

身を寄せ、犬型DUSTERの背後70m

辺りから観察しているように見える。

…様子がおかしい。いつものカレンさんなら

視界に捉えたDUSTERを速攻で倒してしまう

ハズなのに。



「カレンさん…?」


その思いが口を突いて漏れる。また、怒られるな。と

覚悟を決め、口をつぐむ。


『あのゴミ、何か変な気がする…』


「え?」


カレンさんの予想外の対応に二度瞬きして、

モニターを確認する。犬型DUSTERは確かに、

歩行が覚束無おぼつかなく朦朧としていて、犬としては

変だがDUSTERとしては変わりがないように見える。もしかしたら、現場の臭いや雰囲気といったものの

違いなのだろうか?


「どうしますか?」


『はぁ…。いい、今から狩る。もう黙ってろ』


「え!?」


打って変わって、いつも通りのカレンさんは

ボクの気も知らず出煙破臭剤ショックボールをDUSTERに

投擲し、一気に肉迫を開始。ボクも慌てて画面を

暗視モードに切り替え、見守る。


「ははぁ〜、成る程。これは確かに変だ。

手の空いてる職員を探さなきゃねぇ…」


「視報長官…!」


突然、後ろから視報長官が現れる。モニターを

操作し、画面をズームすると、顎に手を当てて、

一本取られたというような意味深な苦笑で呟いた。


「ねぇ!これ知らないとヤバイよね?」


「…ああ。なら、お前が行くしかないな」


ボクのデスクから離れると視報長官は体を180℃

回して、長官を見ながら意見を求めている。

長官もこちらを見ながら、何やら不穏なオーダーを

繰り出した。




-C5地区-


『はぁッ!!』


『グボボボァ!』


白い煙幕の中を、赤い炎と黒いヘドロが乱れ飛ぶ。

出煙破臭剤の内部はNDS職員でさえ、視界保持が

難しいが、カレンの火炎はDUSTERを

徐々に攻め立てている。だが…。


(さっき感じた違和感…。まだ消えてない。

コイツ、今まで戦ってきたヤツと明らかに違う。

動きが不安定過ぎる…)


DUSTERと距離を保ちながら、思考を巡らす。

普段なら、敵に対して一心不乱に攻撃するDUSTER。

しかし、カレンの目の前にいる犬型は急に

突進したかと思えば右往左往に飛び跳ね、更には

地面に倒れ込み、金切り声を出すなど常軌を逸した

行動を繰り広げている。


『アァガカカカ!ゲギィ!!』


(コイツ…!暴れて照準が定まらない!)


DUSTERは身が焼かれるほど、狂乱が強まり

数十秒経過した今では、ネズミ花火のように

火花を撒き散らして暴れまわっている。



『けほっ…けほっ!』


戦闘が長引くほど出煙破臭剤の効果は弱まり

殺人的な腐臭は鼻を突く。普段の仕事でも

そろそろトドメを刺す頃合いである。



『くちゃ…ぺっ!』


普段通り酸素凝縮紙オキシガムを口に含み、軽く噛んで

柔らかくしてから、DUSTERに向けて吹き付ける。


-ボゥ!!-


『ゴフォ…!?』


鋭く吐き出された酸素凝縮紙は見事にDUSTERの

横腹を捉え、既に火達磨であったDUSTERの体は

爆発的に燃え上がる。



『ふぅ…はぁ…!』


出煙破臭剤の領域から飛び退いで深呼吸するカレン。

奇妙な相手で処理に手間取ったが、倒してみれば

肩透かしを喰らったような脱力感を感じた。

楽な仕事ほど良い事は無いのだが、期待外れも

ほどほどに気分を害する。

…しかし。



『キィ…!』 『キュイキュイ』 『ユゥゥ…ゥ』



『ッ!?』


出煙破臭剤のもやが薄まり、犬型DUSTERの死骸が

徐々に明らかになる。そこには、横腹に開いた

風穴から波のように、蛆が流れていた。

大きさは一般的な蛆の倍。体表は緑に白い線が

流れる汚れた色。嫌悪感を表さずにはいられない。



『うッ…くッ…カハッ!』


見た目の嫌悪感にもあるが、出煙破臭剤の効き目が

弱まり、DUSTERの腐臭で内臓が痛み始める。

カレンは口を押さえて後退りする。目だけは変わらず

憎々しげに蛆を睨み付けるが、戦闘続行は難しい。


(コイツ等…!犬に寄生してたのか…!

だから、あのゴミ…動きが変だった。

虫に体を操られてたのか…)


『ギゥイギゥイ』


『ッ!この虫共ッ!!』


出煙破臭剤の内部では分からなかったが

衣服に数匹の蛆DUSTERが張り付いていた。

カレンは憤慨しながら自分のロングコートを剥ぎ、

犬DUSTERの死骸に向けて投げるとSリングから

火炎を吐き出し燃やし尽くす。



『ギチギチギチギチ…ッ!!』


カレンのロングコートには出煙破臭剤、酸素凝縮紙が

まだ何個か残っており、放たれた火炎が着火すると

小規模な爆発が起こり、蛆DUSTERは燃えながらも

四方八方に飛び散り、か細く悲鳴を上げる。



『かぁッ…はぁッ、司令室…。一旦、この場から

離れる。準備を整え次第…また、すぐに…』


久方振りの屈辱を噛み締める。DUSTERを

目の前にして、本部に救援を求めるのは結果的に

敗北宣言をしているようなものであり、いくら

言葉で再戦を誓っても、身体に不備があるなら

叶う事は無い。カレンは体を震わせ、決して

DUSTERから目を離さずに後退りをし続ける。


『了解しました。あとは任せてください!

ボクがやってみます。』


『ふッ、新入り…。私が情け無い姿だから…

調子乗ってるわけ…?』


『え!?違いますよ!長官の命令ですよ!

だから、後は任せてくださいよ』



-ボフゥッ!!-


『ギッ、ギシシィ!?』


『えっ?』


突然、出煙破臭剤の靄が蛆DUSTERを包み込む。

驚きの声を漏らすDUSTERとカレン。


出煙破臭剤ショックボール、着弾確認!』


『…お前、なんでここに…』


カレンさんは突然現われたボクに驚いたようだった。

顔色は青白く、いつもみたいな強気は薄らいでいるが

しばらくすると溜め息を一つ吐いて

ボクとDUSTERの対角線から外れるよう道端に進み

適当に腰を下ろした。



「やるなら、1分で片付けて。それが出来ても…

半人前にもならないけどね…」


「了解です!」


冗談半分と言ったように笑うカレンさん。

どうやら、ボクに対する本部の抜き打ちテストだと

理解したらしい。自分をダシに使われた事には

少々、納得してないみたいですけど…。



-53秒後-



「はぁ〜…!」


言われてからは大変な作業だった。とは言っても

蛆DUSTERは先程、放たれた1回きりの大技

【カレンさんロングコート爆裂アタック】で

ほぼ死滅しており、両手の指で数えられる程に

収まっていた。本当に大変だったのは、もっと

初歩的な別の事であり…。


「力み過ぎないで、ボールを投げるみたいに

肩から手首に掛けて、腕を鞭のように振るんですね!

それと、炎が出た時にビビらなければ

安全装置は起動しないんですね!」


「それ、私が冒頭で言ったから」


Sリングを使いこなすのに、時間の多くを使った…。

…実践になれば、使いこなせるかなぁ…と思って…

あれ…なんか、体がすごい…さむ……ぃ…。



「はぁ…。敵前撤退の代わりに新入りかつぎか」


カレンは突然倒れたハジメを肩に担ぎ、辿たど々しく

NDSに向けて足を運ぶ。




-司令室-


「予定より随分、早いんじゃないかしら?」


「ああ…。悪いが少しの間、会社を出る。

私がいない間はお前とテラスのヤツに任せる」




「了解。じゃあ、ハジメ君への説明は

ドクターに任せようか」


早々に司令室を出る長官。その後、思い付いたように

人差し指を立て、呟く視報長官。いつも通りの調子で

社内を歩き回り、ドクターの部屋へと向かう。

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