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DUSTER  作者: 703
3/13

荒れる心

-AM5:00 自室-


「本当にいない…」


早朝、目が覚めると部屋にカレンさんの

姿は無いので、もう既に外に出たらしい。

朝早くから仕事が始められるなんて

凄いなぁ…。さぁ、ボクも行こう…。

頭はまだボヤけているけど、これも

次第に慣れていくだろう。徐々に経験を

積んで、周りの人に認めてもらえるように

ならなくちゃ…!



-食堂-


社内説明を見てから半信半疑だったけど

この会社は、社外に出なくても

一通りのサービスは受けられるようだ。

泊まり込みで働いているわけだし

考えてみればそうか…。

食堂内は、入口を入ってすぐに

食券売り場があり、もう一つ扉を開けると

飲食のできる大間となっている。

食事は全て無料となっているので

とりあえず、焼き魚定食の食券を購入し

調理場に提出し席に着いた。



「誰もまだいないんだ…」


営業時間開始から30分は経過しているのに

ボク以外の姿は無い。食べ物の匂いも

しないから、ボクが一番に来たらしい。



「アンタ、会社の新入りだね?」


「え!?あ、はい。そうですけど…」


ボクが食堂内に視線を走らせていると

一目でここの職員だとわかる女性職員の方が

大きめの声で話しかけてくれた為、背中から

冷や汗が出てしまった。何の用だろう…?


「久しぶりだよ。肉や野菜を使って

料理を作ったのは。今の内に

たくさん食っといたほうがいいよ」


「…はぁ…?」


社員の方はそう言うと、湯気の見える

焼き魚や味噌汁をボクの前に置いてくと

再び、調理場へ戻って行った。


「久しぶり…?」


少し悲しそうな表情が頭から離れず

作りたての定食を、ボクはしばし見ていた。


-5分後-


「ご馳走様でした」


「はいね」


食事を終え、一言お礼を言うとボクは

食堂を後にした。ボクが食べている間は

誰も姿を見せなかったので、今後も

この時間帯に食べに来よう。



-司令室-


「入社二日目から、随分早く来るな」


「長官…おはようございます」


偶然、入口付近にいた長官と目が合い

声を掛けられると相変わらずの威圧感に

気圧されてしまう…。さらに、早朝だと

いうのに指令室には視報官が多くおり

カメラやモニターのチェックを

欠かしてはいない。室内を見回した限り

DUSTERの気配は無いようで

静かな平和の雰囲気がわかる。


「ハジメ、お前はカレンの

専属オペレーターだ。カレンが

DUSTERやネダストと遭遇しない限り

雑用くらいしか仕事は回って来ない。

だから普段は楽にしていろ」


「あ、はい。すいません…。

昨日の仕事から衝撃が強くて

体が力んでるんですかね…?」


「命懸けの仕事だ。無理もないだろう

だが、何もない時に力んでいては

いざという時に体が言う事を聞かないものだ

気楽に行け。DUSTERが出てきても

我々はそう簡単には負けん」


「…はい」


長官の右手が力強くボクの肩に置かれ

やや痛みを受けながらも言葉の強さに

表情は微笑んでしまう…。そうですね。

いざという時に使えるようにならなきゃ…。


「おっはよ〜…、また寝てもいい〜…?」


「視報長官…おはようございます…」


「バカが、持ち場に行け。お前が

DUSTER発見の最高責任者だという事を

毎日、言い聞かせねばならんのか…!?」


「だってさぁ〜…、こんな早くに

DUSTERが出てくるわけ無いじゃん

固過ぎ、ちゃんと牛乳飲まなきゃダメよ?」


「お前以外で怒った事は近年無い…!

それに私に好き嫌いは無い」


「あっそ…。じゃあ、私の事も

嫌いじゃないのね…じゃ」


「好き嫌いが無いのは食える物だけだ!

食えんヤツは入らん!」


マイペースな視報長官さんは、長官の

話に聞く耳持たず、上部への階段を

気だるそうに登って行った…。長官の話から

毎日、こんな感じなのだろうか…?


「力を抜いていろとは言ったが

アイツだけは参考にするな…」


「あ…はい」



「…それはそうと、ハジメ。カレンの

オペレーターとしての仕事は今の所無い。

よって、新任社員であるお前には

行ってほしい所がある」


「…?」


「地下一階のDUSTER教習室という部屋だ

お前の今後に影響を及ぼす事になる」


目を合わせない長官の表情を察するに

危険を内包した事だとわかる。ボクは

NDSに所属するにあたって、NDSの装備や

社内の部屋について多少の知識はある。

でも、DUSTER教習室なんて部屋は

少なくとも教えて貰ってはいない。つまり

社員しか知らない部屋だということ。


「社員なら誰しも入る部屋だ

早めに経験した方が良い」


長官はボクに言い残し、上部へと

上がって行った。ボクも指示通り向かおう。

長官命令なら行くしかない。



-DUSTER教習室-


殺風景な白い部屋だなぁ…。教習室って

言うくらいだから資料が山積みにでも

なってると思ったのに。


「…誰か、いますか?」


見える限り人はいない。本当に

広くて白い部屋としか言いようが無い。

長官はどうしてボクをこんな所に

向かわせたのだろうか?もしかすると

邪魔だったからとか…?うわぁ…だったら

ちょっと落ち込むなぁ…。


「ギギグゥ…」


「え…?」


DUSTER…!?嘘…、こんなの

社内にいて良い存在じゃ…!


「ガリュオッ!!」


「あぅッ!!」


ボクの恐怖なんて関係無いみたいだ…!

でも…戦う術なんて…!

今はとにかく逃げるしか…!!



「ガォガガァ!!」


「ハァッ…ハァッ…!!」


こんなにこの部屋は大きかったのか…!?

いくら真っ直ぐ逃げても壁が無い…!

白い砂漠みたいだ…。でも隠れる所も

武器も無い…。DUSTERに疲れは無い…。

一体どうしたら…!


「ハァグッ!ハァグッ!」


「くッ…!」


なるほど…!長官の言い分はもっともだ!

ここに来れば身をもってDUSTERの恐怖を

知る事が出来る!しかも、あのDUSTERは

ボクが初日に見たDUSTERじゃないか…!

カレンさんが倒したハズ…!まさか…

何かの研究用に保存しているのか…!?

いや…もしかすると使えない社員の抹殺用?

ッ…、我ながら最高のジョークだね…。


「グォッ!」


「くッ!」


DUSTERも追いかけるだけじゃ

飽きてきたみたいだ…!今は紙一重で

攻撃を避けているけど…ッ!

…飛び道具とか使ってこないよねぇ…!?


「ゴォボァッ!!」


「使えるの!?」


しかも内蔵みたいな紫色の弾…!

絶対に喰らいたく無い!ッ…まったく

なんでボクが思い付いた瞬間に

そういう事をしてくるのかなぁ…!?

あっちがそうなら、ボクだって使えても

良いくらいじゃないか!



-ジジッ…!-



「え…!?」


これってカレンさんが

付けていたのと同じSリング!?

いつの間にボクの両手に…!?

と言うかコレってこんな感じで

手に入る物なの!?急過ぎるよッ!

せめて、あのDUSTERがいなくなった後に

してほしかったんだけど!


「くッ…!やるしか、無いのかッ!?」


-ボォッ!-


「ギョオッ!?」


やった!ボクにも使える!

よし、このまま一気に…ッ、あぐっ!?



「え…?」


「目は覚めた?」


「カレン、さん…?」


左頬がジンジンと痛む…。察するに

カレンさんに殴られたか蹴られたらしい。

しかし…、DUSTERは?部屋もこんなに

小さかったんだ…。


「DUSTERと鬼ごっこなんて

相当お気楽ね、新入り。いずれ死ぬわよ」


「え…ちょっ、なんでDUSTERから

逃げてた事知ってるんですか?

と言うか!あのDUSTERは!?」


「さぁね、司令室に至急来い

長官からの伝言、伝えたから」


「…。」


どういう事なんだ…?まさか、夢?

なんて簡単な事ならいいんだけど…。

カレンさんがボクの見ていた物を

知ってるのが引っかかるな…。

カレンさんにそういった力があるとか…?

有り得なく無いから怖いなぁ…。

あ、そうだ。司令室に行かないと…!



-司令室-


「無事に帰って来れたようだな」


「…えぇ、まぁ」


まるで、帰って来ないかもしれない

って思ってたみたいな感想…。

と言う事は長官もボクがDASTERに

襲われる事をわかってた?


「長官…あの部屋って一体…」


『DUSTER.type-Iインセクト全30体。

最短の市民距離まで100m。

只今の外気の天候。快晴・南東から風力3。

計測から死臭影響距離まで

10m、警戒度7です。』


「チッ…」


どうやら本当の緊急事態らしい。

長官が舌打ちをして顔をしかめている。


「ハジメ、突然で悪いが

カレンのナビゲートを頼む。アイツなら

数秒でDASTERのいる位置まで行く。

今回は今迄より遥かに難しい仕事だ

DASTER排除を優先して当たれ…!」


「…はい!」


カレンさんはさっきまで社内にいたけど

間に合うのか…?とにかく、ボクは

やれるだけをやらないと…。確かさっき

タイプはインセクトって言ってたな…。

虫のDASTER?一体どんな…。



「type-M以外が、現れるとは…」


被害現場を見ながら長官が拳を握る。

その表情は、何か言いようの無い

怒りに満ちている。



-AM7:00 現場-


『新入り、今日はいつに無く静かね

ま、その方が私もやり易いけど』


「カレンさん…コレ…ッ」


眼前に広がる腐った緑色のゴキブリ…。

カサカサと音を立てて奇声を上げて

縦横無尽に動き回っている…。

なんだコレ…こんな…。


『クズの山、殺し甲斐があるわ

新入り、気分が悪いなら黙ってなさい』


監視カメラに映るカレンさんの表情は

いつにも増して生き生きしてる…。

こんな気味が悪い物を前にして

…本当にDASTERを消す事を楽しみに

しているんだ…。



『ハァッ!』


-ボフォッ!!-


出煙破臭剤ショックボール…!戦いが始まった!

暗視カメラに変更…。


『ギキィィ!』『キャリリリ!』『ブゥ!』


うッ…!DASTERが巻き散ってる…!

煙の中は火で赤い。DASTERは何匹も

燃えて地面に落ちてるけど、出煙破臭剤の

持続時間内に全部倒せるのか…!?



『ブゥッ!』『ウウゥウッ!』


『フンッ…!』


-シュ…ボフォッ!!-


『ギギァ…!』


どうやらtype-Iは直接的な攻撃力は

無いみたいだ…。ただ、数が多い。

カレンさんに群がって来てるから

炎の射程距離も短くなってる…!

これじゃあ、放ってるカレンさんにも

引火する可能性が…!



『ジジ…ジジジ…!』


『…。』


地面には瀕死…いや動けなくなった

DASTERが炭のように散らばっている。

けど、敵の数はまだ多い…。カレンさんの

体力が持つのか…?




『クチャクチャ…そろそろ、いいかな』


-プゥ…ッ-


酸素凝縮紙オキシガム、いつの間に…!

それに、前みたいにDASTERに付着させる

気じゃない…かなり酸素を入れて

風船にしてる!大きさも頭と同じくらい…。

どうするつもりで…。


『プッ…!』


-ペチ…ャ-



地面にガムを付けて出煙破臭剤の

外へ出た!?まさか、逃げるつもり…!?


「カレンさん!どうしたんですか!?」


『黙って見てなよ、新入り』


-ピンッ…!-


カレンさんの指先から火花程度の炎が

白煙の中に飛んで行く…。炎の行く先は

さっき地面に付けた酸素凝縮紙オキシガム

…まさか




『これで終わり』



-ゴオォウッ!!-



逆気流バックドラフト…!!火災時に

火が消えかけて一酸化炭素が充満した状態で

突然、急激な酸素が流れ込んで来ると

炎が復活して燃え上がる現象…。

それを人為的にやった…!?



『ジビビ…ッ』『ココ…コ』『キィギ…ィ』


『もう、限界か…』



「カレンさん、まだですよ…!」


『…?』


『ギガァッ!!』『なんだ!?うわッ!』


ほとんど死にかけだけど、逆気流の衝撃で

DASTERが飛び散った…!民間の人達に

襲い掛かってる!早く…助けないと!


『カレンさん!!』


『死にかけよ…。ほっとくわ』


『え…、ちょっと…嘘ですよね…?

待ってください!』


『…切るわ』


『カレンさん…!カレンさんッ!!』


-ザー…-


通信を切られた…。待ってくださいよ…。

道行く人が今、DASTERに襲われて…!


『うぐぁッ!』『がぁあっ!!』『…ぁあ』


違う…ッ、喰われてる…!

3人…もう焼け焦げのゴキブリのDASTERに

身を喰われて体が、腐食してる…。


「長官ッ!」


「既に滅菌隊を出動させた

これ以上の犠牲は出ない」


「これ以上って…!

彼らは見捨てるって言うんですか!?」


「この地にいる人間がどういう者か

知らないわけでは無いだろう?」


「…。」


…長官の言っている事はわかる。

確かに、ここにいる人々は…。


「朝早くからご苦労だった

被害が出てしまったのは残念だが

仕事は終わりだ。また、連絡を入れ次第

ここに来てくれ、以上だ。」


「…はい」



-AM7:30 通路-


あれからDASTER出現の報告は無く

社内は静まり返っていた。平和な事は

良い事だ。だけど、何もする事が無いと

頭の中は嫌な記憶で充満する…。


「あんな酷い死に方…

助けられた命だったのに…」



「アンタは1日1回は悩まないと

生きていけないわけ?」


「カレンさん、なんで…!」


「なんで、手が届くハズの市民を

見殺しにしたんですか?決まってるじゃない

白都ここの人間に助ける義理が

無いからよ。知ってるハズよね

白都に住む人間のほとんどは国からの

援助が目的の、社会のクズだって事くらい」


「…ッ」


粗暴な言い方だけど…その通りだ。

白都は外の世界とは区分された

DASTERの出現する危険区域。

だが、国は白都に住む人々に

衣食住の確保と一定の給与金を約束した。

結果、外のホームレスや無職の人間は

こんな危険地帯に集まるようになった。

…だから、白都きけんくいきにいるのはそんな

社会的弱者とDASTERに恨みを持つ

破壊願望を持つ人だけだ…!


「NDSは民衆の安全確保じゃなく

DASTERの殲滅が優先すべき目的

他人の命を気にするのは命令違反よ」



「…はい」


命がけで戦ってるカレンさんに

これ以上、何か言える権限は

ボクには…無い。

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