処理する会社
長官から貰った鍵には番号が書いてあり
歩いていると見つかったので、早速
入ってみると、六畳間くらいの部屋が
二つ繋がったような部屋だった。察するに
ボクの部屋という事だろう。ただ、一つ
気になった事と言えば、そこら辺に
ジャージやら菓子類の開いた袋が
散乱している事である…。
「相部屋…かな?」
持って来た衣服等の荷物を
邪魔にならないよう隅に置き
思わず呟いてしまった。
「早速だが仕事だ」
「うぁッ!びっくりした…!」
気配も立てず長官がボクの肩に手を置いた。
背後に2mある人がいれば、誰でも
驚くよね…。
「DUSTERでは無いが、それの素が
発生した。すぐに指令室へ来い」
「は、はい…!」
DUSTERの素、て事はネダストか…。
DuとDUSTERの間のような
動くゴミという感じの物だったな…。
「あぁ、そうだ。制服を渡しておく
これを着ておけば、一目でオペレーターだと
周りが理解できるからな」
「あ、はい。ありがとうございます!」
長官がくれた制服は、制服と言うか
科学者の着る白衣と言った感じで
胸にNDSとだけ刺繍がされた
簡易的な物だった。今日、ここに
来るに当たってYシャツにネクタイを
締めてきたので、着てみると
それらしくお似合いだった。
-AM6:00 指令室-
自室より何倍も大きな指令室。
様々な機材や何十台ものモニター
それを逐一、確認している大勢の社員が
この部屋に集まっており入口に入った途端
ボクの緊張感は一気に高まる。
カメラ1つの映像でも、暗視映像や
サーモグラフィーで映されていたりと
監視に余念が無いのはよくわかる。
「4番モニターの席へ行ってくれ
おそらく、これからはそこがキミの
席になるだろう」
「了解しました…!」
言われた通り、背凭れに4と書かれた
席に座り映像を確認すると、日が沈んでいる
事もあり、通常のモニターでは見難いが
赤いマフラーが確認でき、カレンさんが
既に現場にいる事がわかる。ボクは急いで
マイク付きのヘッドホンを頭に填め
通信を始める。
「カレンさん、オペレーターに着きました」
『うっさい…黙ってて、邪魔』
…何と無く、言われると思っていたような
気がしたけど、まさか…ここまで
辛辣に言われるとは…
「あ、あのぉ…そっちは…」
『黙れって言ったら黙んのよね?』
「ぅ…」
的確にボクが見ているカメラ映像に
ガンを飛ばしてくるカレンさん…
そういえば言いましたっけね…
もっと適した取引をするべきだったなぁ…。
『ハ…ッ』
ボクが息を潜めていると、カレンさんは
淡々と指先から炎を出し、地面を這い回る
人の拳ぐらいの黒い物を焼き払っている。
通常モニターを介してだと、やや見難いが
あれがネダストだ。Duが生ゴミ等に
付着すると成る動くゴミ。DUSTERと違って
人間に直接な被害を出す物では無いのだが
ネダストを動物が摂取してしまうと
DUSTERに変質してしまう為、こまめに
除去しておく必要がある。
…しかし、白都ほど綺麗な街になぜ
こんな事態に陥るのだろうか。
「暇そうね」
「ぇあ!?すいません!」
『喋るな!』
突然、後ろから声を掛けられ
突き飛ばされたような衝撃が胸に来た…!
サボっているわけでは…。
「まぁ、カレンはあんまり
誰かと一緒に仕事するのは好きじゃないから
そうなるのも無理は無いけどね」
「はぁ…」
後ろを振り返ると、20代後半くらいで
ボクと同じような白衣姿の女性が
ポケットに手を突っ込んで立っていた。
この人を見るのは初めてなのだが
声はどこかで…あっ!
「今日、DUSTERが出た時
放送していた方ですよね?」
カレンさんを気遣い、ヘッドホンを外すと
小声で問いかけてみる。
「ええ、一応ここではオペレーターとか
放送とかの一番偉い役職よ」
「え!?」
「驚いた?」
「はい…とても…」
どうやら、現時点ボクの上司に当たる
人らしい。声もよく通る音で
何と無く緊張感を感じてしまう。
「聞き慣れない言葉だと思うけど
“視報長官”って言うの。あなたは視報官」
「長官…ですか」
「まぁ、長官と言っても上の下の役職よ
タダの長官よりは低いわ」
タダの長官って…。一番偉い人を
そんな風に言えるくらいな人なんだな…
「持ち場に戻れ…!」
「あら、見つかっちゃった。
暇ならカメラ切り替えて他の社員も
見てみるといいわよ、じゃね〜!」
長官の視線がこっちを睨むと
反省した様子も無く、室内上部の
持ち場に帰って行った視報長官…。
何をしに来たんだろ…。
「相変わらず、新人検査か?」
「フフッ、カレンと同じ感じがしたわ
何か心に抱えてるわね」
「そうか…。まぁ、覚えておく」
「あら、態度が悪いわね
もしかして信用してないの?」
「お前達3姉妹は頼りにはなるが
人間としてはどうかと思う」
「フフフッ…!
私はまだ良い方よ。三女はアレだけど
…次女は一番一般人よりね」
「知らん!」
「カメラ切り替えは…これか」
カレンさんは大丈夫そうだし
他の社員の人も見ておこう。
と言うか、やっぱり他の場所でも
戦ってるんだな…。
今、社員が映ってるカメラは
ボクが見ている1番と、あと4番・7番か。
じゃあ、4番に変えてみよう。
-4番カメラ-
『キッ…キシィィ…ッ』
『アハハハッ!』
「…!!」
なんだ、これは一体…!!
モニターには青黒いゼリーのような物に
絡まれ痙攣し、肉が焼けたような
音を出しながら解け始めているDUSTERが
映っていた。しかも、絡み付いている
ゼリーは少女のような声で高笑いを
しているのだ…!
『ふぅ…、はい、かんりょー…ァハハ!』
『カッ…ゥゥゥ…』
笑うゼリーはDUSTERから離れると
徐々に少女の姿に変わり、もう既に
黒いミンチと言える形に変わったDUSTERを
嘲笑った…。あ、そうだ…!これは“溶解”の
処理術…!毒液等をDUSTERに掛けて
徐々に毒殺する方法だ!でも、聞いた限りは
普通それは、手から毒液をかける方法だと
聞いていたけど…自分自身を水に変えて
DUSTERに絡み付く方法があったなんて…。
『あ〜…、クラクラしてきたぁ〜…ハハッ』
少女は頭を左右に揺らしながら
薄暗い夜道に消えていった…。
彼女の事は数秒見ただけだったが
カレンさんとは別の意味で恐怖を感じた…。
『D4地区にDUSTER.type-M全1体。
周囲に民間人反応無し。只今の外気の天候。
快晴・南東より風力1。警戒度2です。
只今NDS反応。社員ナンバー010アツシ』
またDUSTERが…!
D4地区と言うと、7番のカメラだ。
見てみよう。また何か発見があるかも
しれない。興味本位ではあるけれど…。
-7番カメラ-
『フアッ!』
『ガゴォッ!!』
7番カメラに写してみると猛々しい
気勢が耳に入った。でも、出煙無臭剤で
白くなっていて、全く状況がわからない…!
急ぎボクは暗視映像に切り替え、状況を
見直す。暗視映像は画面がハッキリするまで
やや時間が掛かる。それまでは、ただ画面を
凝視して待っているしかないけど、その時
ふとアツシという人はさっきの少女とも
カレンさんとも違う戦い方をしているんじゃ
ないかと思った。根拠としては
やはり、DUSTERの悲鳴の違いからだ。
『フンッ!』
『コッ…ココココッ!』
相手のDUSTERは大きめの鶏で、先程から
一方的に圧されているらしく、爛れた身体は
脊髄が曲がり頭部からは腐った血が
ダラダラと流れて、足取りも覚束ない。
対して、アツシという方はDUSTERに
近付いて戦っているが無傷。ボクよりも
年上のようで細身ながら筋骨隆々で
歌舞伎役者のような目力とスキンヘッドが
画面越しからでも恐ろしい。
『ハアッ!!』
『ギコッ…コッ…コッ…』
ボクが恐怖で唾を飲み込んだ次の瞬間には
鶏のDUSTERはプレス機に潰されたみたいに
血だまりになった…!これは…間違い無く
Sリングの力…!
「圧迫…!」
呟いてみると、現状の残酷な光景に
吐き気が込み上げてくる…!炎とか水とか
そう言う類じゃ無い現実的な力が
生々しい…!
『DUSTER殲滅完了。これより
滅菌隊が最終処理に向かいます。
…新たにDUSTER出現!』
「!!」
またDUSTERが!?
普通は、ゴミが路上に出る朝方に出る
時に出現する事が多いのに…こんな
人通りの無い時間帯にここまでDUSTERが
現れるなんて…!
『type-M牛型。出現場所はE1地区。
最短のNDS社員はナンバー034カレン。
担当のオペレーターは、直ちに現場に
急行するよう連絡してください』
あぁ…。こういうのって担当者が
伝えるものなんだ、当たり前か…。
気まずいな…でも、仕方無い…!
緊急事態での事ならカレンさんだって
わかってくれるハズ…!
「カレンさん…!」
『あ?』
どうしてそんなヘッドホン越しでも
わかるような殺意の出し方するんですか…?
本当に頑固な人だな、大丈夫だろうか?
「…E1地区にDUSTERが出ました。
そちらに向かって…」
『もう向かってるんだけど』
「…すいません」
『typeは?』
「あ、Mだそうです」
『あっそ。』
会話終了…。
カメラを切り替えてみると、カレンさんは
まるで忍者のように家々の屋根を蹴り
マフラーを靡かせ、現場に向かっている。
一体、どんな体をしているんだ…。
「あら、楽しくやってるじゃない」
「視報長官…本当にそう見えます?
冗談はやめてくださいよ」
「冗談じゃないわよ
現にカレンが通信を切っていないじゃない
キミが本当に嫌なら、とっくに
通信機の電源を切ってるわよ」
「あ…」
そう言われてみれば、カレンさん
ずっと繋いでいてくれてるし…そもそも
通信機を持って行ってくれてる。
はぁ…、良かった。本当に嫌われてる
わけじゃなかったんだ…。
『長官の命令。じゃなきゃ
新入りの話なんて聞かないわ』
「カ、カレンさん…!」
「あらやだ、聞いてたのね」
『アタシはアンタも嫌いよ…』
「フフッ…そういう事言われると
余計に構いたくなるわ」
『そういうところが嫌いなの…!
…E1地区に着いた。5…いや2分で片付ける
ナビゲートはいらない。見てなさい…』
「は、はい!」
『喋るな!』
『ギュゴカォオァ!?』
カレンさんの声と出煙無臭剤が
同時に叩きつけられて、画面は真っ白。
見ようにも見れませんよ…。DUSTERも
急な事で興奮状態に陥ってますし…。
本当に大丈夫ですか…?
『オオゴコッ…!!』
「やっぱり速いわねぇ。画面切り替える前に
終わらせちゃって、視報官の仕事殺しよ」
『はぁ…はぁ…ッ』
確かに速い…。1分も経ってないのに
あんな大型の牛DUSTERを黒焦げに
できるなんて、普通の火炎放射器でも
できないかもしれないのに…。
それに、カレンさんの顔色も良くない。
DUSTERに近づき過ぎたからかな…?
「一件落着ね。ハジメ君だっけ?
もう、部屋に帰って休んでいいわよ」
「え…あ、はい。でも、大丈夫ですか?
DUSTERがまた出てくるかもしれないのに」
「カレンは多分もう今日は戦えない
あっちが動けないのに、キミがいたって
仕方無いでしょう?」
「…そうですね」
「休むのも仕事よ。明日も何があるか
わかんないし、ほら、行きなさい」
「はい…お疲れ様です。失礼します」
ボクは椅子から立ち上がると一礼し
まだ働いている方達になるべく
気付かれないように、指令室を退室した。
-廊下-
「ふあ〜ぁ…」
よくよく考えてみれば、もう既に
日を跨いでいる。明日…と言うか
今日の朝からもDUSTERは出てくるかも…。
憂鬱だな…。何よりもカレンさんと
上手く話せるかどうかが…。
「嗅いだ事無い匂いぃ…!」
「…!」
「アハハ〜…!」
この人は…さっき画面で見たゼリーの…!
画面越しではわからなかったけど
水色の髪が毒々しい…。いつの間に
ボクの後ろに…!
「キミぃダレ?」
「今日から、所属した清代 一です…」
「ふぅ…ん、死んでもいい人、かな?」
「は…!?」
「ドロドロとグチャグチャ
どっちが好きぃ…?」
少女は呟くと、ボクに見せびらかすように
指先から水飴のような液体を出している…。
話がまるで読めない…!と言うより
話す気が無いんだ!彼女は今、遊び半分で
ボクを殺そうとしている…!
「顔を溶かしてのっぺらぼぉ〜…!」
「バカじゃない?」
「え…?」
おそらく強酸が粘り付いた手が
ボクの顔に伸ばされ始めた時、その手を
横から不意に現れたカレンさんが
掴み止めてくれた。掴み止めた衝撃で
少女の掌から酸の雫が舞い、廊下に落ちると
廊下は微かに凹み、煙を上げる。
「ダラダラと汚水を垂れ流して
耳障りな声を出すな。蒸発させるわよ」
「焦げた臭い…クサイ…」
睨み合っての悪言。互いの関係は
最悪みたいだ…。それにどっちも
冗談を言い合っているような感じじゃ無い。
邪魔なら容赦はしない…。本当に
そんな感じの雰囲気だ…!
「…新入り、行くわよ」
「え…あっ、はい!」
突然、雰囲気を壊したカレンさんに
腕を引っ張られ早足で連行される。
この場から早く去りたいように見える…。
-自室前-
「…あの」
「アレはヨウカ。人間だと思って
接しないほうが身のため。他の社員もそう。
この会社に人並みの心を持ったヤツなんて
誰もいないわ。アンタも時機にそうなる」
「え…?」
カレンさんは腕を引っ張ったまま
ボクに早口に言う。どういう事…?
人間らしい人間がいない…?
「ゴミみたいな生物が
生物みたいなゴミを叩き潰す…
それがこの会社よ。二度は言わないわ
この事に質問もしないで」
「カレンさん…」
カレンさんはボクの手を離すと
俯きながら鋭い眼光だけをボクに向け
ボクの部屋に入って行った…。
え…?入って行った!?
-自室-
「カレンさんと相部屋だったんですか!?」
「みたいね」
みたいね…って、相方同士なのかも
しれないけど…異性と共通の部屋って
いうのは如何なものですか?
「カレンさんは嫌じゃないんですか?」
「私は寝て起きるまでしか
部屋にはいない。だから、アンタと
関わる事が…増える事は無いわ」
どうやら、意に介してないようで
真紅のマフラーと漆黒のコート・ブーツを
その辺に脱ぎ捨てた。衣服は丁寧に
置きましょうよ…って言うか…え?
「カレンさん、上着の中
そんな感じだったんですね…」
ジャージ、腹巻、五本指靴下。真っ赤。
オッサンですかあなたは?仕事している時は
物凄く格好良かったのに…。容量を
生きる事に向け過ぎですよ。残念です。
「ふこぉ…」
そして寝るのが早い…!
フローリングの上で痛くないんですか…?
布団ありますよね、ここ。
…あ、あった。見た限り、一度も
広げられた形跡が無い。どれだけルーズ
なんですか…。ボクは広げて寝ますよ。
「では、また明日、お願いします…」
「ふこぉ…」
返事じゃ、無いですよね…。
わかってますよ。