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DUSTER  作者: 703
12/13

凡愚の手管

-A3地区-


「シャアッ!」


顔に向けて放たれた伸縮する腕を、

とっさに体勢を低くして躱す。頭上で空気が鳴った。

直撃すれば骨を砕く一撃。思い出すと肌が泡立つ。

筋肉が強張って、居ても立っても居られない。


「ふッ!」


右腕が伸びきる前に突進。丸く膨らんだ胴体を

思い切り蹴り飛ばす。当たった瞬間、猛烈な

反発力が体を跳ね返した。



「何をして…、いるのかなッ!?」


「ぐッ!」


硬いゴムのような体表と凄まじい筋繊維は

勢いの乗った一撃を容易に弾き返す。

ドクターは体を捻り、伸びた右腕を引き戻す。

とっさに反応したボクは地面を転がって離れる。

そして、たった今ボクがいた地面に右腕が

叩きつけられひび割れた。



「流石は戦士だ。判断能力は大したものだよ。

私も早く、この体に慣れなければね」



「ッ…ッ…」


視線を外さず立ち上がる。靄は徐々に薄れ始め、

呼吸も当初と比べ、断然し易くなっている。




「はァッ!」


「なるほど…!」


息を整える時間を削って再びボクは突進する。

相手の攻撃は大体わかった。攻撃方法は

ゴム状になった体を利用して、腕を伸ばしてくる

攻撃。一度発射されればその射程距離とスピードに

対応するのは難しい…。でも、逆に構える前後は

無防備…!ドクターもボクの考えに気付いたらしい。

だけど、その体じゃ機敏には動けない。

硬い体は面倒だけど、やり方はある…!



「くぁッ!」


「ぎッ…ゥゥゥククッ、ク…!!」


ボクは覆い被さるように頭に掴み掛かり、ドクターの

眼球を握り潰そうと右手を突き出す。

胴体と一体化している頭部は人間時と変わり無い…!

だから当然『目潰し』『首絞め』は通用する…!

どう思われようが知ったことか…!

この戦いに名誉なんて、無い…ッ!



「ぐぅッ、アァッ!!」


「うあッ!」


ドクターは痛みで体を激しく動かし、辺りを転がる。

危うく地面に挟まれそうになり、掴んだ頭を離す。

そのまま数秒、地面を転がり全身に鈍い痛みが来たが

体勢を整える。先程、まさぐった右手の指は体液と

血で濡れ、転がった拍子に地面のちりを貼り付けた。




「はぁ……はぁ…!まさか、キミがそんな野蛮な事を

してくるとは意外だったよ…。てっきり、英雄に

憧れた純朴な少年だと思っていたからね…」


「ッ…はぁ…。そんなもの!汚れたので少し昔に

捨ててしまいました…!こんな状況で綺麗に戦おうと

思う〝英雄〟なんて…どこにいるんですか!?」


思った事が口から出た。きっと今、ボクは

ヒドイ顔をしている。悪人のような。でも、

ボクは英雄じゃない。汚物を処理する、下人だ…。

だから今、戦ってるんだ…!



「そうか。私の認識が甘かったようだね…。善人と

戦っていると思っていたが…。私も、怪物と

戦っていると心に刻んでおこう…。

この傷と一緒にね…!」


血を垂らし充血した右目。傷は確かに負ったようだが

目は見開いている。完全に破壊することは

出来なかったようだ。次にチャンスがあれば

良いけど…。



「さぁ、次の手を見せてくれ!」


「ぅぐッ…!」


巨大な右手は容赦無くボクの足元を薙いだ。直前で

飛び退いたハズだったが、左足の対応が一瞬遅れ

かする。痛みは無いが勢い良く払われた事で

体制が一気に崩れ、右半身から地面に落とされた。


「カハッ…」


肺の空気が一気に押し出された…。そして、

その反動で死臭ごと空気を吸い込み、体だけでなく

内臓と脳が震えた。それでも、ドクターから目を

離さず見ると薙ぎ払った右腕が元に戻る前に、

こっちに跳躍している事がわかった。

乗し掛かるつもりか…!


「ぐっ!」


身の危険を理解した瞬間、夢中で両足を掻き回し、

左手を地面に引っ掛けて前方に跳んだ。

…再び地面に着いた時、ビリッと身に付けた白衣が

悲鳴を上げ、急に起きた風圧で更に前方に跳ぶ。



「プッ…、はぁ…」


「…避けられたか」



ドクターが跳んで来ていた。目の前が巨大な

ピンク色で埋め尽くされた。間近で見ると、まさに

心臓のような肉々しい姿で一瞬気圧された。ただ…

ドクターは今、完全にボクに背後を見せている。

嫌な事は、決定的な攻撃手段が無…。


「ごォッ…!?」


「余所見はいけないと思うよ、ハジメ君」


伸びていた…右腕…ッ!!時間差で飛んで来た…ッ。

起き上がる最中、後ろから頭…に………ッ!

ああ…ッ、ダメだ、脚に力が入らない。




「私も狙ってやったわけじゃないからねぇ…。

でも、まさにラッキーパンチだ。…ああ、鼻血を

出させてしまったね。ハハッ、申し訳ない」


「はぁッ…はぁッ……ふぅぅ…ッ」


膝を地面につけて、顔を抑えていた…。まるで、

信者が教会で祈りを捧げているような…ポーズだ。

ドクターの口数が多いのも…屈しているボクに

嗜虐心が刺激されているからだろう…ッ。



「そうやって、うずくまってるといいッ!!」



「うアアッ!!」



「グッ!?」


ドクターがボクを潰そうと腕を振り上げた瞬間、

てのひらに溜まった血を目に向かって放った!

顔には届かなかったが、一瞬、動きが止まる。

無我夢中で、ドクターの左側を駆け抜けた。

まだ少し血は出ていて体の動きは鈍いが…縮小した

ドクターの左手を交わす事は簡単だった。

後ろに抜けた時、尻目にドクターを見る。

振り上げた右腕を収めるのに手間取ったらしく、

ボクの方は見ていない。



「はぁッ…はぁッ…!」


一直線に市街地の方へ走っていた。逃げるわけじゃ

ない…!でも、ただ…ここで戦うのは無理だ…!

平地で死臭が残っている所じゃ勝ち目が無い…!



「ぺッ…!はぁ…はぁ…ッ…!」


残りの酸素量が少なくなった酸素凝縮紙を

吐き捨てた。新しい酸素凝縮紙を口に入れたいが…

ドクターと距離を離したい…ッ。今は…ダメだ!



「アアッ!!」


左前方から風と衝撃を感じた。ドクターがボクに

向けて右腕を伸ばして来た…!でも皮肉にも、

自分ダスターいた死臭のもやで少し離れたボクに狙いを

付ける事は出来ないみたいだ…!







-A5地区-


「はぁ…ッ、はぁッ…!!」


適当なビルの壁に身を隠した。この辺りの街は

死臭も無く建物も被害が無い…。でも、

所々で人は吐瀉物と一緒に倒れている。

…ボクは…嫌なくらいに運が良かったから生きてる。

たったそれだけの理由で生きている。無意味な

罪悪感がまた心を喰い始めた。




耳を澄ましているが、物音はしない。あんな巨大な

体が動くなら何かしらの音がするだろう。

…次に向かい合った時、どうするか…。そういえば

意思を持つ敵と戦うのは初めてだ。ドクターは

DUSTERとは違う。やろうと思えば、罠を張るし

隙を待って殺してくる…。それが硬い体で来るから

厄介だ…。



「ッ!…よし……」


Sリングが復活した。体温と呼吸が回復した

証拠だろう。まだ戦いで使用できないし、

リミッターも切れたままだ。しばらくは使えない。



「…………!…っ!?」


『カチッ…』とコンクリートに小石か何かが

落ちた音がした。その音に反応して

心臓が耳障りなほど拍動する。ボクの姿勢が無意識に

低くなり、蜥蜴トカゲのように目を見開いて

落ちて来た空を見る。



「落石注意だ」


「あっ!?ぐぁ…アッ!!」


ビルの上から軽やかな警告が、ビルを殴り砕く

音と共に聞こえた。警告を搔き消してビルの外壁が

砕け、生まれた瓦礫やパイプはボクの頭上に

何の抵抗無く落下する。



「ぁ…、くッ…!」


ドクターは恐らくボクが気付くそぶりを見せたから

やってきたんだろう。狙いが適当だった。

動く準備ができていたから、回避する事ができた。

次に何をして来るのか、中腰まで体勢を直して

ドクターを見る。ドクターの埋まった顔は

『やっぱりやるね』と言いたげな笑みだった。



「さて、行くよ!」


「ッ!!」


瓦礫以上の質量を持つドクターがビルから落下。

目算で5階以上あるだろう建物からの登場に

地面が悲鳴を上げ、コンクリートを撒き散らす。

咄嗟に腕で顔を守るが、欠片がいくつか体に当たり

鋭い痛みを感じた。


「本当はキミがもう少し狙い易い場所まで

来たら、落ちようと思ったんだけど運が良いね」



「…。」


ドクターとの距離は3mあるだろうか。思い切り

弾みを付ければ右腕でも体当たりでも繰り出せる

距離だろう。………ボクはそれに対して、やはり

避けて安全圏…いや、反撃できる場所に行かなきゃ

ならない。ドクターがボクをどこまでナメてるか。

…ボクが"どれだけ"出来ると思っているかに…

かかっている!



「同じ手は…ッ!」


左に回り込もうとしたボクに対し、ドクターは

右腕と同じく巨大化した左脚を伸ばした。

『同じ手は2度と通用しない』在り来たりだけど

当然の事だ。…だけど!


「ふッ!」


一直線に伸びる脚は軌道が読める。無理な動きだけど

攻撃が当たる直前で止まれば、足は伸び切る。

相手は…死に体だ!


「チッ!」


ドクターの舌打ちが左耳に入った。動揺を見逃さず

伸びた左脚を踏み台にして跳び、右拳を思い切り

顔に向かって、打つ!


「ガッ…くッ!」


狙いは完全ではなかったが、思い切り繰り出した

ボクの拳は、ドクターの左頬骨を打ち抜いた。

致命傷にはならない一撃。でも、ドクターの

『人間らしい』反応に手応えを感じた。


「ッ!」


その時、脚のすそに感触があった。見ると

ドクターの縮んだ左手がボクの脚を掴もうと

藻搔もがいていた。冷や汗が出た。…これ以上

この位置にいたら危険だ。すぐに地面に

着地し、崩れ落ちた瓦礫の中に身を隠した。




「…また、逃げたか。…まぁ、いい」



ドクターは落ち着きを取り戻し、辺りを

見回している。…ここまでの動きでわかったけど

ドクターは異形にはなったが、感覚は人間の時の

ままだ。視覚も、聴覚も人並み。強靭な身体を

しているが、痛みがあれば体が反応する。

…でも。



(さっき…いつのまにか、ボクが隠れている

ビルの上にいた。動いていた音は無かったから

探して見つけたわけじゃ無いのかも…。はっきり

ボクのいる場所がわかった…?)


何か引っかかった。相手は、ただ体の強靭な敵。

ではない…。単純に見えて、見えない所がある。

…とにかく、息を整えよう。Sリングが使えるまで

逃げ切らないと…。




-E5地区-


「完全に市街地戦になったみたいね」


「…真正面からは避けたが、どちらにしろマズいな」


「どういうこと?」


視報長官が持つタブレットには、ハジメの位置が

表示された地形図と監視カメラからの情報が

映し出され、二人は近況を理解していた。

長官はその様子を横目に、小さく溜息を吐く。



「テラスは脳にモニターのチップを入れている。

ハジメは恐らくそれに気付いていない。

テラスは間違い無くその隙を突いてくる」


「あのドクター、そんな事を…

なんとか伝えられない?」


「ハジメは通信機を持っていない。

直に伝えるしかないが…」


上部の人間しか知らないが、職員の名札や

Sリングには発信機が取り付けられている。

テラスは、それを瞬時に読み取れるように脳内に

受信チップを取り入れている。ハジメが逃げた今も、

その位置は当然知り得ており、既に居場所を特定し、

町を静かに移動していた。



「できるでしょ、それくらい」





-B1地区-


「…いただきます」


こんな時だけど、自分の空腹に気付いた。

思えば、今日はほとんど何も食べてない。

自分が今している事が良くない事だということは

理解しているが、無人の民家で食料棚から

すぐに食べられそうなパンや肉を頂いている。

食べながら外を見ると、既に日は落ちていた。

辺りは暗い。しかし、明かりをつけるのは

むざむざドクターに居場所を知らせる事と同じ。



「はぁ…」


少し空腹は満たせた。ここに来てから、肉を

食べる事は避けてた。…DUSTERが人を

捕食してるのを思い出すから。…だけど、結局

DUSTERも元々はボク達と同じ生き物だった。

…今にして思えば、おかしいのは……。


「不法侵入は白都でも犯罪だよォ!?ハジメ君ッ!」


「ガゥ…ッ!?」


ドクター…!?マズい…ッ、捕まれ…たッ!



「あッ、ああアァアアッ!!」


「やっと捕まえられた。ここまでやるとは

正直、最初は思ってなかった、よ!」



「ぅアッ!ッくゥ…ッ!がぁ…ゴホッ、ゴホッ…!」



床に叩きつけられた…ッ。

多分、肩の骨にヒビが入った…ッ。駄目だ。

死臭が直に入って呼吸も、できないッ。

体から、力が抜ける…。



「まぁ…少し残念に思ってるよハジメ君。

私もこの先長い命じゃない。君を殺した後は

白都の外で殺されるだろう。いやぁ…望めるなら

最後は白都で終わりたかったんだけどねぇ…」


だったら…ボクに殺されろよ…。この手を離して!

そうだ、そうなんだ!今にして思えば

おかしいのは最も人間らしい学者や上部だ…!

どうして生物の進化にこだわるんだ…ッ。

平和なまま止まっちゃいけないのか…よ。

何を、目指してるんだ………。



「何を、目指しているんだ………」


思ったことが口から血と一緒に漏れ出た。




「何を目指す…?それは、私の今後の事…いや

違うか。君が聞きたいのは、世界や人がどう

進んでいるのか。だろう。そうだね、端的に言えば

"神に至る"だ。方法は人それぞれだけどね」



神…………。やっぱり…人を度外視した考えか。

ここまで来ると、本当に理解できないな。



「さて、問答はお終いだ。さようならハジメ君。

お互い実験台としては頑張った方だと誇って良い」



「かッ…ァ!グググッ…ふッ…ぁあ…あッ」



最後に見るのが、最悪なヤツの足だなんて…ッ。

最悪だ……最悪だ…ッ!

………あれ、アレ…は………。




「くッがッああああああああッ!」


ああ………そういえば…なぜ……。

ボクの親をを殺したのか、聞くの……忘れてたな…。



「デカい声も見つけるためには役に立つわね」


「ッ!?バカな、カレ…グふッ!!」





「…?」


突然、窓が割れた。

隕石のように飛んで来た。

ドクターの顔が半分歪んだ。

赤いコートが霞んだ目に見えた。

掴まれた手の力が緩んだ。


「ぐむッ!?」


口の中にガムを入れられた。


「えッ…!?」


なぜか、白衣を破り捨てられ、思い切り

引き摺られた。







「新入りを確保した。物資がまだあるなら寄越して」


「カ…」


目が覚めたら、どこかのゴミ捨て場に

捨てられていた。そして、目の前には…。


「今、結構痛いのと全部終わってから死ぬほど

痛いの、どっちが良い?」


「カレンさん…」


カレンさんだ。心の底からホッと…


「痛ッいいいいい踏まな痛いいッああぁあッ!!」



「どっちが良いかって聞いてんだけど?」


「ああああッ後とととッ!!!」


「よし」



涙目に映ったのは、緑の液体が入った注射器だった。

ほんの少し、鋭い痛みがしたが、もう既に

死ぬほど体が痛く、虫が止まったようにしか

感じなかった。それに、なんだかバキバキと

体が鳴っているし、意識がハッキリしてくる…。



「う……ばはぁッ!…ケホッ、ケホッ…!?

あッ?…な……体が…ッ」


「本来、国で規制されてる戦闘用薬剤、らしい。

生きてさえいれば、身体の時間を巻き戻せるとか」


「ッ…巻き戻す!?」


「巻き戻した時間は約2時間。これから時間が

進む毎に傷も痛みも元に戻る。だから…」



「2時間以内に倒す…?」


「そ。まぁ、実際はその半分で終わらせないと

いろいろヤバいワケだけど」


「…。」


痛んだ体の時間を巻き戻す。信じられないが

実際に起きている。2時間前というと

G型と戦う前くらいの体か。確かに体は万全だ。

これなら戦える。



「ところで、カレンさんは、なぜここに?」


「お前があまりにも遅いから壁まで行って

同じ薬打ってここまで来たんだけど…!?」




…すみません。




「で、聞きたいんだけど、あの糞野郎バケモノは倒せる?」


「傷つける事は出来ました。でも…致命傷を

与えるのが難しいです。ドクターは、ただの

DUSTERじゃなく知性があります。こっちの動きを

読んで動きますし、直線的な攻撃はすぐに

対応してしまいます」


「オマケにSリングに発信機がついてるから、

私は使うことができない」


「え!?」


「アンタのは付いてない。ヨシノさんのは

旧式だから付けられてない」


「ああ…そうなんですか」



「新入り、Sリング寄越せ。私が消す

お前は壁のところに行け」


「…。」


カレンさんの手が座り込んだボクに出された。

だけど、その手はボクを立ち上がらせる為の

ものじゃない。




「………カレンさん…。死ぬかもしれませんが

お願いしたいことがあります」


「勝てる話じゃないなら蹴り飛ばすけど、なに?」



もう既に靴の裏が、顔に当たっている。

辺りは暗いけど、不服そうな顔が見えた気がした。



-B2地区-


「…やぁ、カレン。久しぶりだね」


「クソみたいな顔を3度も見させられると

流石に慣れるわ」


「急に元気になったね。………そうか。

"逆行薬"を使ったのか。あの会社の力を頼るとは

もう格好は選んでいられないか」


「お互いね」



「ハジメ君は?」


「死んだ気がする」


「そう」


新入りの考えは勝算がある。それに、少なくとも

虚は突ける。ただ、やるタイミングは完全に

アイツ任せ。それだけ心配だ。


「ふ…っ」


「おや、なんだかご機嫌じゃないか」



「…夜でこんな暗いのに、臭いでお前の位置が

よくわかると思った」


「……私もキミの位置がわかるよ」


「知るか、よ!」


そんな事は知っている。でも、それら今追求しない。

このゴミは私達が“Sリングに発信機が付いている事を知っている事”を知らない。



「相変わらず好戦的だね、キミはァ!!」


これが噂の伸びる手足か。気色悪い。少し前に

蛇型のゴミと戦った時のことを思い出す。

アレと違うのは、ゴミがもっと気持ち悪いことか。



「フッ!」


「くッ!」


伸びた手を脇に避けて炎を顔に直撃させた。

確かに反応がある。が、痛みは無いんだろうな…!


「リいぃ、アッ!!」


「ッく!」


伸び上がった右腕の付け根に蹴り上げを一撃。

…少し硬い、な。顔面以外は無理か。




「フアッ!」


「…ッ」


脇を抜けて後ろに回る。ついでに、腰にあたる部分を

押すように蹴る。ゴミの体勢がやや崩れ、

距離をとるには十分、時間を稼げた。




「…やっぱり、ハジメ君より強いね。キミは。

必死さは足りないけど」


「必死にならなくても勝てる」


「そうか…。でも、隙をついたなら

一撃で相手を燃やし尽くす。それがキミの

スタンスだろう?今のは悪手じゃないのかな?」



「…。」


本当なら今すぐにでも焼き払ってやりたい。

だけど、チャンスは1回しかない。『傷をつけた』

じゃ駄目だ。『痛手を負わせた』でも駄目だ。

それじゃあ、次に防がれる。それに、攻撃できる

場所も限られてる。今は腹から上しか手を出さない。

それより下は…。



「考え事かな!?」


「ッ…」


よく伸びる腕だ。本当に伸縮自在か。

しかも、自信を持って動いてる。

新入りとの戦闘で、体の特性に慣れたのか…!

全く、面倒臭い…!



「カッ!」


目眩めくらましにしかならないねぇッ!」


「チ…ッ」


多少の炎じゃ腕の一振りで消されるか…。

…新入りが手を出す前に燃料切れじゃ

様にならないぞ…。



「ハハハッ!防戦一方だねぇ!隠れてるハジメ君を

呼んだらどうだい?隠れているんだ、ろォッ!!」


「うッ!」


ゴミが腕を伸ばしたまま振り回した。私どころか

その辺の建物、倒れた死体まで構わず叩きのめす。

やはり、コイツは新入りの位置が掴めている!


「ソコダァッ!」


粗方、振り回した後、ビルの陰に向かって

殺す勢いで腕を伸ばした。狙いは的中。新入りを

掴んで引き戻す。




「!?」


新入りの白衣だけ、を。



「今だ新入り、殺れッ!!」


「ああああアァァああああッ!!」


「…………………ッ!!」



ボクはマンホールから走り抜け、ドクターの

足元にSリングの炎を叩き込んだ!






「イ……オイ!起きろ!」


「か……っ…」


また、こんな感じで目を覚ますのか…。



「ど…どぐだーは……?」


口がうまく動かない。酸欠になってるみたいだ。



「自分で見てみろ」


「…ッ…ッ……!?」


何とか、体を起こして周りをうかがう。

内臓やら腹筋がキリキリ痛んだ。多分、過労とか

さっき一瞬の酸欠で色々、無理なんだろう…。

それでも、何とかドクターを見ると、

…ボクの予想に漕ぎ着けたようだった。




「…キミには、派手にやられるねぇ…私…」


ドクターの下半身と長く伸びた右腕は醜く焦げ

消し飛んでいた。つまり…上手くいった。

ということだ。




-作戦決行前-



『………カレンさん…。死ぬかもしれませんが

お願いしたいことがあります』


『勝てる話じゃないなら蹴り飛ばすけど、なに?』



もう既に靴の裏が、顔に当たっている。

辺りは暗いけど、不服そうな顔が見えた気がした。



『ドクターには今、致命的なポイントがあります』


『…。』


カレンさんは無言でボクの言葉に耳を傾けている。

一応、聞く気はあるようだ。

…致命的なポイントというのは、ボクが

さっき、殺されかけた時。



『さて、問答はお終いだ。さようならハジメ君。

お互い実験台としては頑張った方だと誇って良い』



『かッ…ァ!グググッ…ふッ…ぁあ…あッ』



最後に見るのが、最悪なヤツの足だなんて…ッ。

最悪だ……最悪だ…ッ!

………あれ、アレ…は………。



『ボクが吐き捨てた、酸素凝縮紙が足に

張り付いています』


『そこを、お前のリミッターが切れた

Sリングで叩けば一撃で仕留められる、か』


『はい』


『まさか、最後の最後で囮になるとはね』





やはり、ヨシノさんのSリングに発信機が

付いていない事をドクターは知らなかったようだ。

探っていたのは、ボクの白衣に付いている

ネームプレートの発信機。だったら、それは

適当に捨てて置いて、地下から足を攻めるしか無い。


………胸を張れるような作戦じゃない。

英雄でもない凡人のボクの最善手をやっただけだ。

…それにまだ終わってない。………トドメを。




「はぁ…はぁ…」


「とどめを刺す前に聞いてほしい。聞いた後の方が

拳が鋭くなるだろうからね」


仰向けで倒れているドクターは、どこか

晴れ晴れとしていた。遊ぶだけ遊んで

暴れるだけ暴れたら、こんな顔をするのか。



「…。」


「私が君の父親を実験し、DUSTERを

進化させたのは"不死"を作り出すためだ」


恐らく、この人は今まで自分だけを信じて

生きてきたんだろう。他人のための復讐とか

誰かの過去を知りたいとか、そういう事に生きている

人とは真逆。ボク達とは真逆だ。



「私だけじゃない今この世界では力を持つものが完璧

な生命を創り出す事に取り憑かれているそれがなぜな

のか実際のところ私にもわからない神の啓示とでも

言うしかないだろうフフフッ…ハジメ君これから気を

つけたまえ大いなるものに不必要とされたものは必ず

排除される時が来る」





ドクターの最後の言葉だった。顔を掴まれ

焼け落とされては、もう喋れないだろう。

同時にボクの力も…完全に体から抜け出………た。

薬の…………………効果が………切れ………。

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