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DUSTER  作者: 703
11/13

出でる者

鼻という部分をこれほど不要と思えたのは、ざっと

3度目ほどだ…。今回のは、その中でも特出して

切り落としたいほどの不快だ…。



「ゴオオオオオオオ…ロロロッ…!」



巨大DUSTERが鳴いた。Gジャイアント型とでも名付けようか。

すでに両足は地面の拘束から離れ、腐った色の身体を

揺らしながら、ゾンビのように前進している。



「……ッ」


ボクはG型のすぐ後ろに控えている。死臭は

一段とキツイが踏み潰される事はない…。

もちろん、このまま大人しくしているわけじゃない。

…やっぱり、最初は酸素凝縮紙コレに頼るしかない…!



「…プッ!」


噛み潰して粘着性が出た柔らかい酸素凝縮紙は

狙い通りG型の左足に命中。これで4つ目…!

あと…ひと……っ、く…ッ!



「おッ…くぇ…カッ…!」


酸素凝縮紙で火力を強めたSリングの一撃なら、

足一本、破壊できると思う…!それで体勢を崩せば

カレンさんのいる心臓に手が届く!

でも、はぁ…ッ。空気を少しでも吸い込んだだけで

目眩がする。気を抜くと吐き気を止められない…。

なんとか出煙破臭剤で意識は取り止めてるけど

…終わりまで、耐えられるか…。




-E5地区-


「あと1分が限度だな」


「酷だけどね」


長官と既に壁まで引き返した視報長官が、遠目に

G型を見定めながら話す。目算した制限時間は

あくまで【処理した時刻】であり、腐散霧の起動は

それよりも十数秒早く行われる。



「…結局、NDSったなんだったのかしらね」


「死にたがりの、最終保護機関…か?」


「…参るわね。本当に」




- DUSTER G型-


「ッ!」


5つ目の酸素凝縮紙は縄のように伸ばし、

手に持ったままG型に投げつける。これで

G型に酸素凝縮紙は5つ。あとはコレに

点火すれば…ッ!


「うわッ…くッ!」


G型が左足を前に出した…。時間を掛け過ぎたか…!

思ったより力が強い、こんなに体が簡単に宙に

浮くなんて…ッ!それに、一歩の距離が大きい…。

…マズい!このままだと地面に落ちた時、

衝撃に耐えられない…!



「っ…!」




呆気ない。頭が真っ白だ…。

覚悟も固めてきたんだけど、なぁ…。

ああ、平凡な死だ。あと一歩で、でもない。

『よく頑張った』なんて誰からも言われない。

…………ボクらしいか。




ボクと母さんを残して消えた父さん………。




それでも細々と何も知らずに生きていた……。



ボクの目の前で母さんが死んだ…。


本当に走馬灯なんて流れるんだ………。



NDSに入った、カレンさんに会った。

DUSTERに恐怖した。人が当たり前に死んだ。

戦いたいと思った、ヨシノさんに教わった、

戦う力を手に入れたカレンさんの心を知った戦った

壊れた逃げた、逃げた…逃げれた、いつも…。

そういえば、誰かが守ってくれた…。

じゃあ、今回も?…誰が?



……いや、誰もいない。

そうか。誰も助けてくれない…。誰もいない。

誰もいないんだ…。




そうだ……やっと…ボクは逃げられない。




もう…逃げたくない。ボクが…やるんだ。

ここに来る前に決めたじゃないか…!


ボクがやるしかないじゃないかッ!!





「うおおおおおおおおおおあぁッ!!!」


我に帰った時、叫んでいた。今になって本気が、

体の底から出て来た。こんな酷いタイミングで。



「くッ!」


浮き上がったボクの目線の先はDUSTERの

腰辺りだった。宙を泳いでいる右手を伸ばした。

精一杯伸ばしてもDUSTERに届かない。

でも…届かせる方法はある…ッ!



「カ…ッ!」


ボクの口の中には自由に伸縮できる酸素凝縮紙が

入っている…!

命綱を作るために、生きるための命綱を手放すのは、

なんとも滑稽な気分だ。

もう酸素を体に取り込むすべは無い。無我夢中に

先端を伸ばした酸素凝縮紙は、幸運にもG型の

肋骨に張り付いた。



-E5地区-


「あと30秒で腐散霧を起動する。車に乗れ。

…白都ともこれでお別れだ」


腕時計を一瞥いちべつすると長官はケースごと運転席に

乗り込み、作業を始める。



「逃げるの早いかもよ?今、すっごい良いとこ」


「?」


視報長官は持っていた双眼鏡でDUSTERを見ていた。

たった今、DUSTERに無謀に特攻した新米社員の

末路を、面白そうに。



「…25」


車から降りることはしなかったが、もう一度

腕時計を確認。残り時間を呟く。




-DUSTER G型-


「あああああぁああぁあああああッ!!」


勇気を振り絞っているのか、死臭からくる苦痛なのか

DUSTERに繋がった酸素凝縮紙を握り締め、ボクは

その体に乗り移った。カレンさんのいる心臓まで

体三つ分…! DUSTERの体は意外に脆く、

鎧のようなゴミで覆われた皮膚は掴むと、泥のように

グニャリと潰れ、意識を遠ざける刺激臭を

煙のように出してくる。


「…ぅ……ぅ、ううああああああッ!!」


頭の中が燃えている。何かを考えられるほどの

知性は残ってない。今、自分が起きていて、感覚を

感じているのか、それとも意識を既に無くしていて

夢の中で被害妄想を見ているのか、

もう判断できなかった。だが…もし、起きているなら

…現実に働き掛けているなら。それを信じて

前に進むしかない。戦うしかない!


「ぐッ…かはッ、かはッ…アァあああァアアッ!!」


手が燃える感覚。手袋の亀裂が赤い。撃ち込む。

ボクの右手を…!聞こえる、耳元で…!

リミッターが外れたSリングが唸りを上げた。

てきは目の前、絶対に…外れないッ!




『グッ…ゴッ!?ココッオオオオ…ッ』




「15…」


残り15秒。轟くG型の叫び声。視線を移した時、

煌々と赤い焼印が汚物に穿たれた。




「かッ……あッ、うぅぅぅぅッ!!」


もう声も出ない。喉が張り裂けたみたいだ…。

でも………関係あるか。

無いだろ、そんなの……関係無いだろッ!!



「うおおおおおおおおおおおッ!!!」


やる事は頭より両腕がわかってる!

右手が刺さったら左手を、左手が刺さったら右手を!

右手が刺さったら左手!右手!左手!右ッ左ぃッ!!



『オオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

「おおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


目に写っている色は腐った色から赤色に変わった。

血が流れているように見えた。マグマが流れている

ようにも見えた。撃ち込む度、ガリガリとゴミの体が

悲鳴を上げている。だから、わかる…!!

終わりはもうすぐだ。もうすぐ終わる…ッ!!

ボクが、砕け散る前…………に……………………?




「ヵ………ッ……」


体の糸が切れたみたいだ。頭を後ろから

叩かれたみたいに鈍痛がする。

力が抜けた。力が抜ける理由は…ああそうか、探せば

簡単に思いついた。でも、認めたくはない…!

嘘だ…。なんで…なんで今…もうすぐ………勝…ッ。

ここまで……来たのに……。





「ぃゃ……だ」


情け無い。最後に泣き言しか出ないなんて…。







「よく頑張った、新入り」




声が聞こえた。姿は見えないけど、確かに

ボクの両手の間から…あの声が。



「ッ…。後は、任せろ」


「…ヵ」


ゴミの体を抉り、薄汚れた姿。でも、相変わらず

不機嫌で力強いカレンさんが現れた…。

ボクの声は出なかった。その代わり、涙が

情け無く溢れ出て、前がよく見えない。



「ッ!!」


その後、鋭い衝撃が体を貫いた。

…今までの経験上、推測するとカレンさんに

蹴り飛ばされたようだ。霞む目で上を見ると、

カレンさんは猫のようにゴミの体を跳ね、

頭上まで登って行った。




-E5地区-


「…ッ!…凄い執念ね。あの子達は」


「…。」


観戦する2人にも、その様子は見て取れた。

長官は主眼を腐散霧のケースから視線を外し、

G型に移し替える。カレンが脱出できたからといって

まだ問題は解決していない。しかし、何かを

悟ったようにカレンの一挙手一投足を見る。



「…そうね。本当に、ヨシノはこの事を

知ってたのかもしれないわね…」




-G型頭上-


赤い外套のNDSは高く跳び、異物を見下す。

考えればいつもの通りだ。いつもの通り彼女は

汚物を見下して蹂躙する。いつもなら両手の

兵器で焼却するだろう。しかし今のSリングは

沈黙している。彼女も焼き殺す気は見せない。

炎の少女は、元人間の博士の部屋にあったものを

巻き込まれる寸前に見つけた。それは、最愛の

人を送った薬『細胞解放剤』が入った瓶。

摂取したものを苦痛から解放する為、細胞を徐々に

分解し塵にする劇薬。それを、カレンはDUSTERに

投げ込んだ。



「忘れ物を贈ってやる。残さず地獄に持っていけ」



瓶はG型の口にあたる裂け目に流れ落ちた。





-G型 心臓付近-


「…!?」


両手が刺さったG型の体が緩くなってる…。

…いや、緩くなってるって言うよりも

消え始めている…?



「新入り、さっさと落ちろ」


「わ!?」


カレンさんはG型の体を滑りながら

地面に降りていった。猫みたいだ。

…って、言ってる場合じゃない。ボクも

早く降りない…と。


「うわッ…!」



襟首を引っ張られて息が詰まった。なんとか

後ろを見ると、カレンさんが引っ張り落として

いた。…感謝のつもりだろうか…。でも、これ

ボクこのまま地面に叩きつけられるんじゃ…?





「げぅッ!」


地面に叩きつけられる前に、道端に育つ植物の

苗に投げられた。背中が痛むが、ここまできて

死ななくて済んだらしい…。カレンさんは

流石な身のこなしで上手く着地していた。

今更だけど、どんな筋肉をしているのだろうか。



「…終わったんでしょうか?」


「…。」


まだ死臭やDUSTERから汚いもやは消えていないが、

あの巨大なDUSTERは消滅した。辺りは

風の音も無く、沈黙している。





…だから、一瞬油断した。






「がッ!?」


「カレンさんッ!?」


靄を切り裂く鞭のような腕。油断して狭くなった

視界の死角から突如、襲いかかってきた…!



「ふぅ…ふぅ…!」


打ち払われたカレンさんは息を荒げて

地面に倒れていた。打たれた腕は骨を砕かれたらしく

衝撃で震える体から独立したように沈黙している。

それでも、奇襲の一撃から位置を特定し、

視殺しそうな勢いで一点を見つめている。



「カレンさん…!」


ボロボロの白衣を脱いで、折られた腕を固定する。

カレンさんは抵抗しなかったが、小さな声で

ボクに要点を囁いた。


「…アイツまだ生きてる…。お前の後ろの方だ…。

まだ、ガムが残ってる…。持っていけ………」



右手で懐から酸素凝縮紙を取り出して、ボクの

胸に叩きつけた。…ボクに最後を託して

くれるみたいだ。体が限界なのか。また、気紛れか。


「一つ、噛んでいてください。それの酸素が

無くなる前には終わらせてきます」



ボクも酸素凝縮紙を一つ噛み締める。実際のところ

ボクに全く余裕は無い。手足は動くが、Sリングは

リミッターを外した副作用なのか。起動せず、

手袋も使った反動かギチギチに縮み、血の流れを

止めている。コンディションは最悪だ。





-A3地区-


「また会うとは思ってませんでしたよ。ドクター」


「ハハ…私もだ。ハジメ…君」


不思議と驚きはしなかった。なにせG型消滅すら

本当かどうか不明瞭だった。それに、ボク達を

苦しめた元凶が呆気なくやられるハズが無い。

それでもコレは『生き汚い』そんな言葉が似合う。


「カぁぁぁ…。フフフフ」



ドクターの姿はDUSTERと融合していた副作用か

赤く変色し、2mを超えるほどに巨大化していた。

しかし、長時間狭い所に居たかのように手足は

体にり込むほど折り畳まれ、丸く圧縮していた。

突起のように飛び出た左腕・右脚は子供のものの

ように小さく、逆に右腕・左脚は体の二倍ほど

長く伸びている。その姿を例えるなら…、

『心臓』というのが一番合っているだろう。



「意識があるんですか?」


「みたいだ…。実を言うと、今起きたところだよ。

研究室で自我を失った後…暗闇にいたが、

カレン君が細胞解放薬を使ったのかな…?

私からDUSTERの成分が分解されたようだ…。

まぁ…今でも化け物だがね」


ドクター自身もかなり衰弱しているのか、普段の

早口は無くなり、落ち着いた聞き取りやすい

穏やかな口調に変化している。初めてあった時から

一番接しやすい。…その姿にだけ目を瞑れば。



「ハジメ君…。キミはどうする?

すぐに私を殺すか?NDSらしく」


荒れ果てた荒野を細い目で見渡し、皮肉を呟く。

もうNDSなんてものはない。…貴方のせいで。



「いまだ、私の目は鋭くてね。当ててあげよう。

ハジメ君。キミは私を殺す事に躊躇いがある。

理由は…そうだね、討伐対象はDUSTERで

あったから、かな。裏を返すと、今の私のような

意識あるモノを殺して良いのかわからない。

…でも、さっきカレン君を叩きのめされた事や

市民やNDSが犠牲になった事には恨みがある。

その両端に苦しめられている。だろう?」



その通りだ…。実際、怒りは煮え滾るほどだ。

だが、人としての意識を持った相手を

手にかけて良いのか?ボクは人を守るために…


「殺せば良い。いつものように。

それが世のためだからね」


「っ…」


異形は諦観したように答えを放ってきた。



「キミ達が処分してきたDUSTERにも心はあった。

それが聞こえなかっただけでね。当然だろう?

元々、ただの動物だったんだから…」


「ぅ…ッ」



「私はすでに殺し合う心算こころづもりだよ。

自我を取り戻してもカレン君を傷付けたのは

化物となった私の決別だ…!覚悟を決めたまえ。

キミも道化せんしなら、最後まで役割しめいを果たせ!」


ドクターの目は憑き物が落ちたように

冴え渡っている。自分がどこにも戻れない事。

どこにも進めない事を理解した『敵』の目だ。



「…貴方とは付き合いも短かったから、今の心とか

言葉の意味とか、はっきり言ってわかりません…。

でも…倒さなきゃいけない事はわかりました!」


「それでいいんだ。白都ここは最初からそうさ。

見ず知らずの化物と戦士が殺し合う蠱惑こわくの都。

所詮これも、その延長線上だよ!」



見ず知らずの怪物が争い、その性能きけんせいを高める。

理に適ってる。理に適ってて………吐き気がする。

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