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DUSTER  作者: 703
1/13

炎の少女

急に辺りは爆発に巻き込まれたかのように

白煙が取り囲む。それに仰天した

腐った体のイヌの化物は

仰天し、金切り声を上げる。

その中にただ一人、黒いロングコートを纏い

紅いマフラーをなびかせた少女が

化物の前に現れ、両手を紅く輝かせる。




-現在より5分前-


ちり一つ無い潔癖けっぺきの孤立都市《白都はくと》。

ボクは今、その中で一番重要な会社に

足を踏み入れた。


「しばらくすれば、長官が来ます

それまでは静かに待っていてください」



係の人の案内で、ボクは薄暗い一室に

一人残された。この会社の中は

どこも薄いアルコールのような匂いがする。

流石は、最強の清掃団体と呼ばれる所だ。



「待たせたな」


「あ…、どうも」


ボクの背後の重い扉が開き、2m程ある

長身の男性が入って来る。間違い無く

この会社の長官だろう。


「とりあえず、我がNDSへ配属

感謝する。清代キヨシロ ハジメ

よく、こんな職場を志望したものだ

まだ高校生だろう?」


「少し前に決心を固めました

ここで出来る事が、ボクのやるべき事だと

気付いたので…」


そう、ボクは高校2年生に上がって

このNDSへ配属を希望し、試験を乗り越えて

やっと合格し、ここにいる。ボクにとって

ここは、それだけの苦労をする

価値のある場所だからだ。


「さて、幾つか質問をするが

キミは確か、試験当日に白都に

来たわけだが、この都市の現状を

知っているか?」


DUSTERダスター…ですよね?」


「そうだ。この都市に蔓延まんえんする汚染物

我々人類と敵対する者達だ」


DUSTERダスター、この白都に現れる

謎の汚染動物達。近年この国で発見された

Duダストニウムという化学物質が

もたらした害悪だ。Duは、名の通り腐った物や

ゴミに付着する性質があり、更にDuが

付着したゴミを食べた動物の脳を

数秒で破壊し本能の赴くままに暴れさせる。

ゴミに付着しなければ害は無いのが

さいわいだが、凶悪なものに間違いは無い。



「この白都はDUSTERの出現により

外縁に除菌壁を建設され、他国とは

隔絶している孤立都市だ。逃げ場は無い

それは覚悟しているか?」


「ええ…覚悟の上です」


話には聞いている…。この白都は

DUSTERを外に逃がさない為に

対DUSTER用の除菌液を練り込んだ

特殊な防御壁が、まるでホールの

屋根のように取り囲んでいる。

まさに、DUSTERの牢獄だ。それでも

人がここに住んでいるのは、国から

住んでいるだけで補助金や物資が貰える為

生活に困らない事と、NDSが

一定の評価を貰っているからだ。

…危険な職場だという事は理解している。

それに、ここまで来たら逃げる事は

出来ないという事もわかっている。



「そうか、なら詳しい説明を聞いて…

…いや、見てもらおうか」


「え…?」


長官が一度話を途切らせると

突然、室内に警報音が鳴り響く。

そして、側面の壁に設置されたモニターが

点き白都の一角の風景が現れる。そこには

例の汚染動物が現れていた…。



「リアルタイムで見るのは初めてだろう

まだ、中心街から離れているのが

救いと言えるな」


「…ッ」


なんと言い表せば良いのか…

モニターに現れているモノの姿を…。

断片的に言うなら…生皮を剥がされて

目や口が裂け、爪や内臓が丸出しになった

ゾンビのような…犬…。それが今、人気ひとけ

無い裏道の道路や壁を舐めながら

唾液を吐いてフラフラと歩いている…。

…見ていて気味が悪い、アレが…



「気分が悪いだろう、そう

アレがDUSTER。Duが付着したゴミを

口にした、元無害な生物の成れの果てだ」


手書きの資料でしか見た事が無かった…。

あんなに醜い化物が、この街に

確かに…いるんだ…。



『DUSTER.type-Mママル全1体。最短の

市民距離まで290m。只今の外気の天候。

快晴・無風。計測から死臭影響距離まで

40m、警戒度6です。』


会社全体にも警報の声が響いている。

DUSTERが一体現れただけで、まるで

災害が起きたみたいだ…。


「心配しなくていい

こちらにも腕利きはいる」


「え…?」



『DUSTER-typeMから直径30m地点に

NDS反応感知。社員ナンバー034カレン』



「カレン…嗅ぎつけるのが早いな」




『ワゴオォオァカカッ!!』


長官の声に釣られて一瞬、視線が外れた時

モニターには白煙が爆発したように

辺り一帯を白く塗りつぶした。それに

叫び声を上げるDUSTER…。その声も

金属を引っ掻いたような耳障りな音で

思わず鳥肌が立つ…!



出煙破臭剤ショックボール。周囲の臭いを

完全に押さえ付け、尚且つ人間の嗅覚を

麻痺させるDUSTER用の必需品だ

なぜ、必要なのかわかるか?」


長官は視線をモニターから外さず

ボクに問いかける。それくらいの答えは

知っている。なにせ、命に関わる事だ…。


「DUSTERは命に危険を及ぼす悪臭が出る…

確か、約50m離れた地点まで…

それの対策としての運用。更には、民間人に

DUSTERとNDSを直視させないようにする

煙幕として扱う…ですよね」


「資料通りの答えだ。その通り

DUSTERの第一の危険は死臭

対策していない状態で近距離で嗅げば

ショック死を起こす場合もある。それは

我々、NDSも同じ。出煙破臭剤は言わば

DUSTERと戦う場を作る為の物だ

だが、時間は限られている。持続時間は

大凡おおよそ3分。完全に死臭を

回避できる時間はその内1分だ」


詰まる所…時間との勝負。しかも

DUSTERが出煙破臭剤から逃げ出せば

被害は確実。確実に仕留められる

人材でなくてはいけない…ボクにそれが

できるだろうか…


出煙破臭剤ショックボール適用により映像を

暗視映像に切り替えます』


放送が再び流れて白煙だらけの映像から

白煙が除去され、その場の映像が現れた

見ると、DUSTERの前には、ボクと

同い年ぐらいの女の子が対峙している。



「よく見ていると良い

NDS若きホープの戦い方を」


「え…?」



『ガワオ!オッ!オッ!オッ!』


『クッチャ…ッ、クッチャ…ッ』


黒いブーツに暖パン、ロングコート

茶髪のポニーテール。そして、首に濃い

赤の長いマフラーを巻いたNDSの社員は

咀嚼そしゃく音を立ててガムを噛むと

DUSTERを見定めポケットに入れた

黒い手袋をめた手を外に出す。

すると、徐々に両手が紅くなり燃え盛る。

炎が…手から出ている。



「アレがDUSTER用2つ目の必需品

携帯型汚濁殲滅兵器、Sスイーパーリング

まぁ、これも知っているか」


「はい…」


だが、見るのは初めてだ…。特殊な

除菌薬が配合されたリストバンド型兵器…!

普通のゴミを廃棄するようにDUSTERを

滅菌するNDSの武器…!



『フッ!』


『ギャガオォアッ!!』


直後、少女の掌から紅蓮の炎が噴き出す。

DUSTERはそれに一瞬で反応し跳び上がる!

腐っても犬…DUSTERは痛覚等感覚が無い分

限界以上に体を酷使できる…!



『グゥガガ!!ガガガガッ!!』


今度はDUSTERが反撃を仕掛け

腐った体液を撒き散らしながら

剥き出しになった牙をギラつかせる!



『…ッ』


少女は反撃に対し、口に右手を当てると

横に跳躍し避ける。更に、DUSTERに

口に当てた手を叩き付けた…?

…なんでそんな事を、物理攻撃なんか

DUSTERには効かないハズ…。



「基本的な攻撃方法では

DUSTERを短時間で潰す事は出来無い」


「長官…?」


長官はモニターから視線を外し

一言呟く。まるで、勝った事を

確信したように…あ…!



『ギギャ!?』


DUSTERの背中と叩いた手が

白くて太い糸のようなもので

繋がれている、まるで蜘蛛の糸…!

というか、アレって噛んでたガム!?



「カレンの噛んでいたガムは

最近、実践に導入した酸素凝縮紙オキシガム

ガムの中に1㍑程の酸素が含まれており

噛めば口中に酸素が溢れる…そして」



『ギャッ…グゥガガ、ギッギィイイッ!!』


DUSTERの体に炎が燃えてる…!

しかも、暴れれば暴れる程、炎は

勢いを増している気がする…はッ…

そうか、ガムが炎を伝わせているんだ!


「酸素凝縮紙は可燃性で腐蝕した物に対し

高い粘着性を発揮する。カレンのような

焼却を扱う社員にとっては出煙破臭剤の中で

呼吸をするのと同時に良い導火線と

なりえるわけだ」


「道具の応用…」



『フッ!』


『ギオッ…ギョギョギオッ…!!』


徐々にDUSTERも動かなくなり

最後は、まさに焼却されたゴミの姿に

成り果てた。



『DUSTER焼却確認。暗視モード解除

死体隔離の為、これより2分内に

滅菌隊が現場に向かいます』


「DUSTERを仕留めれば、あとは

滅菌隊が掃除に行く。たとえ死体でも

Duが染み込んだゴミは危険だ

また、別の動物が口にしDUSTERを

生み出す原因にもなりかねない」


「なるほど…」


モニターを見ると、カレン…さんは

白い吐息を吹きながら、人知れず

その場から歩き出した…。その様子は

淡々として、DUSTERを殺す機械のようだと

まだ会いもしていないのに彼女を

印象付けてしまった。



「さて…、いいか?」


「ハ、ハイ!」


ボクがモニターを凝縮していると

長官が注意を引き戻す。そういえば

まだ、最終面接の途中だった…。


「あれが、DUSTERとの戦いだ

大変なものだとはわかっただろう」


「はい…」


「キミは学術試験で不備な点は無いが

体力試験では…やや問題がある

今、DUSTERと戦えば死ぬだろう」


「う…ッ」


わかっている…。昔から運動は苦手だ。

さっきの映像を見る前までは

自分の力量がわからなかったが

長官の言う通り、今ボクが前線におもむけば

DUSTERの一撃を避ける事も出来ず

死体というゴミを1つ増やしてしまう事に

なるのだろう…。



「そこでだ。キミのような人材には

前線で戦うより、戦っている者の

オペレーターをやってほしいと考えている」


「オペレーター…?」


「そうだ。現場にいる職員は出煙破臭剤が

視覚機器に悪影響を及ぼす関係上

我々が先程見ていたような暗視映像で

周りを見る事が出来ない。よって

本社から通信機器で戦っている者に

現状を伝える仕事もある、キミに

合いそうな仕事だと私は思うが…」


「わかりました…なら

その、オペレーターと言う仕事を

やらせて頂きたいです!」


「そうか、ならキミにオペレーターを

してもらう相方を紹介しよう」


良かった…。とりあえず

すぐに死ぬ事は無さそうだ…

でも、それならそうで、組む人とは

しっかり会っておかなきゃ…




「彼が今後、オペレーターになる清代 一だ」


「お願いします!」


「いらない」


ボクの相方ってカレンさん!?

しかも今、冷たい目で断られたけど!?



「私は1人で戦える。逆に初心者と組んだら

こっちが死ぬ破目になるわ」


カレンさんの視線が突き刺さる…

そうだ、ナビゲートする方がダメなら

戦っている方が死ぬんだから…。


「指示を待って動いてたら遅くなる

私はDUSTERを1秒でも早く潰したいの

…知ってるわよね!?」


「…そうだったな、忘れていた

それなら、無理強いは…」


「あの…ッ!」


長官の目が諦めた目付きになった…

このままじゃ、もしかしたら

何もせずに、ここにいられなくなる

かもしれない…!それだけは絶対ダメだ!


「ボクの指示を聞かなくてもいいです!

命を懸けているのは…その、カレンさんな

わけですし…。でも、本当に…これは

申し訳ないですけど、ボクを立場上

あなたのオペレーターにしてください!

黙れと言われたら黙りますから!!」


「…。」



ボクは何を言ってるんだろう…。

初対面の人に、こんな厚かましくして

頭を下げて大きな声を出すなんて…

でも、食い下がんなきゃ…!

ボクは、ここに入らなきゃならないんだ!!




「…勝手にすれば」


「え…?」


目を向けた時には、もうカレンさんは

背中を向けて歩き出していたけど

確かに…言われたよね…?


「カレンは見ての通りの問題児だ

燃やされないようにな」


長官は、呆れたように言い残すと

鍵を1つボクに握らせ、歩き出した。

…どうやら、一応、ボクは役職に

就く事が出来たらしい…。




-長官室-


『久しぶりね。こんな機会が無ければ

アンタと会う事も無くなるけどね』


「相変わらず偉そうな態度だな

警視庁に雲隠れして楽をするのが

そんなに楽しいか?」


『掃除係よりは楽しいわ』


電子タブレットを持った女性のホログラムに

悪態を吐かれ、溜息を吐く長官。

…すると


『で、アレが新しい種族ですって

眼力で戦うらしいわよ』


「人外まで集まってきたか…」


巨大なモニターには緑の眼光を輝かせる

少年が映され、DUSTERとは違う

異形の化物と戦っている。


『このショーが終わった後、大元の

社長から話があるそうよ』


「何にせよ、NDSには関係無い

早々に終わらせて業務に戻る」


長官は異種族の戦いにも

興味を示さず、あくまで自分の業務を

優先させる。つまり、他のメンバーと

変わり無いという事だ。



「また、面倒な新人が入ったからな

私の会社は、内にも外にも面倒が多い」


電子タブレットを取り出し

清代 一の情報を開き、眉間にしわを寄せる。

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