鏡の少年[#1]
「こんちーすっ」
と部室の扉を開ける。
「誰もいないって」
「あたし達しかいないわよねぇ。しかもこんにちはの時間じゃないわ」
当然ながら誰もいない。わかっている。
今は朝の7時。SHRが始まるかなり前だ。
入学して3日目。
わかっていながら、挨拶して入る。
「流石部長って感じ」
オカ研部の長は津久和屋瑠唯である。
本人に言わせるとなんの特徴もない部長だとのこと。
あぁ、1つ上げるとするなら視えること。長所でも短所でもなんでもない。誇れるものでもない。
はじめの挨拶は瑠唯のもので、次に沽榴、麻里凪の順だ。
紀月沽榴。
オレの1番の仲で、可愛く優しい少年。身長はオレより少し高いくらい。とにかく言わせていただこう、可愛い。
家が近く、学校も同じな為、小中高と登下校を共にしている。
オカ研の会計。
副部長は四櫛 麻里凪。
かなり大人っぽい。こいつ本当に高校生かってほど色っぽく大人びている。身長はオレらより高く、少し見上げる形になる。長い髪が綺麗だ。いや本当にこいつ高校生か?
「まぁいいじゃん。じゃーざっと今後の方針はなそーか」
椅子を出して座りながら告げる。
部長、副部長、会計の3人で少し話し合おうと言うことで、みな同じクラスだからクラスで話すことも出来たのだが、他に人がいないとも限らないし、折角だから部室で、となった。
「部室の装飾とかは?」
「いいんじゃない装飾なんかしなくてー、好きなもん持ち込めばいいよ」
「相談とかは受けるの?」
「受けるなら尚更、装飾なんてやめた方がいい」
「じゃー装飾なしで……完全紹介制でいけば良いんじゃない?」
「校内でーとかの前に、身内で……僕たちがそういう問題解決出来るかどうか確かめてからじゃないと」
「そうだなぁ……あ」
『今でも時々、起こるんです、怪奇現象……どうか解決出来ませんか?』
部員の1人の言葉を思いだした。
「1人いるわ。怪奇現象に困ってる身内」
と、いうわけで放課後。
「黒板に書いてあるの見てくれたと思うけど」
SHR前の話し合いでの意見を黒板に書いておいた。それを見るように、とあらかじめ伝えてあったのだ。
守屋が頷く。
それを見て、守屋の差し入れであるクッキーを食べながら、言葉を続ける。
「今日は初活動ってなわけで、自己紹介の後、守屋の体験した怪奇現象のことを聞きたいなって」
「あーはい。わかりました」
守屋海斗。とある騒動でオカ研のことを聞き、興味があった為入部。沽榴より背は高い。しかし麻里凪より低い。
そしてオカルト的体験をしたという。去年からずっと怪奇現象が続いているようだ。
沽榴が珈琲を淹れて全員の前に置く。
「ありがと沽榴」
とりあえず、自己紹介をすることにする。
「津久和屋瑠唯。F組。長やらせてもらいます。元中とかは言わなくていいよねってことで。えーと、一応、視える。話せる。長所でも短所でもないこれが、役に立てばいいんだけど」
「副部長の四櫛麻里凪よ。瑠唯と同中同クラス。視えるし、同じ高校受験したしってことで部長から入らないかって誘われましたーてなわけでここにいます、よろしくー」
「会計やらせてもらいます、紀月沽榴です。瑠唯と麻里凪と同中同クラス。瑠唯とは家も近いです。視えないけど、オカルトは昔から好きだったんだ。よろしくね」
守屋の挨拶最後ねーってことで次は問題児である零雨の挨拶だ。
「天草零雨です!瑠唯と同中。だからここ4人は元からの知り合い♪視えないけど、オカルト大好きなのっそこの本も全部私の!オカ知識なら任せてね☆」
オカ研で1番のうるささだろうな。霊も逃げる。
零雨が着席したのを見て守屋が立つ。
「えーと、守屋海斗です。視えませんが、祖母がオカルト体験者で興味を持ちました。よく話をしてくれるんです。霊感とかそんなに強くなかったみたいだけど……いろんな人の問題解決してました。今はもういないんですけどね。えっと、よろしくです」
入学して2日目の朝に入学届けを出してきた奴。
馬鹿零雨の騒ぎを聞いて、オカ研のことを知ったそうだ。
因みにB組。担任が顧問だ。
零雨はA組である。
零雨と顧問である吉澤先生は前からの知り合いらしく、廊下で会った時抱きついたらしい。さらにオカ研のことも口にし、吉澤と少し話していたようだ。
その時には顧問になると言わなかったらしいが……後で顧問が吉澤だと言ったら喜んでいた。
それで零雨はA.B.C組間で有名人。
吉澤はBの担任であるのだから海斗が知らないわけがない。
この騒動で守屋はオカ研のことを知り、オカ研に興味を持ち、もし解決出来るなら、と入部を決めた、らしい。
「となわけで今日は海斗お客さんね」
自己紹介も済み、全員ファーストネームで呼び合うことに決め、そう告げた。
5人の自己紹介と簡単な質疑応答をし、今日のメインに移る。
「はい。オカ研の為になって怪奇現象が完全になくなるなら、協力します」
「ありがと。じゃーさ。完全客になって貰っていいかね?客観的に物事を見て欲しい」
「はい」
「じゃはじめようか。海斗の自己紹介からで。扉開けるとこからやらなくてもいいっしょ」
「はい……えっと、1年B組の守屋 海斗と言います。結構前からの……怪奇現象の相談で、来ました」
守屋を"客人席"に座らせ、その前に机を挟んで真ん中に瑠唯、左隣に麻里凪、その隣に零雨、右隣に沽榴が座っている。
相談者が来た時に必ず全員集まれるとは思わないが、いる時はこの配置でいく。
「どのくらい前からか、覚えてる?」
「あ、はい。6年前です。10歳の夏からです」
「小学4年?」
「あ、そうですね」
「で、その怪奇現象とやらはどんなものなの?」
一口珈琲を飲んで喉を湿らせてから海斗が言葉を紡ぐ。
「怪奇現象、と先程から言ってますが、そう呼んでいいものなのか……よくわかないのですが……」
頷き先を促す。
「家にある鏡に、俺以外の何者かが写るんです」
祖母からもらった姿見に、黒い影の少年が写るのだという。
それは普段は写ってなくて、守屋が部屋でその鏡に姿を写している時に守屋の背中に黒い影が写るのだそうだ。
その姿見限定で。
最近は影が濃くなって来ているらしく、部屋にいてもなにかの気配を感じるのだそう。
守屋は、視えない。
「結構気に入ってる姿見で……部屋から外したくはないんです。だけどあいつがいると部屋にいるのも結構辛くて……というか、怖くて……どうにか出来ますか?」
「危害を加えられたことはあるの?」
麻里凪が聞いた。
「ないです。ない、といっていいと思います。そこにいるだけなんです。でもやっぱ、怖いし、なんとなく辛くて」
「その鏡にだけってことはその鏡になんか憑いてるんだろうな……」
「どうにか出来ます……?」
「外したくはない、けどそいつは追い払いたい、と。とりあえず実物を見てみないとね。それは可能?」
「あ、はい大丈夫です。今からでも」
と守屋は立ち上がった。
「わかった。じゃ見せてもらうとしますか。2人はどうする?」
「あたしに拒否権ないのねー」
今のオカ研で視えるのは瑠唯と麻里凪の2人だけだ。
零雨、沽榴は見ることが出来ない。
となると当然、麻里凪には付いて来てもらわないと困る。
幽霊といっても元は同じ人間。
相性の良し悪しがある。1人の意見できっぱりと決めることは出来ないのだ。
あとは波長の問題でよく視えたり、視えなかったりする。
「麻里凪は視えるからね」
「僕は付いていくよ」
「私もいくーっ」
というわけで部員全員で海斗の家に行くことになった。
「こちらです。今はたぶん両親仕事中で家にいないので大丈夫かと」
高校から歩いて15分。
「ほー大きいね」
大きな一軒家。
「うち、兄弟多いんで。俺4人目なんですよ」
「へぇー、下には何人?」
零雨が家を見上げながら聞いた。
「6人います。1番下が小学生2年で」
海斗がそれに答えた。
そして玄関を開け、中に入る。それに続く。
「そーゆー話はいいから……麻里凪」
「えぇ、すっごく感じてるわ」
「え、ここからですか……?俺の部屋、奥にあるんすけど……」
頷き麻里凪が言う。
「かなり強力な感じね。恨みとかじゃなさそうだけど……離れられない……なにが縛り付けてるのかしら」
「この家にはなにもないな……やはり鏡か」
守屋の案内で部屋に行く。
かなり強力なもののようで、肌にピリピリ来る。
「あたし、こーゆー子無理」
部屋の前で麻里凪が呟いた。
「結構きついな……開けるぞ」
守屋の部屋の扉を開ける。
「うっわ……」
「え、え、そんなにやばいやつなんですか」
麻里凪の反応を見て守屋が問う。
麻里凪が頷き、瑠唯が発言する。
「やばいってか何人かいるよこれ……1人1人はそこまで強くない……あ、なんかすっごい子いる。あれだろうね影」
「はっきりしてるわねぇ……」
部屋の中に入り、鏡をよく見る。
「鏡に、と言うか……」
麻里凪が部屋を見回しながら言った。
「この部屋になんかありそうだな」
後を瑠唯が引き取る。
闇が溜まっているというか……この部屋に彷徨ってる奴らが集まって来ているというか……10人くらいは、いる。
その中で1番強い子が鏡の側にいた。何人かは宙を飛び、何かを呟いていて、何人かは部屋をぐるぐると回っている。
鏡をじっくりと見て、瑠唯は守屋の方を向いた。
「ちょっとさぁ、この鏡借りてもいい?」