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影無高校オカ研部!  作者: 宮居 莉雨奈
オカ研部始動!
2/18

プロローグ

中学3年生。冬。いや、3月だから春、と言ってもいいのか。

三神(みかみ)中学、卒業式。

無事に進路も決まり、中学最後のイベント。

津久和屋(つくおや) 瑠唯(るい)は現在体育館外で同級生と待機中だ。

にしても寒い。

部活、体育等で3年間使わせて頂いた体育館。中は暖かくなっていることだろう。じゃなければ困る。

雪国で、暖房は必須だ。

体育館なんかはすごく冷える。暖房が入ってなかったら凍え死ぬんじゃないか。

「さーむーいー」

小さい声で呟いた。前にいた子に聞こえたらしい。同意の声が聞こえた。

「おい、るーい」

後ろから呼ぶ声が聞こえた。

「ん?」

沽榴(こりう)が、後で話があるからってよ」

割と仲のいい男子が伝えてくれる。

「あ、おーらい。ありがと」

片手を上げ、グットのサインを出し下ろす。

「さぁ!卒業生静かにっ!」

先生の声が飛ぶ。

やっと動き出した。卒業生入場だ。


「あー、長かった。お疲れさまー」

「あ、ね、写真撮ろう!」

「ねー、待ってよー。もう少しゆっくりしよーよ」

卒業式が終わり、校舎前。

雪も積もり寒いのに、殆どの生徒、職員がその場にいる。

「これでお別れとかやだよー」

「あたしもだよぉぉぉ」

抱き合って泣いてる女子生徒。

「絶対、また会おうな」

「俺たちの友情は永久不滅!!」

と誓い合う男子生徒。

そんなのを見ながら瑠唯は校門の方へ歩いて行く。

「るーいっっっ!」

この声は、

零雨(れいう)か……なに?」

飛びつかれる前に、振り向き距離を取る。

「逃げないでよ……」

空を切った腕を下ろして零雨が言う。

天草(あまくさ) 零雨(れいう)

この中学で知り合い、1年時に同じクラス、同じ部活だったことで仲良くなった。

正直、なんで仲良くなれたのかわからない。

タイプが違う。うん。正反対。

趣味等々、合った試しがない。

だからこそ、なのかもしれないが……

「いーからっそれより要件は?」

「え、う……。写真撮ろうかと、思って」

カメラを持ち上げ言う。

「写真嫌いにカメラ見せるとか……撮らない」

「沽榴とは撮るのに私とは撮ってくれないのー?」

「沽榴とも撮ってませんしー」

後で話がある、と言っていた、男子。

小学からの付き合いだ。

1番仲がいいと言っていいだろう。家も近く、昔からよく会って遊んだ。

「後から撮るんでしょーっもう!」

校舎の方を向いて、

「こことも、お別れだね」

と。そう言って去る。

「そうだな」

その背中に小さく瑠唯は呟いた。


校門をくぐり、校舎の方を向いて一礼する。

「珍しいね」

少し歩くと聞きなれた声が聞こえた。

「残ってたの?」

沽榴だ。

紀月(きづき)沽榴(こりう)。前述の通り小学からの仲。

オレがこの街に引っ越してきて、小学に入った時同じクラスで、帰りに家が近いことを知った。それから沽榴は、仲良くしてくれて毎日の登下校を共にしている。

家が近いから中学校も当然同じで、高校も同じところに入学するとのこと。

「ここで待ってたの?」

「うん、中の騒がしいの嫌いだし。話もあるし、一緒に帰りたかったし」

ニコっと微笑む。

可愛い弟みたいだ。152の瑠唯と身長はそんなに変わらない。そして女子力が異様に高い。

とにかく言わせてもらう、可愛い。

「可愛いなーもうっ」

瑠唯は口に出し、沽榴の頭を撫でてやってる。

2人寄り添って歩き出す。静かな住宅街。

「可愛いは僕にとって褒め言葉じゃないよー……それより、さ」

「うん?」

少し頭を下に向け、沽榴が言葉を紡ぐ。

「これからも、さ。一緒に登下校してくれる?」

「え、勿論。沽榴、オカ研に入ってくれるんだよね?」

「うん、瑠唯の作る部活だもん。入りたい」

「なら、これからも登下校一緒にしよっ」

沽榴の顔を覗いて瑠唯は言う。

「……ありがとう」

頭をわしゃわしゃとしてやる。

「あとさ……入学したら、あの日の約束……」

顔を赤くして、沽榴が言う。先ほどより声が小さいのは気のせいか。

「ん……覚えてるよ。勿論、守る」

「なら……いいの。ありがとねっ」

顔を上げて言った。

因みに、仲が良いと言っても"まだ"付き合っていない。

別れる辛さを知っているから……

「ちゃんと、言ってくれたらね」

小さく呟いた。声は聞こえたのだろうか。



他より少し長い春休みはもうそろそろ終わりを告げようとしている。

入学式前日、沽榴から呼び出され、一緒に出かけることになった瑠唯は普段どうりの格好で外に出る。

「高校生になる前の、最後の思い出作り」

開口一番そう言った。

「とっておきの場所があるんだ。パン買って、行こ?」

何処に行くかは言わされてなかった。とりあえず家前の公園に来てくれとのことだったのだ。

「沽榴のとっておきかぁ……楽しみ」

「ふふ。瑠唯、あそこのパン好きだったよね。買って行こ」

公園近くのパン屋。

「1回しか行ってないのによく覚えてるねー。うんっ買ってく」

「瑠唯のことならなんでも覚えてるよ♪」

可愛い笑顔を向けて来た。

………ほんと、可愛い。

頭をわしゃわしゃとする。2人とも笑顔だ。

そんな2人はパン屋へ向けて歩き出す。


「安くて美味しいっていいよねー」

「そうだね。瑠唯、この前もそれ買ってた」

「定番メニューっ!」

「ふふ、そっか。じゃ、行こ」

沽榴が手を差し出す。

それを取って繋ぐ。そして歩き出した。

暫く春休み中の話をして

「ここの階段上がるよー」

と沽榴が指を指した。

段数を数えながら上がる。

47段だった。沽榴に報告する。

「数えたんだー。にしても区切り悪いね」

と返ってきた。

さて、47段を登り切った先に広がっていた景色は、と言うと。

「あっち。瑠唯の好きな景色が広がるはずだよ」

夕日に照らされる丘の上。小さな公園のようだ。

「ごめんね、嫌いな夕日見せて……でも、見て」

顔を下に向け、沽榴に腕引かれながら移動する。

ベンチに座り、顔を上げた。

そこには、漆黒の闇が広がっていた。

「綺麗……」

星と漆黒が広がる空。

「言うと思った。この空、見せたかったんだ」

夕日、夕方は嫌いだ。

狭間の刻が嫌いなのだ。

好きなのは暗い夜の時間。

今、目の前に広がっているのは、公園に植えられてる木々のおかげで陽が遮られ、一足先に楽しめる綺麗な夜の空。

肩に頭を傾けて

「ありがと、沽榴」

と瑠唯が呟く。

「どういたしまして。もう少し暗くなったら降りようか。さ、パン食べよ」

パンの入ってる袋を持ち上げ言う。

「うむっメロンパン!」

袋を漁って、1番好きなパンを取り出す。

かぶりつく。

沽榴が見つめていた。

「なに?食べんの?」

あんぱんを持ったまま、こちらを見つめそれを食べない沽榴を見て言う。

「いやぁ……瑠唯が可愛くて……」

「………」

少し、顔が赤くなるのがわかった。

なんの反応も返さず、またメロンパンにかぶりつく。

沽榴が笑っているのが、見えた。


「陽、沈んだねー、そろそろ降りようか」

買ってきたパンを食べ尽くし、闇がさらに濃くなった頃。沽榴が言った。

手を繋いで47段降りる。

「ありがとね、沽榴」

もう一度、呟いた。




「明日、入学式だね。楽しみ」

瑠唯家の前、小さな公園のベンチに座って、沽榴が言った。もう少し話したいとのことで公園に来たのだ。

沽榴の家はもう少し先だ。

「そうだね。早く部室が欲しい!」

「瑠唯は部活のことばっかりだね」

「高校でオカ研だよ!素晴らしいじゃん。絶対楽しくなるって」

「僕は瑠唯となら、なんだって楽しいよ」

顔を少し赤らめて沽榴は言う。

そんな沽榴の頭を撫でてやる。嬉しそうにした。

……可愛い。

「じゃ、そろそろお開きにしよう」

設置されてる時計の針を見て立ち上がり言う。

「うん、明日の準備もしないとだし。あ、今日くらいちゃんと寝るんだよ?」

「寝れたらいいねー。じゃまたあした」

「またあした」


明日は影無(かげな)高校入学式。

新しい環境での、新しい生活が始まる──

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