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壁の向こうのB  作者: カカオ
第1章
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追撃の大名行列

 眼鏡男に手を引かれる小鈴は、いつの間にか自分の周囲を一緒に歩く男たちに気付いた。

 全部で七人もいる。

 揃いも揃って屈強そうで、不穏な空気をまき散らしている。

 まるで小鈴と眼鏡男を柵で囲むかのように歩みを進めている。

「あ、あの、このとっても強そうな人たちはいったい……」

「安心して、僕の仲間だから。ガードマンだと思ってくれていいよ」

 どう前向きに考えてもそう思えない。

「あーっと。わたし急に用事を思い出しちゃいましたのでこのへんでさらばなのです――」

 小鈴は眼鏡男の腕を振り払い、振り向いて逃げようとしたら、ガードマン、らしき男が目の前に立ちはだかる。

「前へ歩け」

 彼は低い声で命令した。

「……はい」

 小鈴は諦めて従うことにする。

 幸先が良いと思ったらとんでもない間違いだった。

 そういえばおばあちゃんが言ってたなぁ、知らない人にはついていくなって。

 小鈴は今さらそんなことを思い出した。ちなみに祖母にそれを教わったのは五歳のときだ。

「安心してよ。僕たちは君に協力したいんだ」

「どうしてそこまでしてくれるんですか」

「それはね、僕たちがこの街きっての良い人だからだよ。こいつらだってそうさ。みんなほんのちょっと怖い顔してるけどね。見た目で人を判断してはいけないってことだね」

 だったら爽やかなお前は実は腹黒いんじゃないのか、と言いたくなった。

「それに僕たちのユニットに来れば、その探している家というのもすぐに見つけてあげられるよ。この街のことで知らないことなんてないんだ」

「その『ユニット』っていうのはどういう――」

 小鈴が『ユニット』について訊ねようとしたそのとき、後ろからギターの音とともに歌声が聴こえてきた。



 なーにが起こるか わからないーからぁ

 いつまで続くか  わからないーからぁ

 ぼーくらはここで 何をするのだろーぉ

 やりたいことを  やってりゃあいいのさーぁ



 振り向くと、さっきのライブで歌っていた男が歌いながらこちらに歩いてきていた。

 彼の背後には観客たちが手拍子をしながらついてきている。その光景はまるで大名行列だ。 

だい!」

 眼鏡男が声をあげた。

「いよー継道つぎみち

 男は歌うのをやめ、眼鏡男に向かって気楽に声をかけた。

「まったく、ライブに熱中してるかと思ったのに」

「サンザンロードのみんなが観客だ。誰ひとりの僅かな動きも見逃さねえよ」

「あーそうかいそうかい」

 眼鏡男は面倒臭そうに手を振った。

 小鈴には何がなんだかさっぱりだった。

 だが、このライブ男が自分を助けてくれていることだけはわかった。けれど眼鏡男にはボディガード、らしき者たちがいる。観客は老若男女様々だが、あまり強そうな人はいなさそうだった。

 でも不思議なことに、ボディーガード連中は誰一人として動かない。眼鏡男を守るどころか、困ったような顔で立ち尽くしている。

「とりあえず、その女の子は置いてきな。無理やり引っ張っていくなんて悪趣味だぞ」

「何を言っているんだ。その言い方では僕がこの子を拉致したみたいじゃないか」


    

 拉致じゃねーのかぁ?

 誘拐じゃねーのかぁ?



「いちいち歌うな」

「で、拉致なんだろ?」

「違う。これは同意の上だ。そうだよね?」

 眼鏡男が小鈴に同意を求める。

 爽やかに微笑んではいるが、強制的なものが感じられる迫り方だった。

 しかし小鈴はそれをあっさりと突っぱねる。

「いやぁ違いますねぇ」

 小鈴はぎょっとした。

 眼鏡男――継道が一瞬、彼女を睨んだのだ。それは本当に一瞬のことだったが、その目は小鈴の瞳を針で突き刺すかのように鋭く射抜いた。

 ――これが本性ってことね。わからないねぇ、人って。

「じゃあそういうことで、その子は置いていけ。大体その子、さっき俺のライブ観てたんだから、俺の観客を勝手に連れてくんじゃねえ」

「わかったわかった」

 継道は小鈴の腕から手を離し、ボディガード連中とサンザンロードを去っていく。

 小鈴は改めてライブ男を見やった。

 男は小鈴のほうを見て、人懐っこそうな笑みを浮かべた。

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