家出少女を探す男ふたり
「おい、小鈴は来てないか!」
「大!?」
突然やって来た今井大を前にし、増山継道は唖然とした。もう午前五時を過ぎている。こんな時間に外を出歩くなんて、いったい何があったのだろうか。
部下からの「今井大が来てます」という知らせを受けて玄関に向かった継道だったが、ドアを開けるまでは何かの間違いだろうとさえ思っていた。
「どうしたんだよいきなり。もう五時だ。今がどれだけ危険なのかわかっているだろう」
「俺の質問に答えろメガネ馬鹿野郎が! 小鈴はここに来てないのか!」
「来ていない。なんだ、小鈴ちゃんが家出でもしたのかい?」
「じゃあリーダーは? 啓造のおっさんを出せ!」
「大こそ僕の質問に答えてくれよ」
「うるせえっ、啓造のおっさんはどこだって訊いてんだ!」
「リーダーは……」
継道は表情を曇らせ、言いにくそうに答える。「……出かけている」
「でかけた!? こんな時間にか!」
「大は人のこと言えるのかい?」
「俺は非常事態なんだよ。それよりお前んとこのリーダーはなんだってこんな時間に外行っちまったんだ!?」
「いや、僕も不思議に思っているんだ。実はこれはここだけの話なんだが、啓造さんは昨日からずっと帰ってきてないんだ。化物がうろついているというのに」
「昨日から!? どこに行くかとか行ってなかったのかよ!」
「何も……。最近はそんなことがずっと続いていて、ついに昨日からは屋敷に帰ってこなくなったんだ。とりあえず今は僕がこのユニットの臨時のリーダーということになっている」
「随分頼りねえリーダーだな」
「君に言われたくはないね」
ふたりは睨み合う。
だが大はそんなことをしている場合じゃないと思い出し、すぐに視線を外して挨拶もなしにその場から駆け出す。
継道は大の背中を見ながら首を傾げる。
「小鈴ちゃん、本当に家出したのかな」
*
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今の陽太の感情を言語化することはできない。
空腹を満たすべく人間を殺し、食らっていればそれでいい。
怒りを、意識を、記憶さえもエネルギーに変換し、彼は殺戮を繰り返す。
デパートのような趣の建物があったので彼は入る。本能的に人が多くいそうだと感じたのかもしれない。
シャッターの上からさらに板が打ち付けられているが、陽太はそれを難なく外す。
外した板を放り捨て、シャッターを下から持ち上げるようにして開ける。ガガガガッと何かが磨耗するような音とともにシャッターはオープンし、中にいた人間たちが驚愕の表情を浮かべる。
陽太の食事の時間が始まる。
食事を終えた彼はデパートの屋上へとやって来た。
食欲が満たされ、一休みしようとしているらしい。彼はその大きくなった体躯を大の字にして、朝日を浴びながらひと眠りしようとする。
そのとき、どこからか歌が聞こえてくる。
空っぽのコップでさえ コップという本体そのものがあるように
空っぽの心でさえ わたしという本体そのものがあるのだ
なにを捨てようと
なにを壊そうと
なにを燃やそうとも
わたしは どこまで行っても――
陽太はむくりと起き上がる。
その歌は彼の耳に流れ、闇と化している意識に一筋の光を差し込む。
歌が聞こえるほうへ陽太は歩く。やがてフェンスのところに辿りつき、彼は何気なく眼下に広がる町並みを見下ろす。
直後、彼の赤い瞳は大きく見開かれる。
――――――――――――――こ――す――ず!
陽太は屋上を後にし、階段を飛び降りるように降りていく。




