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壁の向こうのB  作者: カカオ
第4章
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家出少女を探す男ふたり

「おい、小鈴は来てないか!」

「大!?」

 突然やって来た今井大を前にし、増山継道は唖然とした。もう午前五時を過ぎている。こんな時間に外を出歩くなんて、いったい何があったのだろうか。

 部下からの「今井大が来てます」という知らせを受けて玄関に向かった継道だったが、ドアを開けるまでは何かの間違いだろうとさえ思っていた。

「どうしたんだよいきなり。もう五時だ。今がどれだけ危険なのかわかっているだろう」

「俺の質問に答えろメガネ馬鹿野郎が! 小鈴はここに来てないのか!」

「来ていない。なんだ、小鈴ちゃんが家出でもしたのかい?」

「じゃあリーダーは? 啓造のおっさんを出せ!」

「大こそ僕の質問に答えてくれよ」

「うるせえっ、啓造のおっさんはどこだって訊いてんだ!」

「リーダーは……」

 継道は表情を曇らせ、言いにくそうに答える。「……出かけている」

「でかけた!? こんな時間にか!」

「大は人のこと言えるのかい?」

「俺は非常事態なんだよ。それよりお前んとこのリーダーはなんだってこんな時間に外行っちまったんだ!?」

「いや、僕も不思議に思っているんだ。実はこれはここだけの話なんだが、啓造さんは昨日からずっと帰ってきてないんだ。化物がうろついているというのに」

「昨日から!? どこに行くかとか行ってなかったのかよ!」

「何も……。最近はそんなことがずっと続いていて、ついに昨日からは屋敷に帰ってこなくなったんだ。とりあえず今は僕がこのユニットの臨時のリーダーということになっている」

「随分頼りねえリーダーだな」

「君に言われたくはないね」

 ふたりは睨み合う。

 だが大はそんなことをしている場合じゃないと思い出し、すぐに視線を外して挨拶もなしにその場から駆け出す。

 継道は大の背中を見ながら首を傾げる。

「小鈴ちゃん、本当に家出したのかな」


       *


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。

 今の陽太の感情を言語化することはできない。

 空腹を満たすべく人間を殺し、食らっていればそれでいい。

 怒りを、意識を、記憶さえもエネルギーに変換し、彼は殺戮を繰り返す。

 デパートのような趣の建物があったので彼は入る。本能的に人が多くいそうだと感じたのかもしれない。

 シャッターの上からさらに板が打ち付けられているが、陽太はそれを難なく外す。

 外した板を放り捨て、シャッターを下から持ち上げるようにして開ける。ガガガガッと何かが磨耗するような音とともにシャッターはオープンし、中にいた人間たちが驚愕の表情を浮かべる。

 陽太の食事の時間が始まる。 



 食事を終えた彼はデパートの屋上へとやって来た。

 食欲が満たされ、一休みしようとしているらしい。彼はその大きくなった体躯を大の字にして、朝日を浴びながらひと眠りしようとする。

 そのとき、どこからか歌が聞こえてくる。


 

 空っぽのコップでさえ コップという本体そのものがあるように

 空っぽの心でさえ わたしという本体そのものがあるのだ

 なにを捨てようと

 なにを壊そうと

 なにを燃やそうとも

 わたしは どこまで行っても――



 陽太はむくりと起き上がる。

 その歌は彼の耳に流れ、闇と化している意識に一筋の光を差し込む。

 歌が聞こえるほうへ陽太は歩く。やがてフェンスのところに辿りつき、彼は何気なく眼下に広がる町並みを見下ろす。

 直後、彼の赤い瞳は大きく見開かれる。

 ――――――――――――――こ――す――ず!

 陽太は屋上を後にし、階段を飛び降りるように降りていく。

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