迷うふたり
――ここはどこだ?
――僕はどうしちゃったんだ?
――僕は何をやったんだ?
陽太は全身血みどろの自分の格好を見て混乱する。
ポロシャツは元が何色だったのかもわからないほどに、血に染まり黒く固まっている。触ってみると、ばりばりと乾いた音が鳴った。
辺りを見回してみるが、自分がどこにいるのかさっぱりわからない。どこかの民家の台所らしく、流しがある。
冷蔵庫は倒れ、テーブルは真ん中から割れて崩れている。床には物が散乱し、その中で陽太はうずくまっている。
記憶がないのは昼間だということはわかっている。夜になると意識が戻り、まるでワープしてしまったかのように違う場所にいるのだ。
そしていつも血まみれだ。
流しの窓から明かりが差し込んできた。
夜明けだ。
陽太は自分の体が熱くなるのを感じる。意識の混濁が始まり彼は「またか」と思う。
そして記憶がとんで血まみれになるのだ。
意識が薄れ、体の筋肉が膨れ上がるのを最後に、陽太の意識は途切れる。
*
空っぽのコップでさえ コップという本体そのものがあるように
空っぽの心でさえ わたしという本体そのものがあるのだ
なにを捨てようと
なにを壊そうと
なにを燃やそうとも
わたしは どこまで行っても――
小鈴は頭の中で浮かんだ言葉を口ずさみながら街を歩いている。小鈴が歩く右側には、この街にしては大きなビルが背を伸ばしている。たしか大が昔はデパートだと言っていた。今は閉鎖されてしまっているが。
不思議なことに、あれだけ頭をひねっても一文字も思い浮かばなかった詩が、今は嘘のように湧き出てくる。
小鈴は空を見上げ、目を細める。
いったいどれぐらい歩いたのかわからない。最後に時計を見たときは四時だった。もう日はとっくに昇り明るくなっていることから、五時は過ぎているなと当たりをつける。
すでに危険な時間帯のはずだが、まだバーサーカーにも化物バーサーカーにも遭遇していない。
空き家は未だ見つかっていない。どこか身を潜められそうなところならどこでもいいと思っているのだが、そんな場所さえ見つからない。
諦観めいた感情が小鈴を支配していく。
自分は空っぽじゃない。
それがわかって、彼女は満足していた。
――あとはもう、何がどうなろうとどうでもいい。
街は冬眠した熊のように静まり返り、夜が来るのを待っている。




