家族なのにリーダー?
一軒目の赤い壁の家から徒歩で五分ほどの場所に、次なる赤い壁の家――大が言うところの増山ユニットの家があった。小鈴はそれを眺め、目をパチパチとさせる。
赤は赤でも、まるで血のように濃い色合いをしている屋敷だった。どこか生々しく、深みがある。壁どころか屋根まで赤く塗られ、血の雨でも降ったかのような趣である。
ほかの家より敷地が一段と広大で、噴水まである。庭は芝生で覆われ、ところどころに等身大の馬の石造が意味もなく置かれている。
「うわあぁぁ……悪趣味」
思わず本音が出てしまった小鈴。大はそれを聞いて笑う。
「ははは、だろ? ここがお前の親が住んでた場所じゃないことを祈るぜ。……ていうか、まさか住んでるなんてことはないだろうな」
「え、それは有り得ないですよ。だって苗字が――」
と、小鈴が言っている傍から大はずんずんと門へと歩いていく。それから間髪いれずにインターホンを押す。電子音ではなく、鐘の音が家中に響き渡った。
ほどなくして大と同じぐらい図体の大きな男が屋敷から現れた。黒いスーツを着て、いかにもSP然とした具合である。
「今井ユニットの者が何のようだ」
SP男は無愛想に尋ねてきた。
「ちょっとお前らのリーダーに用があるんだ。出してくれないか。とても重要なことなんだよ」
「……待ってろ」
男はそういい残すと、すぐに屋敷の中に戻っていく。
「大さん、凄いですね。わたしはまたすぐに追い返されると思いましたよ」
「それはねえよ。俺、これでも今井ユニットの副リーダーだからさ」
「ほほー、なるほど」
なるほど、とか言っておきながら何もわかっていない小鈴である。というか未だにユニットのことを訊けないでいる。
――リーダー? 家族なのにリーダーとはなんぞ?
などと考えていると、屋敷から今度は爽やかな眼鏡をかけた青年が姿を現す。増山継道だ。髪をかき上げたその仕草が、今日もキザである。
「いよー継道」
「大がここに来るなんて奇跡だな。いったい何事なのかな? それと、こんにちは」
継道は小鈴に向かってニコリと笑いかけた。
小鈴は投げやりにお辞儀を返すだけにとどめる。
――本当は無視したかったけどね!
「あれ、俺はリーダーを呼んでこいって言ったんだけど。啓造さんはどうしたんだ? 寝てるのか?」
「馬鹿を言うな。うちのリーダーは多忙なんだよ。君のユニットのリーダーのように暇なバーテンじゃないのさ」
「あーそう。じゃあ下っ端のお前でいいや」
「……なんだ」
継道はぎろりと大を睨んだ。大は構わず続ける。
「沙仲って苗字に聞き覚えはないか?」
「ないね」
即答だった。
「聞いたこともない」
「じゃあちょっと啓造さんに訊いてみてくれよ」
「だから言っているだろう。啓造さんは忙しいんだ。そんなどうでもいいこと訊けるか」
「じゃあ啓造さんが暇のときに訊いてくれないか。大事なことなんだ」
「わかったわかった。覚えていたら訊いておいてやるよ」
今この瞬間にも忘れていそうな態度だった。
「あとよう――」
「まだあるのか」
「今日もいつものとこでライブやるからさ、よかったら来いよ」
「ふん」
継道は鼻を鳴らし、小鈴にまた微笑んでから、屋敷に戻っていった。バタンと玄関ドアが閉じる音が、やけに響いた。




