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壁の向こうのB  作者: カカオ
第2章
16/53

家族なのにリーダー?

 一軒目の赤い壁の家から徒歩で五分ほどの場所に、次なる赤い壁の家――大が言うところの増山ユニットの家があった。小鈴はそれを眺め、目をパチパチとさせる。

 赤は赤でも、まるで血のように濃い色合いをしている屋敷だった。どこか生々しく、深みがある。壁どころか屋根まで赤く塗られ、血の雨でも降ったかのような趣である。

 ほかの家より敷地が一段と広大で、噴水まである。庭は芝生で覆われ、ところどころに等身大の馬の石造が意味もなく置かれている。

「うわあぁぁ……悪趣味」

 思わず本音が出てしまった小鈴。大はそれを聞いて笑う。

「ははは、だろ? ここがお前の親が住んでた場所じゃないことを祈るぜ。……ていうか、まさか住んでるなんてことはないだろうな」

「え、それは有り得ないですよ。だって苗字が――」

 と、小鈴が言っている傍から大はずんずんと門へと歩いていく。それから間髪いれずにインターホンを押す。電子音ではなく、鐘の音が家中に響き渡った。

 ほどなくして大と同じぐらい図体の大きな男が屋敷から現れた。黒いスーツを着て、いかにもSP然とした具合である。

「今井ユニットの者が何のようだ」

 SP男は無愛想に尋ねてきた。

「ちょっとお前らのリーダーに用があるんだ。出してくれないか。とても重要なことなんだよ」

「……待ってろ」

 男はそういい残すと、すぐに屋敷の中に戻っていく。

「大さん、凄いですね。わたしはまたすぐに追い返されると思いましたよ」

「それはねえよ。俺、これでも今井ユニットの副リーダーだからさ」

「ほほー、なるほど」

 なるほど、とか言っておきながら何もわかっていない小鈴である。というか未だにユニットのことを訊けないでいる。

 ――リーダー? 家族なのにリーダーとはなんぞ?

 などと考えていると、屋敷から今度は爽やかな眼鏡をかけた青年が姿を現す。増山継道つぎみちだ。髪をかき上げたその仕草が、今日もキザである。

「いよー継道」

「大がここに来るなんて奇跡だな。いったい何事なのかな? それと、こんにちは」

 継道は小鈴に向かってニコリと笑いかけた。

 小鈴は投げやりにお辞儀を返すだけにとどめる。

 ――本当は無視したかったけどね!

「あれ、俺はリーダーを呼んでこいって言ったんだけど。啓造けいぞうさんはどうしたんだ? 寝てるのか?」

「馬鹿を言うな。うちのリーダーは多忙なんだよ。君のユニットのリーダーのように暇なバーテンじゃないのさ」

「あーそう。じゃあ下っ端のお前でいいや」

「……なんだ」

 継道はぎろりと大を睨んだ。大は構わず続ける。

「沙仲って苗字に聞き覚えはないか?」

「ないね」

 即答だった。

「聞いたこともない」

「じゃあちょっと啓造さんに訊いてみてくれよ」

「だから言っているだろう。啓造さんは忙しいんだ。そんなどうでもいいこと訊けるか」

「じゃあ啓造さんが暇のときに訊いてくれないか。大事なことなんだ」

「わかったわかった。覚えていたら訊いておいてやるよ」

 今この瞬間にも忘れていそうな態度だった。

「あとよう――」

「まだあるのか」

「今日もいつものとこでライブやるからさ、よかったら来いよ」

「ふん」

 継道は鼻を鳴らし、小鈴にまた微笑んでから、屋敷に戻っていった。バタンと玄関ドアが閉じる音が、やけに響いた。

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