~2話~ 会敵
本当に、本当に申し訳御座いませんでした!
永らくお待たせしました、これからも不定期の更新になっていきますが、どうぞ温かい目で見守っていてください。
『敵部隊、探知。・・・解析完了、敵機の数を特定・・・汎用型3機、多脚砲戦型2機、飛行型2機、以上です』
無線機からの知らせは、中隊所属の通信部隊からの通信だ。
「了解、その情報を全分隊長に通達。その後、お前達は戦線から離脱、本部で待機していろ。尚、新たな情報が入り次第、俺に通信で伝えろ」
無線機をしまい、俺は塹壕から身を乗り出して前方を見る。森林からはどす黒い黒煙が上がっている、どうやら別部隊と交戦中のようだ。
「誰か、双眼鏡を」
そう言うと、一人の少年が双眼鏡を手渡してきた。ヘルメットを深くかぶり、銃を持つ手は僅かに震えている。
「ありがとう。お前は知らない顔だな、新兵か?」
「は、はい!自分は、三日前にこの部隊に所属しました。伊藤浩二三等陸士であります、中隊長」
俺は苦笑し、浩二のヘルメットを軽く叩いた。
「俺はこの中隊の隊長を務める、多賀竜騎一等陸曹だ、よろしくな。あと、この部隊ではそういう堅苦しいのは無しだ、仲良くやろう」
「はい」と、緊張気味に浩二は俺に敬礼をした。
「ところで、伊藤三士。三日前って事は、これが初陣か?」
俺は双眼鏡を覗き込みながら、浩二に聞いた。
「はい、自分はこれが初陣です。ですから、あまり役に立てないかもしれません」
そうかも知れない、俺が見てきた中で、まともに敵と渡り合えるのは、二~三度の実戦経験がある奴ぐらいだからだ。新兵は大抵、混乱して部隊を乱す。
要するに、役立たずだ。俺が軍に入ったのは約一年前、その時に同期で軍に入った連中は、今一人も生き残っちゃいない。
「あの、中隊長。少しお聞きしてもいいですか?」
「あ?あぁ、何だ?」
浩二に声を掛けられていたのを、すっかり聞き流していた。
「中隊長は、今までに何回の戦闘を経験していますか?」
「俺は…これで四回目だな。一回目が、第一次名古屋奪還作戦で。二回目が、第二次名古屋奪還作戦。三回目が、春日井防衛戦線。四回目が、富山防衛戦線だな」
浩二は目を見開いて、俺の顔を凝視した。
「す…凄い…確か、第一次名古屋奪還作戦って、出動した兵士の九割が戦死したっていう軍設立以来の大打撃だった戦闘ですよね?」
「ん?…あ、あぁ。そうらしいな」
そうはとぼけた物の、あの時の記憶は忘れられる訳が無い、出来る事なら消し去ってしまいたい。
双眼鏡から見えたのは俺たちが居るひらけた草原、それを区切るように立ちはだかる森林、その向こうから立ち込める黒雲、それ以外は何も分からなかった。
「特に異常なし…かな?」
俺は双眼鏡を返し、その場で再び座り、時刻を確認する。現在時刻は…
『隊長!敵の砲撃です!弾着まで後5秒!』
突如、無線機から通信部隊の通信が入る。俺はすかさず立ち上がり、大きく息を吸う。
「総員、衝撃に備えろ!!」
俺の声に隊員が頭を低くしたり、その場に突っ伏す。俺も伏せようとした、その時だった。
頭上を何かが通過し、その何かは居住区まで飛んでいき、居住区に降り注いだ。
激しい爆音が鳴り響き、居住区からは火柱が高く上がる。その様子を全員が息を呑んで見ていた。
『隊長!次の砲撃きます!弾数約15発』
通信から、またもや敵の攻撃が知らされてきた。
「総員!そのままの姿勢だ!またくるぞ!」
俺は塹壕に突っ伏して、ヘルメットを深く被る。すると、10m程の地点に弾着した。
何発もの物凄い爆音と爆風が、俺の居る塹壕内にまで襲い掛かる。
「慌てるな!砲撃が収まるまで姿勢を低くたもt…」
声を上げるために頭を上げた瞬間、何かが俺のヘルメットにぶつかり、ヘルメットは爆風で何処かへ吹き飛んでいった。
「…!?」
咄嗟に頭を下げ、塹壕に深く伏せる。落ち着いた所で、何か生暖かいものが眉間から頬にかけて伝わった。
何かと思い手で触れる、そして確認した手は赤く染まっていた。
浩二が心配をしたのか、伏せたまま駆け寄って来た。
「中隊長!血が…」
「分かっている、軽く切っただけだ」
浩二を手で制し、俺は頭上を見上げた。砲撃は収まっている、知らないうちに収まったようだ。
「よし…被害を報告しろ」
俺は起き上がり、辺りを見回す。さっきまでただの更地だった場所は、砲撃により地面が大きく抉られていた。
「中隊長。被害状況を報告します」
一人の兵士が俺の元に駆け寄ってきた、俺は黙って続けるように促した。
「死者6名、負傷者13名。車両が輸送車1台、味方本隊の戦車4台です」
男は淡々と被害状況を喋り、その場を立ち去っていった。
「負傷兵を集めろ! 走行可能の輸送車を用いて、負傷兵を戦線から離脱、本部の方へ運べ!」
敵が射撃をしてきたと思われる方角を見る。森林の向こうには黒煙が上がるだけで、未だに何一つ確認をする事は出来ない。
俺は塹壕から出て、負傷兵を担いだ。俺が担いだ男は、腹部に何かの破片を喰らったらしく、激しい出血をしていた。
「大丈夫だ。直ぐに治療が出来る」
俺の他にも、多くの隊員が負傷兵を運んでいた。
そこに、輸送用のトラックが到着した。
「こいつに負傷兵を乗せろ! 重傷者が優先だ!」
運転席から一人の兵士が降りてきて、誘導を始めた。負傷兵を担いだ兵士たちは、大人しくそれに従った。
「すまん、彼を頼む」
俺は直ぐ傍にいた男に、担いでいた男を任せ、持ち場へと走った。
「隊長! 指示を!」
浩二が、混乱しきった様子で叫んだ。
「落ち着け! 一人が取り乱せば、隊全体が混乱に陥る!」
俺は浩二を言葉で伏し倒して、士気を保たせる。
しかし、それでも尚、周りはざわめき混乱は増すばかりだ。これでは、規律が乱れる。あの日の様に。
「総員! 状況の確認を急げ! 士気を下げるような発言は許可しない!」
俺は近くに居た、下士官達に指示を出し、隊員の誘導を促した。複数の下士官は、実戦の経験を積んでる様で、素早く命令を行動に移した。
しかし、森林地帯からの轟音により、隊全員の行動が一瞬にして止まった。
森林の終り、丁度俺達からも目視出来る地点に、どす黒い煙が空高く上がっていた。
そして、その先。黒煙を切り裂き、俺達の前に姿を現したのは……。
「多脚…砲戦型…!?」
俺は、背筋が一瞬で凍りつくのを感じた。多脚砲戦型の上部、巨大な主砲がゆっくりと動き出し、俺達の居る陣地帯を真っ直ぐに向けられた。
ご指摘など御座いましたら、お気軽に。
それでは、また何時の日か。