ここにいてもいいの?
第8話
ふかふかの黄金の羽毛に包まれて、ハルは数時間ほど深い眠りについていた。
ふと目を覚ますと、そこは夕暮れ時の穏やかな光が差し込むロッジの中。隣には、自分を包み込むように丸くなって寝息を立てている巨大な黄色い鳥がいた。
「……あ」
ハルは、自分が着ている真っ白で清潔なチュニックを見つめ、それから自分の綺麗な手を見た。
夢じゃなかった。でも、夢じゃないからこそ、ハルの胸に鋭い不安が込み上げてきた。
「……おねえちゃん」
キッチンで夕食の準備(リンゴを剥いたり、お米の様子を見たり)をしていたメグミが、ハルの声に気づいて振り返った。
「あ、ハル。おはよう。よく眠れた?」
「……うん。あの……ぼく、もう元気になったから……」
ハルはふくちゃんの翼から這い出し、床に降りてメグミを見上げた。その瞳には、今にも消えてしまいそうな怯えの色が混ざっている。
「……だから、いかなきゃ。ごはん、いっぱい食べさせてもらったし、体も洗ってもらったから。……もう、お返しできないから」
ハルはトボトボと玄関の扉へ向かおうとした。外はまだ、あの死の荒野が続いている。戻るところなんてどこにもないのに、彼は「いらない子」としての振る舞いを体が覚えてしまっていたのだ。
「え、行くってどこに? 外はもう暗くなるよ? 迷子になっちゃう」
「……だって、ぼく……なにもできない。おねえちゃんの『ごはん』を減らすだけだから。いらない子は、いなきゃいけないんだ……」
メグミはその言葉を聞いて、手に持っていたリンゴを置き、ハルの前まで歩いていって屈み込んだ。
「ハル。ちょっと、私の顔を見て」
メグミはハルの細い肩を優しく掴んだ。
「ここはね、もともと誰も住めないって言われてた死の荒野だったんだよ。それを、私とふくちゃんで勝手に作り変えちゃったの。家も、湖も、果樹園も。……でもね、正直、広すぎて私一人じゃ手が足りないんだ」
「……え?」
「ふくちゃんは力持ちだけど、細かい作業は苦手だし。妖精さんたちは遊んでばっかりでしょ? だから、もしよかったら……ハルに、私を助けてほしいんだ。一緒にここで暮らして、この場所を『家』にしていかない?」
メグミは、ハルの青い瞳をじっと見つめて微笑んだ。
「命令じゃないよ。ハルの意思で決めていい。……ここに、居てくれる?」
ハルは驚いたように目を見開いた。
選んでいいと言われたことも、「助けてほしい」と必要とされたことも、今までの人生で一度もなかったからだ。
「ぼく……ここに、いてもいいの? おねえちゃんと、とりさんと、いっしょに……?」
「ピョイイッ!」
いつの間にか起きていたふくちゃんが、返事をするようにハルの背中をクチバシで「ポン」と押した。
「……いたい。……ぼく、ここにいたい! おねえちゃんのおてつだい、いっぱいするから!」
ハルはメグミの胸に飛び込み、声をあげて泣き出した。
それは、捨てられた絶望ではなく、生まれて初めて手に入れた「自分の居場所」への安堵の涙だった。
「よし、契約成立だね! じゃあハル、最初の仕事をお願いしてもいい?」
メグミはハルの涙を拭い、おやつ袋の底に残っていた『ひまわりの種』を一粒手渡した。
「これ、ハルの手で植えてみて。ふくちゃんにお粉をかけてもらったら、きっとハルだけのすごい花が咲くよ。……それが、私たちが家族になった記念の印!」
ハルは大切そうに種を握りしめ、力強く頷いた。




