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名もなき子と、黄金の「ふかふか」洗礼

第7話


黄金のリンゴを夢中で食べ終えた子供は、ようやく落ち着いたのか、大きな瞳をキョロキョロと動かして辺りを見渡した。

 目の前には、現代的なスウェットを着た不思議な聖女メグミと、見たこともないサイズの巨大な黄色い鳥。


「……あ。……あう……」


 子供がおそるおそる手を伸ばそうとすると、ふくちゃまが「ピョイッ!」と短く鳴いて、自ら頭をぐいっと差し出した。


「ひゃあぁっ!?」


 子供は短い悲鳴を上げて飛び退いたが、ふくちゃんは構わず、小型犬サイズの頭を子供の胸元に「グイグイ」と押し付ける。インコ特有の「撫でて!」の催促だ。


「あはは、大丈夫だよ。この子はふくちゃん。見た目は大きいけど、中身は甘えん坊のインコだから」


 メグミが笑いながらふくちゃまの冠羽を整えてあげると、子供はおずおずと小さな手を伸ばし、そのレモンイエローの羽に触れた。


「…………ふわ……ふわ……あったかい……」


 その瞬間、子供の瞳にじわりと涙が浮かんだ。

 呪われた子として蔑まれ、冷たい地面に捨てられた彼にとって、これほどまで純粋で温かい「生きた体温」に触れるのは、生まれて初めてのことだったのだ。


「ねえ、君。お名前は?」


 メグミの問いに、子供は悲しそうに首を振った。


「……ない。……『のろま』とか、『いらない子』……って、よばれてた」


「……そっか。じゃあ、私が新しい名前をつけてあげる」


 メグミは少し考え、キラキラと輝く湖と、そこに反射する空の色を見つめた。

「君の目は、あの湖みたいに綺麗な青色だね。……よし、『ハル』。今日から君の名前はハルだよ。春みたいに温かい場所で、ゆっくり過ごそう」


「……ハル。……ぼく、ハル……?」


 子供――ハルが自分の名前を噛み締めるように呟くと、ふくちゃんが賛成するように「ピョイイッ!」と高らかに鳴いた。


「よし、名前も決まったことだし! ハル、まずはその泥汚れを落としに行こう。最高の温泉があるんだから!」


 メグミはハルを抱き上げ、家の裏の温泉へと向かった。

 最初は「お湯」というものに怯えていたハルだったが、先に「ドッパーン!」と豪快に飛び込み、お湯に浮いて白目を剥きかけている(リラックスしすぎな)ふくちゃんの姿を見て、思わず吹き出した。


「あはは! とりさん、浮いてる!」


「そうでしょ? あれでも実はすごい聖なる鳥なんだけどね……」


 メグミはハルの体を優しく洗い、妖精たちが麻の繊維で即席に編み上げた「真っ白なチュニック」を着せてあげた。

 汚れが落ちたハルは、驚くほど整った顔立ちをしており、ふくちゃまの脂粉パワーのおかげか、肌のツヤまで良くなっている。


「(……うん、これで完璧)」


 お風呂上がり、ハルはふくちゃんの翼の中にすっぽりと収まり、その羽毛に顔を埋めてスヤスヤと眠り始めた。

 ふくちゃんも、自分の羽毛が汚れるのも気にせず、誇らしげにハルを守るように翼を広げている。


「(……スローライフっていうか、これじゃ『保護施設』の管理人みたい。……ま、いっか!)」


メグミは、幸せそうに眠る一人と一羽を眺めながら、自分もふくちゃんの反対側の翼に潜り込み、午後の穏やかな時間を楽しむのだった。

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