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果樹園の侵入者と、黄金のリンゴ


「……ふぁ……。よく寝たぁ……」


 メグミはハンモックの上で大きく伸びをした。

 ふかふかの黄金の羽毛クッションと、リンゴの甘い香り。お腹の上には柴犬サイズの温かいふくちゃん。

これ以上の幸せがあるだろうか。


「(……あ、ふくちゃん、寝てる間にまた少し羽がツヤツヤになった? 脂粉が出すぎじゃない?)」


 そんな平和な思考に浸っていた時だった。

 果樹園の奥、たわわに実ったリンゴの木の茂みが、ガサガサッと不自然に揺れた。


「……ピョイッ!?」


ふくちゃんが鋭く反応し

冠羽をシャキーンと立てて飛び起きる。


「え、何? 風……じゃないよね?」


メグミがハンモックから降りて、おそるおそる茂みを覗き込むと――。

そこにいたのは、巨大な動物でも魔獣でもなかった。


「……子供?」


 ボロボロの灰色の布を纏った、小さな子供が一人。

 手足は驚くほど細く、頬はこけて土色に変色している。ひどい栄養失調なのは一目瞭然だった。その小さな手には、木から落ちたばかりのリンゴが握りしめられている。


「あ……。あ……」


 子供はメグミと巨大なインコを見て、怯えたように震えた。だが、逃げ出す力さえ残っていないのか、その場に力なく崩れ落ちてしまった。


「ちょっ、大丈夫!? 妖精さん、この子どうしたの!?」


 妖精たちが悲しそうに羽を伏せて近寄る。


「……きっと、近くの村で『口減らし』に遭ったのね。この荒野は呪われているから、ここに捨てれば二度と戻ってこれない。……生贄か、あるいは呪われた子として捨てられたんだわ」


「……そんな、ひどすぎる」


メグミは慌てて子供を抱き上げた。驚くほど軽い。

ふくちゃんも心配そうに「ピョ……」と鳴きながら、子供の匂いをフンフンと嗅いでいる。


「とりあえず、何か食べさせないと! 妖精さん、一番熟してるリンゴを取って! あと、お水も!」


「はい、聖女様!」


メグミは、ふくちゃんの脂粉で

爆速成長した「黄金のリンゴ」を素手で割り(なぜか今のメグミは力がみなぎっている)、その果汁を子供の口元に運んだ。


「いい? ゆっくり飲んで。これ、すっごく栄養あるから」


子供の喉が、こくりと動いた。

ふくちゃんの脂粉をたっぷり浴びて育ったリンゴは、ただの果物ではない。一口飲んだ瞬間、子供の青白かった顔に、みるみるうちに赤みが差していく。


「……あ……うまい……。あまい……」


子供は夢中でリンゴにかじりついた。栄養失調で動けなかったはずなのに、ふくちゃまパワーの宿った食べ物を口にした途端、細胞が呼び覚まされたような勢いだ。


「よかった……。リンゴなら山ほどあるから、いくらでも食べていいよ」


メグミは、泥だらけの子供の頭を優しく撫でた。

平和なスローライフに突如現れた、この世界の「影」。


「(……呪われた荒野に捨てられた子が、聖なる鳥に救われるなんて。……皮肉なもんだよね、全く)」


ふくちゃんは「僕が助けたんだよ!」とでも言いたげに、子供の背中をクチバシで優しくツンツンと突ついている


こうして、メグミの楽園に「初めての同居人」が加わることになった。


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