黄金のハンモックと、先代住人
第5話
「ふぅ……。ちょっと待って、私、朝から働きすぎじゃない?」
メグミは泥のついた手を腰に当て、ふぅーっと息を吐いた。
目の前には、ふくちゃま耕運機が爆走したおかげで、ふかふかに耕された立派な菜園。おやつ袋の小松菜やカボチャが、早くも芽を出している。
「家を建てて、湖を蘇らせて、果樹園に菜園……。これじゃ前の世界の社畜時代より動いてるわ。スローライフ、どこいった!?」
メグミは即席のクワを放り投げ、リンゴの木の下に座り込んだ。
「よし、休憩! お昼寝するわよ!」
妖精たちが「お昼寝! 聖女様の休息ね!」とはしゃぎ出し、ふくちゃんの脂粉で育った強靭な麻のツタを魔法で編み上げ
さらに、ふくちゃんの抜け落ちた黄金の羽(巨大サイズ時代のもの)を数枚、クッション代わりに敷き詰めて……。
「できたわ! 特製・黄金のふかふかハンモックよ!」
リンゴの木の間に立派なハンモックを吊るした。
「わあぁ……贅沢すぎる……!」
メグミはさっそく、ハンモックに身を預けた。小型犬サイズのふくちゃんも、当然のようにメグミのお腹の上に「ボフッ」と飛び乗ってくる。心地よい揺れに意識が遠のきかけた、その時。
「……ねえ、妖精さん。今更だけど……ここ、勝手に住んで大丈夫? 誰か地主さんとかいないよね?」
ふと、さっきまで「屋根」だった瓦礫を見つめて、メグミは不安になった。ボロボロとはいえ、誰かが作った「家」の跡なのだ。
「地主? なあにそれ。ここは千年も前から呪われて死んでいた『絶望の荒野』よ。誰も近づかないし、誰の所有物でもないわ」
「え、じゃあ、このボロ家は?」
「ああ……。昔、何人か物好きな人間が住もうとしたみたいだけど、みんなすぐに逃げ出したわ。水も出ない、草も生えない、魔力も枯れ果てたこの場所で生活なんて、普通は無理だもの」
妖精が指差した瓦礫の隙間に、古びた錆びだらけのスコップが半分埋もれていた。先代の住人が、絶望して投げ捨てていったものだろう。
「……そっか。みんな、ここで頑張ろうとして挫折したんだ……」
メグミは少ししんみりして、隣でリンゴをかじっている「柴犬サイズのチートインコ」を見つめた。
先代たちが血の滲むような思いで掘っても出なかった水が、この子はパニックを起こしただけで湧き出し、一生かかっても耕せなかった土を、おやつ欲しさのカキカキ一回でフカフカの黒土に変えてしまったのだ。
「(……先代さん、ごめんね。なんか、うちの愛鳥が凄すぎて攻略法がバグっちゃってるみたい……)」
先代住人の苦労に一瞬だけ黙祷を捧げ、メグミは再びハンモックに深く沈み込んだ。
「でも、誰もいないなら安心。ここはもう、私とふくちゃんの自由な楽園だもんね」
「そうよ聖女様! 今やあなたは、この不毛の地を蘇らせた開拓王よ!」
「王っていうか……
ただの引きこもり希望者だけどね……」
メグミは、お腹の上で丸くなって寝息を立て始めたふくちゃまを抱きしめ、心地よい揺れの中で、今度こそ深い眠りに落ちていった。




