黄金の果樹園と、蘇る精霊の湖
第4話
温泉でさっぱりしたメグミは、麻の布で体を拭きながら、家の周りを眺めた。
ふくちゃんのおかげで周囲は青々としているけれど、その先にはまだ赤茶色の荒野が続いている。
「せっかくお水も湧いたし、もっと食べられるものを増やしたいよね。……そうだ、おやつ袋!」
メグミが袋の底を覗き込むと、お米の他に、ふくちゃんの大好物である「乾燥リンゴ」が入っていた
「あ、これ。たまたま種がついたまま乾燥されてる!
ラッキー!それに……アーモンドにクルミ、カボチャの種もある!」
メグミがそれらを取り出すと、妖精たちが「果物!? ナッツ!?」と目を輝かせて飛んできた。
「聖女様、それらを植えましょう! 私たちが野生の『野いちごの苗』も持ってくるわ!」
ここで、メグミはあることに気づいた。
「……あ。でも、ふくちゃん、外に出たらまた軽自動車サイズに戻っちゃうよね? せっかく生えた苗とか、足元も見えずに踏み潰さない?」
「それなら任せて! フク様のために、特別に『サイズ調整のチョーカー』を編んであげたわ!」
妖精たちが差し出したのは、麻の繊維にキラキラ光る魔石を編み込んだ可愛らしいチョーカーだった。
これを首にかけると、外にいても小型犬サイズのまま、メグミの意思やふくちゃまの気分で自由に大きさを変えられるのだ。
「これなら安心! よし、ふくちゃん、お願い!」
メグミがリンゴの種やナッツを荒野の境目に埋めると、小型犬サイズのふくちゃまが「ピョイイッ!」と翼を広げ、黄金の脂粉を振りまいた
地響きと共に苗が成長し、一瞬で真っ赤なリンゴや香ばしいナッツの木が立ち並ぶ
野いちごも足元に広がり、一気に「果樹園」が完成した
「……すごい。一晩で庭付き一戸建てから、果樹園付きロッジになった……」
メグミが感動していると、
妖精の一人が遠くの広大な窪地を指差した。
「聖女様、あそこを見て。あそこはね、昔はとても大きな湖だった場所なの。今は干からびて死んでいるけれど……あそこにフク様のお粉があれば!」
メグミとふくちゃまがそこへ向かい、ふくちゃまが思い切り羽をばたつかせると、温泉の源泉から水が濁流となって流れ込み、透き通った湖が復活した。
すると、水面からピチャピチャと音がして、ギョッとして見てみると小さな「人魚」のような姿をした手のひらサイズの生き物が次々と顔を出した。
「ひゃああああっ!? な、何!? 今度は半魚人!?」
「失礼ね、水の精霊よ! 湖が蘇ったから、お祝いに稚魚を連れてきてくれたのよ!」
「妖精の次は精霊!? もう何でもありじゃん……!」
メグミはパニックになったが、精霊たちが放った稚魚が、脂粉の溶けた水の中でみるみる銀色の大きな魚に成長していくのを見て、目が釘付けになった。
「あ、あの形……アユ? それともイワナ? ……えっ、めちゃくちゃ美味しそうなんだけど!」
すると、水面で跳ねる魚の動きに、ふくちゃんが反応した。
小型犬サイズになっても、好奇心はいつものインコ。動くものには目が離せない。
「ピョイ……?」
ふくちゃんの目が「キラーン!」と鋭く輝いた
捕食して食べようというわけではない。ただ単に「動くおもちゃ」に見えたのだ。
「あ、ふくちゃま、ダメだよ! 驚かさない――」
バシィィィッ!!
ふくちゃまが「遊ぼう!」とばかりに繰り出した強烈なクチバシの一撃が、跳ねた魚をジャストミート。
哀れな魚はホームラン王並みの飛距離で弾き飛ばされ、メグミの足元にポテッと落ちた。
「……ナイス、ふくちゃん
……遊びのつもりだろうけど、威力すごすぎ」
メグミは、気絶した(?)新鮮な魚を確保し、さっそく串に刺して火で炙った。
『ソルト・ベリー』をたっぷり塗り込み、じっくり焼き上げる。
朝食のメニューは、炊きたての黄金米おにぎりと、イワナ(仮)の塩焼き、そしてデザートの剥きたてリンゴ。
「……んん~っ! 幸せ! 魚の身がフワフワで、脂が乗ってて最高! 最高の朝ごはん!」
隣では小型犬サイズのふくちゃんが、チョーカーを誇らしげに揺らしながら、リンゴを「シャリシャリ」と食べている。
「(……とりあえず、食料と住まいは完璧。あとは、このリンゴの匂いに釣られて変なのが来なきゃいいけど……)」
メグミは満腹のお腹をさすりながら、キラキラと輝く湖を眺め、この天国のような「平和なスローライフ(仮)」を噛み締めるのだった。




