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一角獣の「居場所」と、とろける餅グラタン


 「共鳴石」を粉砕した翌朝。聖域の空気は、昨夜の緊張が嘘のように澄み渡っていた。

 スピカは朝から、自分のせいで結界が攻撃されたことを気に病んでいるのか、耳を伏せて小さく鳴きながらメグミの影に隠れるように歩いていた。


 メグミは、そんなスピカの前に膝をつき、透き通った青い額をそっと両手で包み込んだ。


「……スピカ、大丈夫だよ。あんな石に負けないくらい、ここの結界は強いんだから。だからね……もう、どこかへ行かなきゃなんて、迷わなくていいんだよ」


 その言葉は、スピカだけでなく、メグミ自身への誓いでもあった。

 たとえ外の世界がこの希少な命を狙おうとも、この聖域だけは、彼女が安心して眠れる場所であり続けたい。


「ピョイイッ♪」

 ふくちゃんが、スピカの背中にひょいと飛び乗った。まるで「僕が保証するよ!」とばかりに胸を張り、黄金の羽を震わせる。


「(……ありがとう、ふくちゃん。……さあ、みんなで元気を出さなきゃね)」


 メグミは立ち上がり、昨日から準備していた「お餅」と、スピカの氷室で冷やしておいた「ルナ・シープのミルク」を取り出した。


「今日は、心も体もポカポカになる『お餅グラタン』を作るよ!」


 メグミは、米粉とバターをじっくり炒め、ミルクを少しずつ加えて「特製ホワイトソース」を作り上げた。そこへ、一口大に切ったお餅、保存しておいた干し肉、そして妖精たちが雪の下から掘り出してきた冬野菜を合わせる。


「カイルさん、石釜の火加減はどう?」

「応ッ!! 最高の状態ですぞ、聖女様!」


 耐熱の土器に具材を詰め、上からたっぷりのミルクチーズを散らして、石釜でこんがりと焼き上げる。やがて、香ばしいチーズの匂いとソースの甘い香りがロッジいっぱいに広がった。


「わあぁ……! おねえちゃん、これ、おもちがチーズと一緒にびよーんってなってる!」

 ハルが熱々のグラタンをハフハフと頬張り、笑顔を取り戻す。


 スピカには、温かいミルクにたっぷりの「きな粉」を溶かした特製ドリンクを。彼女はそれを美味しそうに飲み干すと、お礼にとばかりに、ロッジの壁を氷の膜で薄くコーティングし、冷気をシャットアウトする「断熱魔法」を披露してくれた。


「(……こうして少しずつ、本当の家族になっていくんだね)」


 しかしその頃、結界の外では不穏な動きが続いていた。

 解析に失敗した男たちは、砕け散った「共鳴石」の破片を回収し、困惑していた。


「……クソッ、ただの吹雪の迷い子(一角獣)だと思っていたが、この反撃の魔力は何だ? まるで、この場所に『誰か』が住んでいるような……」


「おい、見ろ。この魔力の残滓……。ただの魔獣の力じゃない。異常なほど清浄で、温かい……。まるで、御伽話に出てくる『聖なる力』のようだぞ」


 男たちはまだ、そこに「聖女」がいるとは確信していない。

 けれど、結界を弾き飛ばされた際の「あまりに清らかな魔力」に、彼らは一角獣以上の「何か」がこの森に隠されているのではないかと、疑念を抱き始めていた。


「……一度退いて、王都の魔導師に報告だ。この場所には、俺たちの手に負えない『何か』がいる」


 男たちの足音が雪の中に消えていく。

 聖域の平穏は守られた。だが、彼らが持ち帰る「謎の清浄な魔力」という情報が、王国の欲望に新たな火をつけてしまうことを、メグミたちはまだ知る由もなかった。


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