震える結界と、騎士の「防衛線」
ミルクプリンの甘い余韻が残るロッジに、血相を変えた妖精たちが飛び込んできた。
「聖女様、大変よ! 結界の端っこが、なんだかムズムズするわ!」
「そうよ! 誰かが外から、合鍵を差し込もうとしてるみたいな、嫌な感じがするの!」
メグミは、ハチミツのついたスプーンを置いて立ち上がった。
カイルはすでにマントを羽織り、鋭い目つきで窓の外を睨んでいる。
「……やはり、あの矢の主たちが動き出したようですな」
カイルは雪を蹴立てて結界の境界線へと向かった。メグミと、心配そうに寄り添うハル、そして低空を飛ぶふくちゃんも後に続く。
境界線の枯れ木の下、雪を少し掘り起こすと、そこには不気味に脈動する「黒い石」が埋め込まれていた。
「これは……『共鳴石』。結界の魔力波長を無理やりコピーして、中へ入るための隙間を作る魔道具です」
「そんな……。じゃあ、このままだとあの人たちが入ってきちゃうの?」
ハルがスピカの首にしがみつく。
スピカは、自分のせいでこの温かな場所が汚されようとしていることを悟ったのか、悲しげに瞳を伏せ、結界の外へ自ら出ていこうと一歩踏み出した。
「ピョイイッ!!」
それを遮ったのは、ふくちゃんだ。
彼はスピカの前に立ちはだかり、力強く羽を広げた。
「ピョイ、ピョイッ!(逃げるな、僕がついてるだろ!)」と言わんばかりの堂々とした態度だ。
「そうだよ、スピカ。行っちゃダメ。……妖精さん、カイルさん。この石を無効化する方法はある?」
「ふん、あんな安物の解析道具、私たちの魔法と聖女様の清浄な魔力を合わせれば、逆流させて壊してやるわよ!」
メグミは、ふくちゃんとスピカの間に立ち、二人の体にそっと手を触れた。
「ふくちゃんの黄金の光と、スピカの氷の浄化……。二人とも、力を貸して」
メグミが祈るように魔力を込めると、ふくちゃんの脂粉が光り輝き、スピカの角から冷たく澄んだ青い閃光が放たれた。二つの光がメグミを通じて結界へと溶け込み、波長を塗り替えていく。
**パキィィィィン!!**
雪の中に埋まっていた黒い石が、耐えきれずに粉々に砕け散った。
同時に、結界の外の森の奥で「ぐわっ!?」という男の短い悲鳴が響き、逃げ去る足音が遠ざかっていった。
「……ひとまずは、これで安心ですな。解析データをすべて焼き切りました」
カイルが剣を鞘に収め、安堵の息を漏らす。
「(……でも、あきらめてはくれないよね。……王国の『特殊部隊』が、こんなに執念深いなんて)」
メグミは、砕けた石の破片を見つめながら、スピカの青い毛並みを強く抱きしめた。
聖域の冬は、ただ静かに過ぎることを許してはくれない。けれど、ふくちゃんとスピカという二つの「聖なる力」が合わさった今、この場所は以前よりもずっと強固な絆で結ばれていた。
「よし。怖い思いをした後は、温かい『きな粉ラテ』でも飲んで、作戦会議だ!」
メグミの宣言に、ハルもスピカも、少しだけ安心したように顔を上げるのだった。




