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氷の一角獣の「贈り物」と、残された黒い矢


 スピカの傷は、メグミの看病とふくちゃんの「お兄ちゃん」らしい毛づくろいのおかげで、目に見えて良くなっていった。

 ある朝、スピカはメグミの服の裾をクチバシ(ならぬ口先)で軽く引っ張り、ロッジの裏手にある日陰へと誘った。


「どうしたの、スピカ? お散歩にいきたいの?」


 スピカは返わりに、地面を力強く蹄で叩いた。

 すると、地中から結晶が突き出し、一瞬にして厚い氷の壁で囲まれた「小さな石室」のような空間が出来上がったのだ。


「……えっ、これって……氷室ひむろ?」


 妖精たちが驚いて飛び出してきた。

「すごーい! この氷、魔力で固められてるから夏まで溶けないわよ! 聖女様、これでミルクやお肉が腐る心配がなくなるわね!」


 スピカは誇らしげに鼻を鳴らし、メグミに「使って」と言うように首を傾げた。

 メグミはさっそく、ルナ・シープの生乳をその中へ運び込んだ。ひんやりとした冷気が、保存食の鮮度を完璧に守ってくれる。


「ありがとう、スピカ。これがあれば、もっと美味しいものが作れるね」


 そんな平和な光景の裏で、カイルは一人、結界の境界線へと足を運んでいた。

 吹雪が完全に止み、密猟者たちの気配が消えたはずの雪原。そこに、一本の「矢」が突き刺さっているのを見つけたのだ。


「……これは……」


 カイルがその矢を拾い上げると、表情が険しくなった。

 矢羽の付け根には、密猟者の仕業にしてはあまりに精巧な「双頭の鷲」の紋章が刻まれていた。


「ただの金目当ての連中ではないな。……王国の『特殊捕縛隊』の紋章。なぜ、国がこれほどまでに希少な一角獣を追っている……?」


 カイルはその矢をマントの下に隠し、ロッジへと戻った。

 中では、ハルがスピカの背中に乗せてもらおうと奮闘し、ふくちゃんが「まだ早いよ!」とばかりに羽を広げて通せんぼをしている、いつもの賑やかな光景が広がっていた。


「カイルさん! おかえりなさい。今、スピカが作ってくれた氷室のミルクで『冷たいデザート』を作ろうって話してたの!」


 メグミの明るい声に、カイルは一瞬だけ迷い、そして努めて明るく振る舞った。

「おお! それは楽しみですな! 騎士たるもの、冷たい甘味には目がありませんぞ!」


「(……今はまだ、この平穏を壊すわけにはいかない)」


 カイルは密かに決意を固める。

 外の世界で何が起きていようとも、この聖域と、新しく増えた「家族(居候)」を守り抜くと。



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