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氷の華と、黄金の「お兄ちゃん」?


翌朝。メグミが煎じた薬草入りのミルクと、妖精たちの「床暖房」のおかげで、青い一角獣は自力で立ち上がれるまでになった。


「あ、起きた! おねえちゃん、見て、歩いてるよ!」


 ハルの声に振り返ると、一角獣はまだ少し震える足で、ロッジの床をトントンと蹄で叩いていた。すると、彼女が歩いた後の床から、透き通った氷の結晶が「パキパキ」と音を立てて広がり、繊細なガラス細工のような「氷の華」が咲き誇ったのだ。


「わあ……綺麗。……でも、この子、本当はどこから来たんだろう」


 メグミは、その透き通るような青い毛並みを遠巻きに見つめた。これほど神聖な獣だ、きっと深い森の奥か、誰も立ち入れない氷山に住んでいたに違いない。怪我が治れば、彼女はまた吹雪の向こう側へ帰っていくのだろう。


「ピョイイッ……!」


 そこへ、ふくちゃんだ。彼は新入りの「聖なる獣」を、鑑定するような目で見つめている。

 一角獣は、ふくちゃんの放つ圧倒的な「聖鳥」の気配に少し気圧されたのか、耳を伏せて小さく鳴いた。


「ふくちゃん、いじめちゃダメだよ。この子は今、体が弱ってるんだから」


 メグミがたしなめようとした、その時。

 ふくちゃんは、大切に自分の羽の中に隠し持っていた「煎り大豆」を一粒、クチバシで器用につまみ、一角獣の足元へポイッと放り投げた。


「ピョイッ(これ、食べて元気出しなよ)」


「……えっ、ふくちゃんが食べ物を分けてる!?」


 あの独占欲の塊のようなふくちゃんが、自分の宝物を差し出した。一角獣は恐る恐るその大豆を口に運ぶと、カリカリと小気味よい音を立てた。どうやらお気に召したようで、一角獣はふくちゃんのフカフカした胸元に、そっと鼻先を寄せた。


「ピョイ~♪」

 ふくちゃんは満足げに目を細め、翼を広げて一角獣の首筋を毛づくろいし始めた。その姿は、まるでお転婆な妹をあやす「黄金のお兄ちゃん」のようだった。


「ふふ、ふくちゃんが認めたなら、ひとまず安心かな。……ねえ、カイルさん。この子、名前がないと呼びにくいよね。怪我が治るまでの間だけでも、何か呼べる名前があったほうがいいと思うんだけど」


「左様ですな。聖域の客人に名もなきままでは、騎士の礼を欠きます」


 メグミは、一角獣の額で再生し始めた小さな角を見つめた。

「……冬の夜空に一番明るく光る、青白い星の名前。……『スピカ』っていうのはどうかな。似合ってると思うんだけど」


 一角獣――スピカは、その名が呼ばれた瞬間、耳をピクリと動かした。そして、メグミの手のひらに自分の額を預け、お礼にとばかりに小さな「溶けない氷の粒」を差し出した。


「(……まだ、ここを自分の家だと思ってくれるかは分からない。けれど……)」


 メグミは、スピカの青い毛並みをそっと撫でた。

 外の世界では密猟者が狙っている。この聖域の温もりが、彼女にとって少しでも安らぎになればいい。メグミはそう願いながら、傷ついた迷い子のために、もう一杯、温かいミルクを用意するのだった。



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