妖精の「床暖房」と、雪に閉ざされたロッジ
第32話
聖なる夜が明けた翌朝。メグミが目を覚ますと、ロッジの中が妙に薄暗いことに気づいた。
「……えっ、何これ。窓の外が真っ白……っていうか、雪で埋まってる!?」
一晩で降り積もった雪は、ロッジの半分ほどの高さまで達していた。扉を開けようとしても、雪の重みでビクともしない。
「おねえちゃん、お外に出られないよぉ! シープさんたち、大丈夫かな……。雪に埋もれて死んじゃってたらどうしよう……」
ハルが半べそをかきながら、窓の外の白い壁を見つめている。
「いかんですぞ! 私が剣で雪を切り裂いて救出に……!」
カイルが慌てて鎧を着込もうとした、その時だった。
「ちょっと、朝から騒々しいわねぇ。聖女様も騎士様も、落ち着きなさいな」
暖炉の影から、妖精たちがひょいと姿を現した。彼女たちは手にした小さな杖を振ると、ロッジの床に描かれた見たこともない幾何学模様が、淡く黄金色に光り出した。
「これを見て。私たちが数日がかりで仕込んだ『魔力循環式・融雪回路』よ。ふくちゃんの脂粉を触媒にして、地熱を引き上げてるんだから」
見ると、ロッジの周囲だけではない。シープたちの小屋へと続く道、そしてシープの小屋そのものの周りから、スウゥ……と霧のように雪が溶け始めているではないか。
「すごーい! 雪が勝手に消えていくわ!」
「当然よ。シープたちの小屋の床下には、特別に温かい石を敷き詰めておいたわ。今頃あの子たち、お腹を出して寝てるんじゃないかしら?」
急いで(妖精が道を作ってくれた)外へ出ると、そこには驚きの光景があった。
周囲は数メートルの積雪なのに、シープの小屋の周りだけは、まるで春のようにぽかぽかと温かい。シープたちは、妖精の「魔法の床暖房」の上で、メグミたちが心配していたのが馬鹿らしくなるほど、のんびりと反芻しながらくつろいでいた。
「ピョイ♪」
ふくちゃんなんて、小屋の屋根の上で、溶け出した水で優雅に「温水シャワー」を浴びている。
「……妖精さん、ありがとう! ずっと静かだったから心配してたけど、こんなに凄い準備をしてくれてたんだね」
「ふんっ、当然でしょ。私たちはこの聖域の管理人なんだから。さあ、道は作ったわ。美味しい朝ごはんでも作りなさいな!」
メグミは、妖精たちのファインプレーに感謝しつつ、雪に閉じ込められたからこそ楽しめる「冬の贅沢」の準備に取り掛かることにした。
「よし! 道もできたことだし、今日はこの雪を逆手に取って、保存していたお米で『新年のお餅つき』の予行演習をしよう!」
「もちつき! おねえちゃん、またもちもちが食べられるの!?」
外は極寒の銀世界。けれど妖精の魔法とふくちゃんの光に守られた聖域は、どこよりも温かく、美味しい香りに包まれていくのだった。




