銀世界と雪だるま
第30話
聖域は完全に、真っ白な雪に包まれた。
ロッジの中は、妖精たちが夜通し編み上げた「羊毛の絨毯」とストーブの温もりに満ちていた。
「ピョイ♪ ピョイイッ!」
ふくちゃんは、カイル特製の黄金色の腹巻きを巻き、さらに丸くなった姿で、窓の外の雪景色を眺めていた。
「……ふふ。ふくちゃん、本当に……不思議な存在だなぁ」
メグミは、ミルクを飲みながらポツリと呟いた。
以前の世界で知っていた「オカメインコ」という生き物は、本来、オーストラリアの乾燥した暖かい地域に住む鳥だ。寒さにはめっぽう弱く、冬はヒーターが欠かせない。温泉に入るなんて言語道断だし、石鹸の泡なんて羽の脂を落としてしまうから、絶対にダメなはずなのだ。
「……なのに。温泉でアワアワにまみれて『極楽~♪』って顔したり、この極寒の銀世界で腹巻き一枚でピンピンしてたり……。やっぱり、この世界にきて『聖鳥』になったから、オカメインコの常識なんて通用しないチートな存在になっちゃったのかな」
メグミが苦笑いしながら首を傾げていると、ハルが「おねえちゃん、お外で遊ぼうよ!」と、雪だるまのように着込んで、外へ飛び出していった。
「あはは、待ってハル! よし、ふくちゃんも、カイルさんも行こう!」
外に出ると、冷たく澄んだ空気が心地よい。
ハルはさっそく、雪を丸めて小さな玉を作り始めた。
「これね、こうしてコロコロ転がすと、どんどん大きくなるんだよ。……ほら!」
「わあぁ……! すごい、おねえちゃん! お空の雲が、お団子になっちゃった!」
メグミの教え通り、ハルは夢中で雪玉を転がし、自分の背丈ほどもある「巨大な雪玉」を作り上げた。
メグミはその上に、一回り小さな雪玉を乗せ、ルナ・シープの白い毛で髪の毛を、カイルが削った木の枝で腕を、そしてコーヒー豆で目を作った。
「できた! 聖域の『初代・雪だるま』だよ!」
「……おお。なんという……愛らしい。……まるで、聖女様を模したような、高潔な立ち姿ですな!」
カイルが雪だるまを見て感嘆している。
その時、ふくちゃんが「ピョイッ!」と短く鳴いた。
彼は、雪だるまの頭の上に、クチバシで器用に運んできた「黄金色の木の実」を乗せたのだ。
「あはは、ふくちゃん。これ、ふくちゃんの冠羽のつもり?」
黄金の冠羽が生えた雪だるま。それは、聖域の平和を象徴するような、とても温かい姿だった。
「よし、次は『雪合戦』だよ! カイルさん、覚悟して!」
「えっ、な、なな、なんですか、それは!? 騎士たるもの、雪玉などという軟弱な飛び道具に……」
メグミが投げた雪玉が、カイルの顔面に直撃した。
「……ぐっ。……な、なるほど。これは……これは戦いですな! よし、このカイル、騎士の誇りにかけて、聖女様の雪玉をすべて受け止めてご覧に入れましょう!」
カイルは雪玉を盾で防ぐ……のではなく、全身で受け止めながら、「アワアワ! 雪玉がアワアワですぞーーっ!」と、なぜかお風呂の時のように大興奮で雪だるまの周りを駆け回っていた。
「あははは! おじちゃん、雪まみれだぁ!」
ハルも大爆笑しながら、カイルに向かって小さな雪玉を投げ続ける。
外は極寒の銀世界。けれど聖域の中は、雪だるまと、温かい笑い声、そしてカイルの「アワアワ!」という謎の歓喜の叫びに包まれていた。
「(……みんながいるから、冬もこんなに楽しいね)」
メグミは、ハルの膝の上でシチューの匂いに誘われて鼻をひくつかせる「毛玉の要塞」ことモモを撫でながら、静かに更けていく聖域の夜を楽しむのだった。




