朝の水浴びパニックと、禁断の(?)
第3話
黄金の綿で作ったベッドは
まるで高級ホテルのスイートルーム……
いや、それ以上の寝心地だった。
メグミは昨日の疲れもあり、泥のように深い眠りについた。
――翌朝。
「……ん……。……重い。……苦しい……」
胸の上に、ずっしりとした「生きた重み」を感じて目が覚める。
目を開けると、そこには小型犬サイズ(柴犬くらい)になったふくちゃんが、どっしりとメグミの胸板に乗って、じっとこちらを見つめていた。
「……おはよう、ふくちゃん。
……可愛いけど、そのサイズで乗られると
本気で肺が潰れるよ……」
メグミが苦笑いしながら首元をカキカキしてあげると、ふくちゃまは「ピィ……」と甘えた声を出し、トサカ(冠羽)をぺたんと寝かせてとろけている。
「(……幸せすぎる。これが私の求めていたスローライフだわ……)」
だが、幸せな時間は長くは続かない
ふくちゃんは突然、何かに気づいたように「シャキーン!」と冠羽を立てると、寝室を飛び出してキッチンの方へトコトコと駆けていった
「あ、待って! 何か見つけたの?」
追いかけたメグミが見たのは、妖精たちが朝露を集めて作っておいた、大きな石造りの水瓶だった。
「ピョイイッ!!」
ふくちゃまの目が輝く。彼は迷うことなく、その水瓶の縁に飛び乗ると――。
「あ、ちょっと待って、そこでお水浴びは――」
バシャバシャバシャバシャッ!!!
全力の羽ばたきと共に
猛烈な水しぶきがキッチン中に飛び散る。
小型犬サイズとはいえ、もともとのパワーが凄まじいため、もはやスプリンクラー状態だ。
「わあああっ! メダカ鉢の中で暴れる犬みたいになってる! 床が、床が水浸しだよぉぉ!」
妖精たちは
「フク様の聖なる水浴びだわ! 浴びると幸運が訪れるわよ!」
とはしゃいで水しぶきを浴びているが、メグミは頭を抱えた。
「……ま、いっか。ふくちゃん、そんなにスッキリした顔しちゃって」
水浴びを終えたふくちゃんは、羽を逆立てて膨らみ、まるで「巨大な濡れたタワシ」のような姿に。
そこから漂ってくるのは、なんとも香ばしい、あの独特のインコ臭。
「よし、乾かしてあげるからおいで。……あ、そうだ。私もお風呂入りたいな。……さすがに、この水瓶じゃ無理だし」
メグミが濡れたふくちゃまをタオル(麻の布)で包みながら呟くと、妖精がひらひらと飛んできた。
「お風呂? それなら家の裏にいい場所があるわよ! フク様の脂粉で大地が蘇った時に、一緒に湧き出したの!」
「えっ、湧き出した!?
ってことは温泉!? 嘘、最高じゃん!」
メグミは期待に胸を膨らませて家の裏手へ向かった。そこには、岩の間からこんこんと透明なお湯が湧き出した、天然露天風呂が出来上がっていた。
「わあぁ……! 綺麗! ……って、ふくちゃま!? 待って待って!!」
メグミが服を脱ぐ間もなく、ふくちゃんが「ピョイーン!」と嬉しそうに温泉に飛び込もうとしたのだ。
「ダメーーーッ!! インコがお湯に入っちゃダメなの! 羽の脂が取れて体温調節できなくなっちゃうんだからぁ!!」
メグミは決死の覚悟でふくちゃまの尻尾を掴んで止めようとした。
元の知識では、インコにとってお湯は天敵。
羽の防水機能が失われ、命に関わる一大事なのだ。
「いいの、いいのよ聖女様! これはフク様の魔力に反応して湧いた『聖なる癒やしの湯』! 脂が取れるどころか、もっとツヤツヤになるわ!」
「ええっ!? そんな都合のいい設定……ああっ、もう入っちゃった!」
ドッパーン! とふくちゃんが豪快に温泉に浸かる。
メグミは血の気が引く思いで見守ったが……。
「……ピョイ?」
ふくちゃんは、極楽浄土と言わんばかりのトロンとした目で、お湯にぷかぷかと浮いている。羽がボロボロになるどころか、お湯を弾くどころか、むしろキラキラと輝きを増している気がする。
「……本当だ。全然平気そう……っていうか、めちゃくちゃ気持ちよさそう」
メグミはホッと胸を撫で下ろし、自分もゆっくりとお湯に浸かった。
温かいお湯が、異世界に来てからの緊張と疲れを溶かしていく。
「はぁ……。巨大インコと、温泉。……何これ、天国?」
隣では、巨大サイズのふくちゃまが、お湯の中で「ボフッ」とさらに大きく膨らんで浮かんでいる。その光景はシュールだが、たまらなく愛おしい。
「……さて。お風呂から上がったら、朝ごはん、何食べようか」
メグミは湯気に包まれながら
おやつ袋の中身……昨日残した黄金米やヒマワリの種のことを考えた。




