表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/54

冬の足音と、温かな「丸い福(おしるこ)」

第28話


 聖域を囲む遠くの山々が、うっすらと白く化粧を始めた。

 ロッジの中では、カイルが完成させた「木製の紡ぎ車」が、カラカラと心地よい音を立てている。


「……よし。これで、真っ白な毛糸の準備はバッチリだね」


 メグミは、紡ぎ出されたふわふわの糸束を満足げに眺めた。

 カイルは、意外にも編み物の才能を開花させていた。

「騎士たるもの、戦場での補修は基本……。この一編み一編みが、防寒という名の盾になるのですな!」

 と、誰よりも緻密で正確な編み目を作り出し、ハルのために小さな靴下を編み始めている。


 そんな中、メグミは寒くなるとどうしても食べたくなる「あれ」を作ることに決めた。


「ハル、今日のおやつはね、心も体もポカポカになる『おしるこ』だよ」


「おしるこ……? おねえちゃん、また新しい魔法?」


 メグミは、以前カイルが持っていた小豆(石豆)をハチミツでじっくり煮込み、たっぷりのあんこを作った。

 だが、問題は「お餅」だ。この世界に本物のもち米はない。そこでメグミは、炊いた黄金米をすり鉢に入れ、ハルと一緒に力いっぱい叩いて練り上げた。


「……ふぅ。お米をこうしてよく練るとね、お餅みたいに粘りが出るんだよ。これを丸めて……」


 お米の粒が半分ほど残った「半ごろし」の状態だが、それがかえって素朴で美味しそうだ。

 メグミは、温かいあんこの汁の中に、こんがり焼いたお米の団子を浮かべた。


「はい、おしるこ完成! カイルさんも、編み物の手を止めて食べてみて」


 お椀から立ち上る、小豆の優しい甘い香り。

 ハルはおそるおそる、その「白い丸いもの」を口に運んだ。


「…………っ! もちもちしてる! おねえちゃん、これ、お米なの!? すっごく伸びるよぉ!」


 ハルは、人生で初めての「もちもち」という食感に目を丸くした。お米の甘みが凝縮された団子に、あんこの汁が絡まって、口の中でとろけていく。


「……おお、なんという慈悲深い味だ。……この粘り、この温かさ。……寒い中での作業で冷え切った身体に、命の灯火が灯るようです……」

 カイルも編み棒を置き、涙ぐみながらおしるこを啜っている。


「ふふ、ミルクを入れて『ミルクおしるこ』にしても美味しいんだよ? 試してみる?」


 メグミが温めたルナ・シープのミルクを少し注ぐと、さらにコクが増し、至高の冬スイーツへと進化した。

 ふくちゃんも、おしるこの温かい湯気を浴びながら「ピョイ~♪」と幸せそうに鳴き、モモはハルの膝の上で、おしるこの香りに包まれながら丸くなっている。


「(……外は寒くなってきても、ここには美味しいものと、温かい毛糸がある。……冬を越す準備は、着々と進んでるね)」


 メグミは、窓の外の雪山を見つめながら、次はこの「ミルク」を使って、もっと温まる「白いスープ(シチュー)」を作ろうと心に決めるのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ