冬の足音と、温かな「丸い福(おしるこ)」
第28話
聖域を囲む遠くの山々が、うっすらと白く化粧を始めた。
ロッジの中では、カイルが完成させた「木製の紡ぎ車」が、カラカラと心地よい音を立てている。
「……よし。これで、真っ白な毛糸の準備はバッチリだね」
メグミは、紡ぎ出されたふわふわの糸束を満足げに眺めた。
カイルは、意外にも編み物の才能を開花させていた。
「騎士たるもの、戦場での補修は基本……。この一編み一編みが、防寒という名の盾になるのですな!」
と、誰よりも緻密で正確な編み目を作り出し、ハルのために小さな靴下を編み始めている。
そんな中、メグミは寒くなるとどうしても食べたくなる「あれ」を作ることに決めた。
「ハル、今日のおやつはね、心も体もポカポカになる『おしるこ』だよ」
「おしるこ……? おねえちゃん、また新しい魔法?」
メグミは、以前カイルが持っていた小豆(石豆)をハチミツでじっくり煮込み、たっぷりのあんこを作った。
だが、問題は「お餅」だ。この世界に本物のもち米はない。そこでメグミは、炊いた黄金米をすり鉢に入れ、ハルと一緒に力いっぱい叩いて練り上げた。
「……ふぅ。お米をこうしてよく練るとね、お餅みたいに粘りが出るんだよ。これを丸めて……」
お米の粒が半分ほど残った「半ごろし」の状態だが、それがかえって素朴で美味しそうだ。
メグミは、温かいあんこの汁の中に、こんがり焼いたお米の団子を浮かべた。
「はい、おしるこ完成! カイルさんも、編み物の手を止めて食べてみて」
お椀から立ち上る、小豆の優しい甘い香り。
ハルはおそるおそる、その「白い丸いもの」を口に運んだ。
「…………っ! もちもちしてる! おねえちゃん、これ、お米なの!? すっごく伸びるよぉ!」
ハルは、人生で初めての「もちもち」という食感に目を丸くした。お米の甘みが凝縮された団子に、あんこの汁が絡まって、口の中でとろけていく。
「……おお、なんという慈悲深い味だ。……この粘り、この温かさ。……寒い中での作業で冷え切った身体に、命の灯火が灯るようです……」
カイルも編み棒を置き、涙ぐみながらおしるこを啜っている。
「ふふ、ミルクを入れて『ミルクおしるこ』にしても美味しいんだよ? 試してみる?」
メグミが温めたルナ・シープのミルクを少し注ぐと、さらにコクが増し、至高の冬スイーツへと進化した。
ふくちゃんも、おしるこの温かい湯気を浴びながら「ピョイ~♪」と幸せそうに鳴き、モモはハルの膝の上で、おしるこの香りに包まれながら丸くなっている。
「(……外は寒くなってきても、ここには美味しいものと、温かい毛糸がある。……冬を越す準備は、着々と進んでるね)」
メグミは、窓の外の雪山を見つめながら、次はこの「ミルク」を使って、もっと温まる「白いスープ(シチュー)」を作ろうと心に決めるのだった。




