禁断の「追いバター」と、白き羊毛の宝物
第26話
聖域の片隅に、カイルが腕によりをかけて作った「白樺の柵」と小さな小屋が出来上がった。そこには、おからと聖域の野草ですっかり丸々と太り、雪のように真っ白な毛をなびかせる四頭のルナ・シープたちが、のんびりと草を食んでいる。
「ふふ、みんなすっかり馴染んだね。……さて、カイルさん! 搾りたてのミルク、準備はいい?」
「はっ! このカイル、今や『ミルク絞りの騎士』の異名を持つ(自称)ほどに熟練いたしましたぞ!」
カイルが手際よく搾り出した濃厚なミルクを、メグミはさっそく加工し始めた。大きな瓶にミルクを入れ、ハルと一緒に交互に力いっぱい振り続ける。
「……おねえちゃん、手が疲れちゃった……。でも、なんか固まってきたよ!」
「よし、あともう少し! ……あ、分離したわ。これよ、これ!」
瓶の中に現れたのは、水分から分離した瑞々しい黄色の塊――「手作りバター」だ。
メグミは、その出来立てのバターを、焼き立ての米粉あんパンの上にこれでもかと厚く乗せた。
「はい、召し上がれ。
『禁断の追いバターあんパン』だよ!」
「……な、なんですな、この不穏なほどに魅力的なビジュアルは……」
カイルがおそるおそる齧り付く。
「…………っ!!」
カイルは天を仰ぎ、その場に崩れ落ちた。
「……あ、ああ……。あんこの甘さと、この『ばたー』という脂の暴力的なコク……。そして、パンの塩気。……聖女様、これは……これは人間をダメにする食べ物ですぞ……! 騎士の理性が、溶けてなくなってしまいます……!」
ハルも「おいしすぎるよぉ!」と、口の周りをバターまみれにして、ふくちゃんと一緒に転げ回っている。
贅沢なティータイムの後、メグミは以前作った
「麻の実の繊維で織ったタオル」で、ハルの口元を優しく拭いた。
「麻のタオルは丈夫で吸水性もいいけど……冬の夜を越すには、もう少し『ふかふか』した温かさが欲しくなるよね」
ふくちゃんの抜け落ちた黄金の羽で作った羽毛布団は最高に温かいが、それはあまりに神聖で数に限りがある。メグミは、ルナ・シープたちが柵にこすりつけて残していった、大量の「白い抜け毛」をそっと手に取った。
「カイルさん。このルナ・シープの毛、麻の繊維とは比べものにならないくらい弾力があって温かいわ。……これ、丁寧に洗って紡いだら、最高の『毛糸』になるんじゃない?」
「……毛糸、ですか。なるほど、これほど純白で柔らかい毛ならば、編み込めば極上の防寒着になりそうですな。麻の服よりも肌触りが良さそうだ」
メグミはその真っ白な毛を一掴み手に取り、指先で感触を確かめた。
「(……これがあれば、ハルに温かいセーターを編んであげられるし、カイルさんにも新しいマフラーを作れるかも……)」
メグミの頭の中に、編み物や織物の計画がムクムクと湧き上がってきた。
モコモコな仲間たちがもたらしたのは、美味しいミルクだけではなく、冬を乗り切るための「温もり」という宝物だったのだ。
「……よし、次は『紡ぎ車』をどうにかして作らなきゃ。カイルさん、また木の加工、お願いしてもいい?」
「ははっ! 聖女様のため、そしてこの素晴らしいバターの恩を返すため! このカイル、最高の紡ぎ車を拵えてみせましょう!」
夕闇が迫る中、メグミは白い毛の束を大切に抱え、冬の支度への第一歩を思い描くのだった。
巨大黄金毛玉のモモは、すでに自分の毛並みとシープの毛が絡まって、どちらが本体か分からないほどの「もふもふの要塞」と化していた。




