泡まみれの聖鳥と、黄金の滴
第23話
石鹸の「アワアワ」の虜になったのは、人間だけではなかった。
翌朝、メグミが源泉風呂の掃除に向かうと、そこには「巨大な入道雲」のようなものが湯気と共にこんもりと浮き上がっていた。
「……えっ、何これ。お風呂が泡で溢れてる!?」
よく見ると、泡の山の中から黄金色の冠羽がピョコッと飛び出している。
ふくちゃんだ。昨夜、カイルが「アワアワ最高ーっ!」と叫んでいたのを見て、どうしても我慢できなくなったらしい。巨大化した状態で石鹸を器用に転がし、温泉をバシャバシャとかき混ぜて、自分専用の「超・巨大泡風呂」を自作してしまったのだ。
「ピョイ~~♪」
ふくちゃんはうっとりと目を細め、全身をもこもこの泡に包まれて浮かんでいる。その姿はもはやインコではなく、空から落ちてきた巨大な綿菓子のようだった。
「ふ、ふくちゃん……!? 泡だらけじゃない!」
「おねえちゃん、ふくちゃんが消えちゃいそうだよ!」
ハルも大はしゃぎで泡の山に突撃し、ふくちゃんと一緒に泡まみれになって遊び始めた。
そんな賑やかな光景を眺めながら、メグミは自分の髪を指に巻き付けた。
「……ふふ。みんな綺麗になったのはいいけど、少し毛先がパサつくかな。……よし、カイルさん! あの『石豆(大豆)』を少し分けて。これで『油』を搾ってみようと思うの」
「豆から油を!? 聖女様、そんなことが……」
メグミの指揮のもと、新しい作業が始まった。茹でて乾燥させた大豆を石臼に入れ、カイルが力強く挽いて粉にする。それを布に包み、石窯の重い石を「重石」にして、じっくりと時間をかけて圧力をかけていく。
やがて、布の隙間から一滴、また一滴と、黄金色に輝く濃厚な液体が滴り落ちた。
「できた……。天然のダイズオイルだわ」
メグミはそのオイルに、ハチミツと、ラベンダーのエキスを混ぜ合わせた。手のひらで温めると、甘く気品のある香りが立ち上る。
泡風呂から上がって乾かしたふくちゃんの羽や、自分たちの髪に、この特製オイルを薄く馴染ませていくと――。
「わあぁ……! クシが勝手に滑っていくよ!」
「おおおっ、私の髪が王都の絹織物のような手触りに……! 私は今、ラベンダーそのものになった気分ですな!」
カイルがサラサラヘアをなびかせ、石板の前でうっとりとポーズを決める。
そして仕上げに、ハルの肩に乗ったモモの毛並みにも、指先に残ったオイルをほんの少しだけ馴染ませてみた。
すると、どうだろう。
石鹸で汚れを落としきったモモの極細の毛一本一本が、上質なオイルを吸収して、根本からふわっと立ち上がったのだ。
ボフンッ……!!
「えっ……ええええっ!?」
そこには、元のサイズの数倍に膨らんだ、
「超・巨大黄金毛玉」と化したモモがいた。
素材の良さと丁寧な手入れだけで、モモの毛並みは生き物とは思えないほどの「爆発的なもふもふ度」に達してしまった。
「……ハル。これ、本当にモモだよね?」
「う、うん。……すっごく柔らかいよ。指がどこまでも沈んでいっちゃうよぉ……」
ハルが指を突っ込むと、手首まで「もふっ」と吸い込まれてしまう。モモ本人は、あまりの自分の「もふり具合」に満足したのか、誇らしげに目を細めて「キュ~……」と幸せそうな吐息を漏らしていた。
お腹は満たされ、お肌はツヤツヤ、仲間は究極のもふもふ。
メグミは、そんな平和な光景に包まれながら、次は何を作ろうかと、楽しい悩みに胸を膨らませるのだった。




