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おやつ袋の奇跡と、愛の重いマイホーム

第2話


「……よし。一旦、落ち着こう」


メグミは深呼吸をして、荒れ果てた……というか

ふくちゃんのパニックでさらに瓦礫の山と化した「元・家」を見渡した。


アドレナリンが切れてきた途端、ドッと疲れが押し寄せ、お腹の虫が「ぐうぅ」と切実な空腹を訴えてくる。


「何か……何か食べられそうなもの……。あ」


 スウェットのポケットを探ると

指先にカサリとした感触があった。

 

取り出したのは、透明なジッパー付きの小さなおやつ袋。

中には、ふくちゃんへの「おやつ」として小分けにしていたミックスシードが入っている。


「これ、寝る前に

ふくちゃんにあげようと思ってたおやつだ。


ひまわりの種に、麻の実、サフラワー


……あ、お米の粒も入ってる」



メグミが袋を開けると、ふくちゃんが「ピョイッ!」と目ざとく反応して、巨大なクチバシを近づけてきた。


「……ダメだよ、ふくちゃん!


これは非常食。……私の」


メグミはふくちゃまの巨大な顔を押し返し、袋の中からひまわりの種を一粒つまみ上げた。

インコ用だが、背に腹は代えられない。

剥いて食べればナッツみたいなものだ。


メグミが意を決して種を口に入れようとした、その時。


「ちょっと待ったぁぁぁ!!


何を召し上がろうとしてるの、聖女様!?」


 妖精たちがメグミの顔面に突撃してきた。

一匹がメグミの唇を塞ぎ、もう一匹が種を叩き落とす。


「ふぎゃっ!? な、何よ、お腹空いてるの!」


「空いてるからって、フク様の『聖なる供物』を横領するなんて不敬ですわ!」


「そうよ! 聖女様がそんなものを食べたら、体がインコ臭くなっちゃうわよ!」


「……はあ? これ、近所のホームセンターで買った徳用パックなんだけど!?」


 妖精たちはメグミの手からおやつ袋をひったくると、巨大なふくちゃまの足元へ捧げ持っていった。


「ピョイ♪」


ふくちゃんは嬉しそうにおやつ袋をクチバシで受け取ると、器用にジッパーを開け、中身をパラパラと地面に撒き散らした。


そして、満足げに羽をバサバサと振るう


瞬間、大量の黄金の脂粉(お粉)が種に降り注いだ



ゴゴゴゴ……と地響きが鳴り

地面から猛烈な勢いで芽が吹き出す


ヒマワリは太陽に向かってそびえ立ち、

数粒のお米は一瞬でこうべを垂れる黄金の稲穂へと姿を変えた。


「えええっ!?


植えて一秒で収穫!? 魔法、便利すぎない!?」


呆然とするメグミに

妖精が青緑色の実を差し出してきた。


「これは『ソルト・ベリー』。潰すといい塩加減になるわ。これでその白い実(お米)を味付けするのよ!」


「えっ、味付け……?

でも、鍋もないし、どうやって炊けば……」


「任せなさい! 私たちが水を操って、フク様が熱を加えればいいのよ!」


そういい妖精たちが魔法を唱えると、

空間に浮かんだ水が大きな「水の球」となり

その中へ収穫したてのお米を包み込んだ。


そこへ、ふくちゃんが「ピョイィィッ!」と気合を入れて、クチバシからポカポカとした熱風を吹きかける。


水の球が沸騰し

お米がふっくらと炊き上がっていく

魔法の力でお米が空中で固定されているため、一粒もこぼれ落ちることはない。


「わあぁ……! 浮いてるお米が炊けてる! すごい、本当に炊き立てのご飯だ!」


メグミは、魔法で蒸し上がったばかりの黄金米をまとめ、ソルト・ベリーを塗り込んでおにぎりにした。

一口食べると、絶妙な塩気とお米の甘みが口いっぱいに広がる。

その隣でふくちゃんはひまわりの種を大きなクチバシでパチパチと殻を割って食べている。


「おいしい……! 異世界に来て最初の食事が、まさかふくちゃまのおやつだったなんて……」


お腹が満たされると

次に気になるのは「寝床」だ。

 

視線を上げれば、屋根のない瓦礫の山


「……ねえ、妖精さん。この『青空すぎる家』、どうにかならない? 雨が降ったら私、詰むんだけど」


「ふふん、任せなさい! 聖女様とフク様のために、とっておきの住まいを設えてあげますわ!」


妖精たちが一斉に呪文を唱えると

ふくちゃまが撒いた「麻の実」の茎が意思を持っているかのように瓦礫を巻き込みながら成長し、頑丈な『樹木のロッジ』へと姿を変えた。


さらに妖精たちは、残った麻の繊維を魔法で編み上げ、ふかふかの黄金の綿(粟の穂から採取したもの)を詰め込んで、即席の大きなベッドまで仕立て上げた。


「すごーい! ログハウスにベッドまで! ……あ、でも待って」


 メグミは、立派なドアと、その横に立つ

「軽自動車サイズ」のふくちゃんを見比べた。


「ふくちゃん、このドア通れなくない?

結局、私だけ中でふくちゃまは外でお留守番?」


「ピョイ……?」


 ふくちゃんも悲しそうにシュンと首を下げる。

その時、玄関のアーチに編み込まれたツタがキラキラと輝き出した。


「聖女様、この『サイズ調整魔法陣』をくぐらせてごらんなさい!」


メグミがふくちゃんの羽を引いて

おそるおそる玄関をまたがせると――。


ポンッ!


シャンパンの栓を抜いたような軽い音とともに、ふくちゃまの姿がみるみる縮んでいく。


そこにいたのは、小型犬(柴犬くらい)のサイズになった、抱っこし心地抜群のふくちゃんだった。


「えええっ!? ちっちゃくなった! 可愛い! ちょうどいいサイズ!!」


「ピョイッ♪」


 ふくちゃんは体が軽くなったのが楽しいのか、トコトコと家の中に駆け込み、出来立てのふかふかベッドへダイブした。


「(……混乱続きでどうしようかと思ったけど、家も食べ物も確保できた。最強の相棒インコもいるし魔法もある、ここは案外、前世よりも楽園に近い場所になるかもしれない。


これなら、最高の引きこもり……じゃなくて、スローライフが送れそう!)」



メグミは小型犬サイズのふくちゃんを抱きしめながら、ようやく本当の安らぎを感じ目を閉じた。


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