騎士の目覚めと、巨大インコの洗礼
第17話
「……う、うう……。ここは……」
銀色の鎧を纏った騎士が、ゆっくりと重い瞼を持ち上げた。
視界に入ってきたのは、木漏れ日が差し込む高い天井と、香ばしいハーブの匂い。そして――。
「ピョイイッ?」
ドアップの黄色い顔。
そこには、軽自動車サイズに巨大化したふくちゃんが、興味津々で騎士の鼻先数センチまで顔を近づけ、寄り目でじーっと覗き込んでいた。
「ひゃ、ひゃああああっ!? 怪鳥!? 黄金の……グリフォンか!?」
騎士は飛び起きたが、あまりの空腹と疲労で腰が抜け、そのまま尻餅をついた。
「あ、起きた? よかった。ふくちゃん、驚かせちゃダメだよ」
メグミがハーブティーを持って近づくと、騎士は今度はメグミを見て、弾かれたように膝をついた。
「お、おお……! あなた様は……。この呪われた荒野を花園に変え、伝説の聖鳥を従える御方……。……やはり、予言に聞く『黄金の聖女』様なのですね!?」
「え、黄金の聖女? ……いや、ただのメグミです。あと、この子は聖鳥じゃなくてインコのふくちゃん」
「インコ……? いえ、この神々しいお姿、溢れ出す生命の輝き……間違いありません。私は、王国騎士団のカイルと申します! 荒野を調査中に魔物に襲われ、仲間とはぐれ……死を覚悟したところで、あの神々しい香りに導かれここに参りました!」
「神々しい香り…あーパンの香りにね!パンの香りに導かれる騎士様って、なんだか親近感わくね」
メグミが苦笑いしながら、焼き立ての米粉パンとハチミツを差し出した。
カイルは震える手でそれを受け取り、一口食べると――。
「……っ!! な、なんという慈悲深い味……! 汚れきった私の身体に、聖なる力が満ちていくようです……ううっ(涙)」
「おじちゃん、泣かないで? これ、ふくちゃんが焼いたんだよ!」
ハルが隣でニコニコしながら教えると、カイルは驚愕してふくちゃんを仰ぎ見た。
「な……この聖鳥自らが、石窯で……!? なんという高潔な鳥なのだ……!」
ふくちゃんは「まあね!」と言わんばかりに、巨大な翼を広げてバサバサッと脂粉(お粉)を撒き散らした。その輝きを浴びて、カイルの鎧の傷がみるみる修復され、ボロボロだった体力が全回復していく。
「お、おおおっ! 傷が治る!? やはり……やはりあなたは伝説の……!」
「(……あ、また勘違いが加速してる……)」
メグミは、キラキラした目で自分とふくちゃんを拝み始めた騎士を前に、遠い目をした。
どうやら、静かだったスローライフに「王国の事情」という、ちょっと面倒くさそうな要素が混ざり始めてしまったようだ。
「(……ま、お腹いっぱいになったら、帰ってもらうしかないかなぁ)」
だが、カイルの胃袋はすでに、ふくちゃんの焼いた「黄金のパン」の虜になっていた。




