ふかふか黄金パン
第15話
石臼で挽いた真っ白な米粉を前に、メグミは腕を組んだ。
「……よし。粉はできたけど、これをふっくらさせるには『酵母』が必要だよね」
現代ならイースト菌を振りかけるところだが、ここにはない。
すると、妖精たちが「それなら任せて! 私たちの出番だわ!」と、一番熟したリンゴを持ってブンブンと飛び回った。
「聖女様、このリンゴの皮には、美味しいパンを作る『小さな精霊』が住んでいるのよ。私たちの魔法で、その子たちをちょっとだけ急かしてあげるわね!」
刻んだリンゴとハチミツ、精霊の湖の水を木の器に入れ、妖精たちが何かを呟くと――。
シュワワワッ……! ポコポコポコッ!
本来なら数日かかる「リンゴ酵母」が、妖精たちのスパルタ魔法によってわずか数分で完成! 甘い香りの天然酵母液ができあがった。
「すごい! これを米粉に混ぜて……よし、ハル、一緒にこねよう!」
「うん! おねえちゃん、ぷにぷにしてて、いいにおいがするね!」
ハルと二人で生地を丸める。だが、ここでメグミは周囲を見渡した。
「……でも、これを直火で焼くと焦げちゃうよね。
……よし! 『石窯』を作ろう!」
「ピョイッ!」
ふくちゃんが力強く頷き、湖のほとりから手頃な平たい石を次々と運んできた。
メグミとハルが石を積み上げ、妖精たちが「魔法の泥」を隙間に塗り込んでいく。仕上げにふくちゃんがクチバシで形を整えると、立派なドーム型の石窯が完成した。
「ふくちゃん、中を温めて!」
「ピョイイッ!」
ふくちゃんが窯の口から「超高温の熱風」をゴォォォーッ!と吹き込む。一気に熱せられた石の余熱で、窯の中は最高のオーブン状態になった。
ハルが木の板に乗せた生地を慎重に窯の中へ入れると、やがて香ばしい、たまらなく甘い匂いが立ち込めてきた。
「できた……! 焼き立ての黄金米粉パン!」
外はパリッと、中はモチモチ。
メグミは手作りの木の皿にパンを並べ、ハチミツをたっぷりと垂らした。
「さあ、みんなで食べよう! 妖精さんも、こっちおいで!」
「わあーい! 待ってました!」
「いい匂いすぎるわ! いただきまーす!」
メグミとハルとふくちゃんのそして手のひらサイズの妖精たちが一斉にパンにかぶりつく。
「…………っ!!」
米粉の甘みと、リンゴ酵母のフルーティーな香り。石窯の遠赤外線で中までアツアツのパンに、全員が目を輝かせた。
「おいしい! おねえちゃん、おそとがカリカリだよ!」
「ピョイ♪ ピョイ♪」
「こんなに美味しいパン、千年ぶりだわ!」
ふくちゃんも、ハルに小さくちぎってもらったパンを「ハフハフ」と幸せそうに食べている。
だが、その幸せな「焼き立ての匂い」は、ふくちゃんの熱風に乗って結界の霧を越え、遠くの荒野まで流れていってしまった。
モグモグとパンを頬張るメグミの耳に、微かに、けれど確かな音が届く。
――ガシャン……カシャ……。
それは、重い金属が擦れ合うような、不吉で切実な音。
霧の向こうから、今にも倒れそうな足取りでこちらに向かってくる「誰か」の気配だった。




