黄金のひまわり
第9話
ハルが小さな手で庭の隅を少しだけ掘り、大切そうに一粒の『ひまわりの種』を埋めた。
そこへ、小型犬サイズのふくちゃんがトコトコと歩み寄り、翼を「バサッ!」と力強く振るう。
――キラキラキラ……。
舞い落ちた黄金の脂粉が土に吸い込まれた瞬間、地面がボコッと盛り上がり、猛烈な勢いで茎が伸びた。ハルの背丈をあっという間に追い越し、見上げるような大輪の花がパッと開く。
「わあぁ……! お花……光ってる!」
ハルが歓声を上げた。ふくちゃんの「お粉」をたっぷり浴びて育ったひまわりは、夕闇が迫る荒野の中で、まるでランタンのように淡い黄金色の光を放ち始めたのだ。
「すごいね、ハル! これで夜になっても、お家迷子にならないよ。ハルが植えてくれたからだね」
「……ぼくが。ぼくが、あかりをつけたの……?」
ハルは自分の手を見つめ、それから誇らしげに胸を張るふくちゃんを見上げて、今日一番の笑顔を見せた。
「さて、お仕事の後はごはんにしよう! 今日はハルの歓迎会だよ」
ロッジに戻った三人と一羽。
メニューは、ふくちゃんが「バシィッ!」と弾き飛ばした新鮮な魚の塩焼き、菜園で採れたばかりのシャキシャキの小松菜、そして炊きたての黄金米おにぎりだ。
「さあ、召し上がれ!」
ハルはおそるおそるおにぎりを手に取り、大きく一口頬張った。
「……ん……! おいしい……! おこめ、あまい……っ!」
ハルは涙目になりながら、夢中で食べ進める。今まで泥水をすすり、硬い根っこをかじって生きてきた彼にとって、温かくて味のある食事は、何よりの魔法だった。
「ピョイッ♪」
ふくちゃんも、メグミに剥いてもらったリンゴを「シャリシャリ」と小気味よい音を立てて食べている。
窓の外では、ハルが植えたひまわりが優しく庭を照らし、精霊たちが住む湖が月明かりを反射してキラキラと輝いている。
「(……信じられない。今朝までは一人と一羽で途方に暮れてたのに。今はもう、こんなに賑やかで温かい)」
メグミは、ハルがおにぎりを頬張る様子を眺めながら、自分も温かいスープ(魚の出汁で作ったもの)を啜った。
「ねえ、ハル。明日はあっちの荒地を、もっとお花畑にしてみようか。ハルの好きな色のお花、たくさん咲かせよう」
「……うん! ぼく、あかいろのおはな、みてみたい!」
「よし、決まりだね。ふくちゃん、明日もお粉の準備、よろしくね?」
「ピョイイッ!」
ふくちゃまは力強く鳴くと、満足げにメグミの足元に体を寄せた。
呪われた荒野。絶望の土地。
けれど、今このロッジの中だけは、世界で一番優しくて、インコ臭くて、幸せな場所だった。
こうして、異世界スローライフの記念すべき「最初の一日」は、静かに、そして温かく更けていった。




