目が覚めたら愛鳥が巨大化してた件
1話
「……んん……重い。
ふくちゃん、まだ朝じゃないよ……」
日和 恵は
いつものように愛鳥が顔の上に乗ってきたのだと思い、寝ぼけ眼で手を伸ばした。
だが、指先に触れたのは、シルクのような羽毛ではなく、丸太のような太い脚だった。
「…………え?」
「ピョイ?」
耳元で響いたのは、鼓膜を震わせるような重低音の鳴き声。
あまりの違和感に、メグミは跳ね起きた。
「ぎゃあああああああ!?」
パニックで飛び起きようとしたメグミの視界に、その怪物の「顔」が映る。
鮮やかなレモンイエローの羽。そして、見覚えがありすぎる、オレンジ色のほっぺ……。
「……え!?待って!?
ふ、ふくちゃん!? ふくちゃんなの!?
なんでそんなにデカいの!? てかここどこ!!」
目の前にいるのは
軽自動車ほどもある巨体のオカメインコ
慌てて周りを見渡すが、そこはワンルームの自分のアパートでは断じてなかった。
大きな穴があいた、かろうじて「かつては屋根だったもの」が乗っかっているだけの、ボロボロの石造りの家。壁は崩れかけ、床はひび割れた赤茶色の土
「な、何このボロ家!?事故物件!?
私、自分の部屋で寝てたはずじゃ――!?
ていうか、ふくちゃん、動かないで!
危ないからステイ! ステイイイ!!」
「フシュッ、ピョ、ピョイイイイッ!!」
メグミの悲鳴に、ふくちゃんの方が驚いてしまった。
魔の「オカメパニック」発動である。
バサバサバサッ!! と巨大な翼がひと振りされるたびに、凄まじい突風が巻き起こる。
次の瞬間、頭上にあった「屋根であろう物体」が、紙飛行機のように空の彼方へ飛んでいった。
「あああああ! 飛んでったぁぁ!
……あ、壁も崩れた!
全壊!? 一瞬で全壊したんだけど!?」
ボロ家一瞬にして全壊。
メグミの目の前には、屋根も壁もない
「開放感すぎる」荒野の景色が広がった。
だが、ふくちゃんがパニックで暴れるたび、羽の間から大量の「黄金の粉(脂粉)」が猛吹雪のように舞い散る。
その粉が地面に触れた瞬間、地割れが塞がり、見たこともないほど瑞々しい緑の草が爆発的に生え揃っていった。
「……は? えええっ!? 植物が……生えた!? パニックで緑化……!?」
ようやく落ち着いたのか、ふくちゃまは「ピィ……」と大きなため息をつくと、のそりとメグミに近づいてきた。
そして、巨体を低くかがめ、メグミの目の前に大きな後頭部を差し出してきた。
(……パニックで怖かったから、カキカキして!)
いつもの「撫でろ」のポーズだ。
「……あ、もう。デカくなってもやることは一緒なんだから」
メグミがパニックのまま、丸太のような首筋を指先で「カキカキ」してあげる。するとふくちゃまは気持ちよさそうに目を細め、幸せそうに喉を鳴らした。
「……ああ、なんという奇跡だわ……!」
突如、聞き慣れない黄色い声が響いた。
草むらからガサガサと、手のひらサイズの羽の生えた小人たちが這い出してきたのだ。
「ひっ!? 喋る虫!? それとも宇宙人!?」
「失礼ね! 私たちはこの地を司る風の妖精よ!」
「よ、妖精……!? 本物の? CGじゃなくて!? ていうか、喋ったぁぁ!!」
メグミは悲鳴を上げて後ずさった。
巨大化した愛鳥だけでもキャパオーバーなのに、伝説上の生き物まで現れたのだ。
脳内は「夢だ、これは悪い夢だ」という現実逃避で埋め尽くされる。
しかし、妖精たちはメグミの混乱などお構いなしに、巨大なふくちゃんの前にひれ伏した。
「伝説の『黄金の聖鳥様』が、この死んだ荒野の大地を蘇らせてくださった……! そして、その聖鳥様を指一本で撫で回して手懐けるなんて……間違いない!
あのお方は伝説の『聖女様』よ!」
「聖鳥様は『ふくちゃん』とおっしゃるのね……! なんて高貴で愛らしい響きかしら……フク様……素敵……!」
「……はあぁ!? いや、ただのカキカキなんだけど! てか聖女って何!? 妖精って何なのよぉぉ!!」
メグミの叫びが、蘇ったばかりの緑の草原に虚しく響き渡る。
知らない土地
巨大化したインコ
喋る妖精
身に覚えのない「聖女」という肩書き
そして家なし
メグミの「最高のスローライフ」への道は
キャパオーバーのパニックから幕を開けたのだった。




