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解析しか持たない俺が、クラスごと異世界に召喚された結果、魔王討伐がほぼ無理ゲーだと気づいてしまった件  作者: いちじく


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第7話 出陣準備と、世界の現実



 王都は、一夜にして様相を変えた。

 朝を告げる鐘が鳴るより早く、城門の周囲は騒然としている。


 兵士の怒号。

 荷車の軋む音。

 物資を巡って言い争う声。


 ――戦争が、動き出した。


 騎士団への命令は簡潔だった。


「即日出兵」


 ゴードン団長の声に、迷いはない。


 相沢純也が所属する騎士団――総数五千。

 彼らは休む間もなく装備を整え、部隊ごとに再編成されていく。


 食糧は最低限。

 補給の保証はない。


 それでも、誰一人として異を唱えなかった。


 一方、王城内では、派遣予定の勇者たちが集められていた。


 出陣前の決起パーティー。

 名目は「士気高揚」だが、実態は別だ。


 豪奢な料理。

 酒。

 音楽。


 特権勇者たちは輪になって杯を重ねていた。


 神崎隼人が声を荒げる。


「何で俺が出陣じゃないんだ!

 橘に何かあったらどうするんだ!」


 一条玲奈が冷静に答える。


「大丈夫よ。大隊の護衛が付くんだから」

「それに橘さんの場合、上位スキル持ちの近衛兵が十人も随行するのよ。待遇としては破格だわ」


 その輪の中心で、橘美咲は落ち着かない様子で立っていた。


「……私、本当に行くんですよね」


 不安を隠しきれない声。


 そこへ、宰相が穏やかな表情で歩み寄る。


「前線拠点は比較的安全です」

「あなたの役目は回復と支援。直接戦闘に出ることはありません」


 橘は胸に手を当て、ゆっくりと息を吐いた。


「……分かりました」


 それは誰かにではなく、自分自身に言い聞かせる言葉だった。


 通常勇者たちは、別室で盛り上がっていた。


「中隊随行だってさ。百人も付くなら余裕だろ」

「魔王軍? 数が多いだけじゃん」

「俺たちが倒して帰ってきたら、褒美は独占だな」


 大杉大河。

 佐藤航。

 本田和人。

 中村裕子。


 四人は声高に笑い、クラスメイトに向かって大言壮語を並べる。


「帰ってきたら英雄だぜ?」

「もう一般人とは住む世界が違うっての」


 その場に、不安の色はなかった。


 その頃。


 相沢純也は、すでに兵舎で出陣準備を終えていた。


 余計な荷は持たない。

 剣。

 予備の装備。

 最低限の糧食。


「……行くぞ」


「純也様は、何としても守り切ります」


 リーナが短く頷く。


 騎士団の集合場所へ向かうと、ゴードンが相沢に声をかけた。


「相沢。お前は俺の直轄隊に配属とする」


「承知しました」


 ゴードンの取り計らいもあり、相沢は隊列の中でも比較的安全な中央に配置された。


 そして騎士団は、勇者たちより一足先に王都を出た。


 王城の外。


 相沢が最初に目にしたのは――荒れ果てた現実だった。


 市場の外れには、物資を求めて集まった人々。

 配給を巡って言い争い、泣き叫ぶ子どもたち。


「食料が足りないんだ……」

「昨日までは、まだ――」


 兵士たちが必死に秩序を保とうとしているが、限界は近い。

 

 相沢は王都の外を見て絶望する。

「王城の外が……こんな状態だなんて」


 リーナは言葉を続けられず押し黙った。


 さらに進むと、王都防衛線が見えてきた。


 ――魔物。


 前線を抜けてきた個体が、城壁めがけて断続的に襲来している。


「来るぞ!」

「隊列を崩すな!」


 王都軍は血を流しながら、必死に迎え撃っていた。


 死体を片付ける暇すらない。

 傷ついた兵が、その場で次の魔物に向かう。


(……ここまでとは)


 相沢の想像を、はるかに超えていた。


 街道に出ると、状況はさらに悪化する。


 王都付近の街道は、出陣を支援するために雇われた傭兵――武装集団が守っていたため、大きな戦闘もなく進軍できた。


 だが、王都から離れるにつれて、その支援はなくなる。

 代わりに、魔物の数が目に見えて増えていった。


「団長! 前方に魔物群!」


 報告が飛ぶ。


 ゴードンは即座に判断する。


「止まるな。排除しながら進む」

「強行突破だ」


 騎士団は陣形を組み、魔物を削りながら前進する。


 剣が折れ、盾が砕けても、立ち止まらない。


 相沢は初めての戦場に、気が狂いそうになっていた。


 隊の中心にいるため、直接魔物と相対することはまだない。

 それでも、戦場の熱気、罵声、断末魔が耳に刺さり、吐き気を催す。


 リーナはそんな相沢に気づき、水を差し出した。


「ありがとう、リーナ」


「水も貴重です。一口だけにしてくださいね」


 《解析》が、損害状況を伝えてくる。


 隊列外側の騎士は、ほとんどが負傷か疲労。

 一部はすでに戦死している。


 中層と交代しながら治癒や休憩を行っているが、移動しながらの対応には限界があった。

 重傷者は、その場に置き去りにするしかない。


 行軍の合間。

 相沢は、ゴードンの背中を見つめていた。


「……団長」


「分かっている」


 振り返らず、ゴードンが言う。


「勇者と出陣をずらした理由だろう」


 そして、低く告げた。


「王都を出た街道の魔物を、できる限り減らすためだ」

「勇者を安全に前線へ送るには、それしかない」


 一拍置いて、さらに続ける。


「そして王城を出た以上、お前にも一部事実を伝える」

「前回派遣された騎士団は新兵ばかりだった。前線に到達できたのは、団長と直轄騎士百名程度だ」


 相沢は、言葉を失った。


「今回は訓練期間をある程度設けた分、少しはマシだろう」

「……だが、覚悟してくれ」


 勇者が王城に留め置かれていた理由。

 現状を悟らせないため。

 そして王都を出てしまえば、勇者といえど一人で引き返すことはほぼ不可能になる。


「我々が盾になる」

「それが、騎士団の役目だ」


 その声に、誇りはない。

 ただ、覚悟だけがあった。


 相沢は、腰の剣を握り直す。


(……これが、戦争)


 英雄譚でも、祝祭でもない。

 生き残るために、誰かが先に血を流す世界。


 その現実を胸に刻みながら――

 騎士団は、前線へ向かって進み続けた。

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