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解析しか持たない俺が、クラスごと異世界に召喚された結果、魔王討伐がほぼ無理ゲーだと気づいてしまった件  作者: いちじく


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第2話 現実と絶望と希望


 第2話 勇者たちの価値と、与えられた役割


 困惑する俺たちは、玉座の間からそのまま別室へと案内された。


 通されたのは、円卓の置かれた広間だった。

 壁一面には巨大な地図が掲げられており、一目で大陸全体を俯瞰できる。


 玉座の間ほどの豪奢さはない。

 だが、ここが王城の中枢であることは疑いようもなかった。


 席に着くなり、隼人が堪えきれない様子で立ち上がる。


「いったいどうなってるんだ! 俺たちを元の世界に帰してくれ!」


 その声に応じるように、一人の老人が前へ進み出た。


 白髪に深い皺。

 穏やかな眼差しだが、背筋は不自然なほどに伸びている。


「神崎 隼人様。そのお怒りはごもっともです」


 落ち着いた声でそう告げると、老人は深く頭を下げた。


「私はこの国の宰相を務めております。突然この世界へ召喚された皆様が混乱されていること、重々承知しております。まずは――我々の世界について、簡単にご説明させてください」


 宰相は杖を取り、壁に掲げられた地図を指し示す。


「ここが、この世界の大陸です」


 そして、中央の一点。


 不自然なほど広く、黒く塗りつぶされた領域。


「この地に――魔王が存在しています」


 広間の空気が、目に見えて張り詰めた。


「魔王は強大な魔王軍を従え、現在も各国と交戦状態にあります。戦争はすでに十年以上続いており……正直に申し上げて、我々は劣勢です」


 淡々とした口調が、逆に現実味を帯びさせる。


「皆様には、基礎訓練を終え次第、前線基地となる都市へ向かっていただく予定です」


 静寂。


 誰も、すぐには言葉を発せなかった。


「そして、大陸には五つの国があります」


 宰相は地図をなぞるように指していく。


「剣と騎士を重んじる、レギオン帝国。

 魔法と技術を融合させた、ドーワ連合国。

 緑との調和を尊ぶ、ニーア共和国。

 豊富な資源を抱える、エストニア公国。


 そして――我が、アルトリア王国」


 そこで、わずかに間が置かれた。


「この中で、勇者召喚の儀を行えるのは……アルトリア王国のみです」


 ざわめきが起こる。


「ゆえに、各国は我々に魔王討伐の希望を託しています。

 皆様は、その切り札なのです」


 希望。

 期待。


 だが、その言葉の裏にある重圧は、嫌でも伝わってきた。


「……そんなのどうでもいいから、家に帰してくれよ……」


 誰かの、か細い声。


 宰相はその声に、再び深く頭を下げた。


「申し訳ありません。現時点で、皆様を元の世界へお戻しすることはできません」


 広間がざわつく。


「この世界から帰還するには、魔王城地下に存在する転移魔方陣が必要です。

 ――つまり、魔王を討たねば、帰還は叶いません」


 泣き出す者。

 叫ぶ者。


 収拾がつかなくなりかけたその瞬間――


 宰相の背後に控えていた屈強な男が一歩前に出て、静かに手をかざした。


 次の瞬間、不思議な感覚が広間を包む。


 ざわめきが、すっと消えた。


「……申し訳ございません。話を聞いていただくため、少々スキルを使わせていただきました」


 俺は、はっとする。


(精神系の……スキル?)


 頭の奥に、ぼんやりとした情報が流れ込んでくる。

 意識に直接触れるような感覚。


(……これが、《解析》か)


 はっきりとは分からない。

 だが、自然と“そうだ”と理解している自分がいた。


「続いて――待遇についてご説明します」


 その一言で、空気が変わった。


「勇者様方のスキルには、大きな差があります。戦時中の現在、物資は極めて不足しており……誠に心苦しいのですが、戦力の高い方へ優先的に資源を集中せざるを得ません」


 宰相は、深々と頭を下げる。


「これは差別ではなく、戦争を終わらせるための選択です」


 声に、偽りは感じられなかった。


 ――だが、すべてを語っているようにも思えない。


「まず、特権勇者の方々です」


 名前が呼ばれていく。


「神崎 隼人様。スキル《不滅》、固有剣技《煌めく刃》」


 隼人が一歩前へ。


「一条 玲奈様。《無限魔力》《万能魔術》」


 一条は静かに頷く。


「早乙女 剣也様。《一撃必殺》、称号《剣術を極めしもの》」


 剣也は誇らしげに胸を張った。


「橘 美咲様。《聖なる慈愛》」


 橘は戸惑いながら前へ出る。


「天城 恒一様。《未来視(数秒)》」


 最後に、無口な天城が名を呼ばれた。


「以上五名が、特権勇者です」


 続いて告げられる待遇。


・豪華な専用装備一式

・専属メイド数名

・貴族待遇の居室

・専属指導員複数

・行軍時は**大隊(約800人)**が随行


 どよめき。

 隼人は興奮したように声を上げる。


「最高じゃねえか! これなら、しばらく帰れなくてもいいな!」


 橘だけが、不安そうに俯いていた。


「次に、通常勇者の方々です」


・高品質な装備

・専属メイド一名

・食客待遇の居室

・専属指導員一名

・行軍時は**中隊(約100人)**が随行


 十分すぎる待遇。

 だが、先の説明を聞いた後では、見劣りするのも事実だった。


 不満の声が、ちらほらと上がる。


「そして――」


 宰相の視線が、俺に向けられた。


「相沢 純也様」


 一瞬、広間の視線が集まる。


「スキル構成から判断し、戦闘能力は低いと評価せざるを得ません」


 否定はできない。


 《解析》も、《剣術(一般)》も、戦場で派手な成果を出すものじゃない。


「よって、勇者待遇は与えられず、一般騎士として行動していただきます」


 告げられた条件。


・騎士用装備一式

・従者一名

・兵舎での生活


 生かさず、殺さず。


「とはいえ、騎士も王国の正規戦力です。命を軽んじるつもりはありません」


 宰相は、真っ直ぐ俺を見て言った。


「本当に……申し訳ありません」


 さらに続ける。


「また、戦功を挙げた者にはその都度褒美を。

 そして――魔王を討ち果たした者には、元の世界への帰還、もしくはこの国での安寧な生活を保証いたします」


 筋は通っている。

 説明も、誠実だ。


 それでも――


(……何か、隠している)


 理由は分からない。

 スキルの影響なのか、それとも単なる直感か。


 だが、重要な何かを説明されていない――そんな感覚が、強く残った。


 ……考えすぎか。


 今は、情報が足りない。


 説明が終わり、それぞれ案内が始まる。


 特権勇者は、豪奢な廊下の奥へ。

 通常勇者は、別棟へ。


 そして俺は――一人だけ、反対方向だった。


「相沢くん……」


 橘が、何か言いたげにこちらを見る。


 だが、呼び止められることはなかった。


 俺は軽く手を振り、兵士に従って歩き出す。


 石造りの廊下。

 進むほどに装飾は減り、空気は冷たくなっていく。


 やがて現れたのは、簡素な建物。


 ――騎士の兵舎。


 扉の前で、ふと立ち止まる。


(同じクラスだったはずなんだけどな)


 そんな当たり前のことを考えながら、俺は扉を押した。


 この世界での立場は――

 もう、決まってしまったらしい。

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