表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
解析しか持たない俺が、クラスごと異世界に召喚された結果、魔王討伐がほぼ無理ゲーだと気づいてしまった件  作者: いちじく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/14

第14話 補給拠点防衛戦


 補給拠点の外壁に張りつく夜気が、わずかに歪んだ。

 低ランクの群れが――一瞬だけ、道を開ける。

 怯えるように。命令に従うように。

 爪も牙も、さっきまでの貪欲さが薄れ、代わりに“押し黙った従順さ”が広がった。

「……来る」

 ゴードン・ヴァルハルトが低く呟いた。

 ライヤ司令官も、壁上で唾を飲む。

 次の瞬間。

 影が、前へ出た。

 人型に近い体躯。だが関節が不自然に長く、肩から腕へかけて筋肉が盛り上がりすぎている。

 その腕に握られているのは、錆びた鉄塊のような――巨大な斧。

 斧の刃が月明かりを受けて鈍く光った時、守兵の背筋に震えが走った。

「オークナイトか。Bランク級だ……!」

 誰かの声が掠れる。

 Cランクまでの魔物とBランク以上の魔物には一つ壁がある程強さが違う。

 Bランク魔物は、単一スキルを使う。

 

 魔物は斧を担ぐように構えた。

 そして――踏み込む。

 重いはずの体が、あり得ない速度で距離を詰めた。

 守兵が槍を突き出す。

 ――槍が折れた。

 折れたというより、斧の軌道に触れた瞬間“砕けた”。

 次いで盾。

 盾が並ぶ。

 だが斧が横薙ぎに振られた瞬間、盾列がまるごと押し倒される。

「う、わぁぁっ!」

 盾が飛ぶ。

 兵が転ぶ。

 その隙間へ、低ランクの群れが雪崩れ込もうとする。

 壁上の守兵が矢を放ち、魔法砲台が火線を引く。

 だが――穴を埋める速度が追いつかない。


 魔力の気配が、斧の柄に沿って走った。

 刃が“鋭くなる”のではない。

 軌道が読めなくなる。

 角度が増える。

 振り下ろしが振り下ろしで終わらない。

 途中で軌道が折れ、関節のように刃筋が変化する。

 ――≪斧術・中位≫。

 守兵の防衛線が、音を立てて軋んだ。

「押し返せ! 門前を割らせるな!」

「バリスタ、狙え! 今だ!」

 巨大矢が放たれる。

 だがオークナイトは、斧の腹で弾いた。

 衝撃で腕がわずかに下がる――それだけ。

 そのまま前へ進む。

「……守兵だけでは、持たない」

 ライヤの声が硬い。

 指揮官は前に出たくない。出れば指揮が薄まる。

 だが、出なければ“穴”が開いて終わる。

 ゴードンが歯を食いしばる。

「――ダンクを呼べ」

「休ませている場合じゃない」

 伝令が走る。

 数呼吸後、鎧の音とともにダンク副長が壁上に現れた。

 顔に疲労が残っている。だが目は冴えきっている。

「状況は」

「オークナイトが出た。陣が崩れている」

 ダンクは一度だけ戦線を見て、即座に理解した。

 そして短く言う。

「私が戦線を立て直します。団長は――オークナイトを」

「承知した」

 二人の役割が噛み合う。

 その瞬間、戦場の空気がわずかに変わる。

「前衛、二列に! 盾は重ねろ! 槍は突くな、止めるだけでいい!」

「魔法砲台、門前だけに集中! 散らすな、面で焼け!」

 ダンクの指示が走る。

 怒鳴らない。だが通る。

 崩れかけた背骨が一本に戻っていく。

 そしてゴードンは――壁上から飛び降りた。

 着地の瞬間、地面が鳴る。

 彼は斬り結ぶ距離へ踏み込み、剣を抜く。

 オークナイトが斧を振る。

 ゴードンは受けない。半歩、外へ。

 斧の風圧が鎧を叩く。

 次の瞬間、ゴードンの剣が“鳴った”。

 ――スキル《剣撃》。

 剣そのものが伸びたかのように、衝撃波が走る。

 オークナイトの肩口が裂け、黒い血が散った。

 魔物が笑ったように口を歪め、斧を振り上げる。

 ≪斧術・中位≫の軌道が折れ、読みを裏切る。

 ゴードンは、さらに半歩。

 そして――剣撃を連ねる。

 短い。鋭い。無駄がない。

 当てる場所が違う。筋肉の盛り上がりではなく、支点。関節。踏み込みの根元。

 “斧が振れなくなる場所”だけを狙う。

 互角だ。

 押していない。だが押されてもいない。

 その均衡の最中――戦線の別方向で、群れがまた割れた。

「……もう一体!」

 守兵の声が震える。

 Bランク級、二体目。

 今度は斧ではなく、長い骨角を持つ獣型。

 低ランクを押しのけるだけの圧があり、門前の薄い地点へ真っ直ぐ向かってくる。

 ライヤ司令官が歯を食いしばり、剣を抜いた。

「指揮官が二人戦場に出るのは……最悪だが」

 彼は鎧の重みを乗せるように前へ出る。

 スキル構成は重騎士寄り。

 ≪防御・上位≫

 ≪剣術・一般≫

 ライヤは盾を構え、真正面から受ける。

 獣型の突進を、面で止める。

 だが――決め手に欠ける。

 止められても、倒せない。

 倒せないから、群れが寄る。

 寄れば守兵の負担が増える。

 そして何より――指揮が薄まり、陣が崩れやすくなる。

 門前で命令が遅れ、矢束の配分が乱れ、治癒兵の動線が詰まる。

 守兵だけでは回らなくなっていく。

「まずい……!」

 壁上の者が叫んだ時、ようやく拠点内側から鎧の音が増えた。

 休息していたゴードン騎士団が、次々と戦場へ出てくる。

 四時間――その“最低限”の休みで、剣を握れるだけの腕を取り戻した者たちだ。

 そして、その中に。

 相沢純也とリーナもいた。

 相沢はまだ目の奥が赤い。泣いた痕が残っている。

 それでも、剣は握っている。

 リーナは相沢の半歩前。

 いつもと同じ位置。

 守るための距離。

「純也様、出過ぎないで。徐々にゴードン団長の元に寄せます。団長一人では削り切れません」

「……分かった」

 相沢の《解析》が走る。

 ――危険域。

 ――右、二歩で噛みつき。

――左、群れの回り込み。

 ――Bランク、突進の角度変化。

 頭が痛くなるほど情報が押し寄せる。

 だが今は、その痛みが命綱だ。

 相沢は“生きる位置”を取り続ける。

 倒すのではなく、止める。

 深追いしない。

 剣を当てるのは、薄い場所と、動きを止める場所。

 そしてリーナは――相沢が止めた瞬間を、切り取る。

 剣を振るというより、置く。

 刃筋が細い。

 味方と味方の間を縫い、最短距離で敵の急所へ届く。

 喉。関節裏。目の横。

 血が飛ぶ。だが動きは静かで冷たい。

 それは“美しい”という言葉が不謹慎なほどの、精密な殺しだ。

 その連携が、前衛の密度を上げていく。

 低ランクの群れが門前へ寄る速度が落ちる。

 守兵の矢が効き始める。

 魔法砲台の火線が、穴を埋める余裕を作る。

 そして――ゴードンの側。

 ダンクは壁上から戦線に風を通す。

 風が刃となり、低ランクの群れを割る。

 その割れ目に、相沢とリーナ、そして精鋭が押し込む。

 オークナイトの足場が削れる。

 斧術の軌道が折れる。

 だが、折れた先に“居ない”場所へゴードンが滑り込む。

 刃が入る。筋肉ではなく、支点へ。

 斧が一瞬だけ落ちる。

 その瞬間――ダンクの風が斧の握りを弾いた。

 斧が、泥に落ちた。

 オークナイトが吼える。

 その喉元へ、リーナの刃が置かれる。

 躊躇なく。

 血が噴く。

 魔物の巨体が前のめりに沈む。

「……一体、落とした!」

 誰かが叫ぶ。

 だが歓声は上がらない。上げる余裕がない。

 まだ、もう一体がいる。

 そのもう一体――ライヤの前。

 重騎士の防御で止められても、決められない。

 じわじわ押される。

 指揮官が前に出ているせいで、壁上の守兵が判断に迷う瞬間が増える。

 そこへゴードンが走った。

 さっきのオークナイトを落とした勢いを繋ぐ。

「ライヤ!」

「ゴードン……!」

 ゴードンが一言だけ投げる。

「一撃で落とすぞ!」

 ライヤは防御を固め、面で受ける。

 その瞬間に、ゴードンの《剣撃》が骨角の付け根を裂く。

 体勢が崩れる。

 崩れた瞬間、守兵のバリスタが突き刺さる。

 獣型が吼え、暴れる。

 暴れながら、なお突っ込もうとする。

 だがライヤが前に立つ。防御で止める。

 そしてゴードンが――もう一度だけ剣撃を叩き込む。

 骨角ごと頭部が割れ、魔物が崩れ落ちた。

 二体。

 Bランクを二体、落とした。

 戦線は――ほんのわずか、息をつく。

 だが。

 相沢の《解析》が、今までにない“強い警告”を叩きつけた。

 ――危険。

 ――危険。

 ――危険。

 ――魔力反応、複数。

 ――出現予兆。

 ――空間歪曲。

 ――強度:A。

(……え?)

 相沢は息が止まる。

 空気が、冷える。

 火の匂いが薄れ、代わりに金属が焦げるような匂いが混ざった。

 魔物の群れが、また道を開ける。

 今度は怯えではない。

 “跪く”ような開き方だ。

 そして――。

 影が、三つ。

 同時に、現れた。

 Aランク魔物が三体。オークジェネラル。

 Aランクは複数スキルを持ち、高い知性を持つ個体。

 その瞬間、戦場の音が一段下がった。

 誰もが呼吸を忘れる。

 ゴードンの顔から血の気が引く。

 ダンクがわずかに目を見開く。

 ライヤの喉が鳴る。

 周りの兵が、武器を握ったまま固まる。

「……嘘だろ」

 誰かの声が掠れた。

 強敵を倒しても、安心できない。

 むしろ、オークナイトは“前座”だった。

 絶望が、ゆっくりと戦線を塗り潰していく。

 そして――その頃。

 王都では、第三騎士団が出発していた。

 騎兵で構成された、機動力の塊。

 蹄の音が石畳を叩き、夜の王都を割って走る。

 その中に、勇者が三人。

 特権勇者・神崎隼人。

 そして、乗馬系スキルを持つ一般勇者二名――永田凌、天童茜。

 機動性重視のため、彼らも馬に乗る。

 だが“周りを見せない”工夫は徹底されていた。

 三人の隊列は中央。

 周囲を護衛が固め、さらに魔法壁が展開される。

 視覚すら遮る壁。外の惨状を見せないための幕。

 隼人は笑っていた。

「最高じゃん。騎兵ってだけで勝ち確だろ」

「俺ら、到着したら英雄だな!」

 凌も息巻く。

「馬術無双だし、槍術も極だ。魔物なんて突っ切って終わりだろ」

 茜も、興奮を隠さない。

「無敵突撃、試せるじゃん! ね、これ絶対盛れるやつ!」

 周囲が見えないことを、彼らは深く気にしない。

 出撃の興奮が、不自然さを塗り潰している。

 第三騎士団は夜の街道を駆ける。

 ――その先に、何が待っていることも知らずに。

 補給拠点の外壁では、黒い影が三つ、ゆっくり前へ出た。

 誰かが意志を持って、こちらの喉元に牙を立てている。

 そして戦線は、今まさに――本当の地獄へ落ちようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ