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路地裏の猫を助けたら、実は前世で俺を振った聖女様だったので、今度こそ餌付けして手懐けようと思います  作者: 無響室の告白


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8/8

第8話:とろける卵と聖女様の不機嫌な朝

夜が明け、王都の下町に朝の光が差し込む頃、俺、アレン・クロフォードはキッチンでポーチドエッグの仕上げにかかっていた。


昨晩判明した『人造の呪い』と、店の外をうろつく不穏な気配。


頭を悩ませる種は尽きないが、だからこそ日常のペースを崩すわけにはいかない。


それに、腹を空かせた元聖女様のご機嫌を取ることは、世界平和と同じくらい今の俺には重要事項だ。


「んぅ……いい匂い……」


ソファの上で丸まっていた毛玉が動き出す。


魔力が安定しているおかげか、今朝のセシルは半人半獣の姿だ。


寝癖のついた銀髪と、ピコピコと動く猫耳があざといほどに愛らしい。


「おはよう、お姫様。今日は特製のエッグベネディクトだ。昨日の特訓のご褒美といこう」


「エッグ……ベネ、ディクト? 聞いたことのない料理ね。また庶民の創作料理かしら」


セシルは眠そうに目を擦りながらテーブルにつき、出された皿を凝視した。


イングリッシュマフィンの上に乗ったベーコンと半熟卵、そして黄金色に輝くオランデーズソース。


ナイフを入れると、とろりとした黄身がソースと混ざり合い、食欲をそそる濃厚な香りが立ち上る。


「……っ! なにこれ、美味しい……! 卵のコクと、この少し酸味のあるソースが絶妙だわ!」


一口食べた瞬間、セシルの瞳が輝いた。


高慢な態度はどこへやら、尻尾を左右に揺らしながら夢中で口に運んでいる。


「ふん、まあ悪くないわね。貴方の魔道具技師としての腕は三流だけど、料理人としてなら宮廷でも通用するんじゃない?」


「そいつは光栄だな。ほら、口元にソースがついてるぞ」


俺が指でソースを拭ってやると、セシルは一瞬ビクリと体を震わせ、赤くなって俯いた。


その時、店のドアベルがカランカランと軽快な音を立てた。


「アレンさーん! おはようございまーす!」


元気な声と共に飛び込んできたのは、近所に住む看板娘のリリアナだった。


セシルは瞬時に反応し、ボンッという音と共に白い猫の姿に戻る。


「あら、リリアナか。朝からどうした?」


「いえいえ、新作のパンが焼けたのでおすそ分けに! ……ああっ! 今日もいたんですね、可愛い猫ちゃん!」


リリアナは俺の手にあるパン籠を押し付けると、カウンターの上に座るセシル(猫)へと一直線に駆け寄った。


しかし、セシルは全身の毛を逆立て、「フシャーッ!」


と威嚇の声を上げる。


「うぅ、やっぱり嫌われてるのかなぁ……。アレンさんにはあんなに懐いてるのに」


「はは、こいつは気難しいんだ。俺も手懐けるのには苦労してるよ」


「むぅ……。なんだかその子、アレンさんを取られたくないって顔してません? 女の直感ですけど、すっごく嫉妬深い彼女みたい」


リリアナの何気ない一言に、セシルがピタリと固まる。


猫の姿でも動揺しているのが手に取るように分かった。


「まさか。ただの猫だよ」


リリアナが帰った後、安堵の溜息をついて元の姿に戻ったセシルは、不機嫌そうにふいっと顔を背けた。


「……なによ。あんな騒がしい娘、さっさと追い返せばよかったじゃない」


「近所付き合いも大事なんだよ。それに、お前が嫉妬して威嚇するなんて珍しいな?」


「し、嫉妬なんてしてないわよ! ただ、私の食事の邪魔をされたのが気に入らなかっただけ!」


言い訳をしながらも、セシルは俺のそばを離れようとしない。


俺は苦笑しながら、愛用の高級獣毛ブラシを取り出した。


「はいはい、分かったよ。機嫌直せって。ほら、ブラッシングしてやるから」


「……っ、そこ、耳の裏……んぅ……」


髪と猫耳を優しく梳かしてやると、セシルは抗えずに喉を鳴らし、とろんとした表情で俺の腕に体重を預けてきた。


外敵の影など忘れさせるような、穏やかで温かい時間。


だが、俺はこの温もりを守るために、あの監視者の正体を暴かねばならないと密かに決意を新たにしていた。



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【登場人物】

- リリアナ: 近所のパン屋の看板娘。動物好きで勘が鋭い。


【アイテム・用語】

- エッグベネディクト: イングリッシュマフィンにベーコンとポーチドエッグを乗せ、オランデーズソースをかけた料理。濃厚な味わいが特徴。


- オランデーズソース: バターと卵黄、レモン汁で作る濃厚なソース。


- 高級獣毛ブラシ: アレンがセシルの手入れ用に用意した高品質なブラシ。使い心地が良く、セシルを骨抜きにするアイテムの一つ。

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