表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
路地裏の猫を助けたら、実は前世で俺を振った聖女様だったので、今度こそ餌付けして手懐けようと思います  作者: 無響室の告白


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/8

第4話:深夜の来訪者と、魔道具師のお手並み拝見

「……な、なによその目。じろじろ見ないでよ!」


バスタオル一枚で身を包んだセシルが、頭上の猫耳をピコピコと震わせながら抗議の声を上げる。


湯気立つ肌と、不釣り合いなほど頑丈な金属製のチョーカー。


その姿は背徳的でありながら、どこか庇護欲を掻き立てるものだった。


「いや、随分と人間らしくなったものだと感心していただけだ。だが、油断はするなよ。その身体はまだ不安定だ」


俺が作業台に腰掛け、彼女の様子を観察していたその時だった。


ガタガタッ――!


店の入り口のシャッターが、何者かに叩かれたかのように激しく揺れた。


風ではない。


もっと重く、湿った気配。


「ひっ……!?」


セシルの顔色が青ざめる。


彼女の猫耳が伏せられ、尻尾がタオルの下で怯えたように丸まったのが分かった。


「アレン……何かが、来る。すごく嫌な、腐った臭いがする……!」


「ああ、気付いたか。さすが元聖女、腐っても勘だけは鋭い」


俺はため息をつきながら、手近な工具箱から一本の『レンチ』を取り出した。


ただのレンチではない。


柄の部分に魔石を埋め込んだ、護身用の魔道具だ。


店の窓ガラスを突き破り、黒い霧のようなものが店内に侵入してくる。


霧は瞬く間に凝縮し、四足獣の形をとった。


『影食い(シャドウ・イーター)』


魔力の淀みや呪いの気配に引き寄せられる、下級の魔物だ。


通常、王都の結界内に入り込むことはないはずだが。


「……やっぱり、お前の『呪い』がビーコンになってやがったか」


「私の、せい……?」


セシルが震える手で、胸の前で聖印を結ぼうとする。


「聖なる光よ、邪悪を討て――『ホーリー・アロー』!」


彼女の指先から淡い光の矢が放たれた。


だが、それは影食いに届く前に霧散し、逆にセシルが激しく咳き込んで膝をつく。


「かはっ、ぁ……!」


「馬鹿かお前は。魔力回路がボロボロの状態で魔法なんか使うな。自殺志願者か?」


影食いが弱った獲物を見定め、牙を剥いてセシルへと跳躍する。


「きゃあああっ!」


「チッ、世話の焼けるペットだ!」


俺は床を蹴り、セシルと魔物の間に割って入った。


飛びかかってきた影食いの顎を、レンチのヘッドで強打する。


ガギィンッ!!


「ギャアアアッ!?」


「俺の店で暴れるなら、修理費くらい置いていけよ!」


レンチのトリガーを引く。


内蔵された魔石が炸裂し、打撃の瞬間に衝撃波が発生した。


影食いの体が内側から弾け飛び、黒い霧となって四散する。


静寂が戻った店内には、オイルの匂いと、少しばかりの焦げ臭さが残った。


「……す、すごい。貴方、ただの魔道具屋じゃなかったの……?」


腰を抜かしたままのセシルが、呆然と俺を見上げている。


かつて近衛騎士として彼女を守っていた頃の剣技が、こんな形で役に立つとは皮肉な話だ。


「言っただろ、俺は優秀なんだよ。……いいかセシル、今のでお前も分かったはずだ」


俺はレンチを弄びながら、冷や汗を流す彼女に視線を落とす。


「お前の体にある呪いは、ああいう化け物を引き寄せる餌になる。俺の作ったそのチョーカーで魔力を偽装し、俺の側で守られていなければ、お前は三日と持たずに骨だけになるぞ」


それは半分脅しで、半分は事実だった。


セシルは唇を噛み締め、悔しそうに俯くが、反論はしなかった。


自身の無力さと、世界の過酷さを身を持って知ったからだ。


「……分かったわよ。貴方の言う通りにするわ。……だから、その……助けてくれて、あり、がと」


蚊の鳴くような声でお礼を言う元聖女様。


その頭を、俺は乱暴に撫で回した。


「よく出来ました。さて、運動して腹が減ったな。飯にするぞ」


恐怖で強張っていたセシルの腹が、タイミングよく「ぐぅ~」


と可愛らしい音を立てた。



-------------------------------------------------------------------------------------


【登場人物】

- 影食い(シャドウ・イーター): 敵対生物(下級魔物)


【アイテム・用語】

- 衝撃変換レンチ: アレンが愛用する魔道具兼工具。柄に魔石が埋め込まれており、打撃の瞬間にトリガーを引くことで衝撃波を発生させ、威力を倍増させる。


- ホーリー・アロー: セシルが使用を試みた聖魔法。光の矢を放つ初歩的な攻撃魔法だが、現在のセシルの状態では発動できず霧散した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ