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路地裏の猫を助けたら、実は前世で俺を振った聖女様だったので、今度こそ餌付けして手懐けようと思います  作者: 無響室の告白


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第3話 聖女様の変身と、偽りの従属契約

夜の帳が下りた魔道具店『歯車と鍋』。


雨音だけが響く店内で、奇妙な現象が起きていた。


ソファの上でミルク粥を完食し、満足げに喉を鳴らしていた白い猫――セシルの体が、淡い光に包まれたのだ。


「……なんだ? 魔力の過剰供給か?」


アレンが眉をひそめ、タオルを持ったまま身構える。


私が作った『魔力循環機能付き安定化チョーカー』は、装着者の魔力回路を外部から補強するものだ。


まさか、弱った体に負荷がかかりすぎたのか。


しかし、その懸念はすぐに別の驚きへと変わる。


光が収束すると同時に、小さな猫のシルエットが急速に膨張し、人の形を成していったのだ。


光が晴れた後に残されていたのは、一人の少女だった。


かつて王城のバルコニーから見上げた、あの銀色の髪。


透き通るような白い肌。


そして、気の強さを象徴するような整った顔立ち。


間違いない。


前世で私を冷酷に振った聖女、セシル・フォン・エスティアその人だ。


ただし、完全な人間ではない。


その頭頂部にはフワフワとした白い猫耳が生え、お尻のあたりからは長い尻尾が飛び出し、所在なさげに揺れている。


「う、ううん……」


少女――セシルが小さく呻き、ゆっくりと瞼を開けた。


その瞳は猫の時と同じ、宝石のような碧眼。


彼女は自身の掌を呆然と見つめ、次にペタペタと自分の顔を触った。


「て、手がある……? 私、人間に戻れたの……?」


「完全に戻ったわけじゃなさそうだがな。頭、触ってみろよ」


アレンがニヤリと笑いながら指摘すると、セシルは恐る恐る自分の頭に手を伸ばした。


そして、そこに在る柔らかい三角の感触に触れ、肩を震わせる。


「なっ……!? なによこれぇぇぇ!?」


「猫耳聖女か。前世の高潔な姿からは想像もつかない愛らしさだな」


「ぶ、無礼者! 誰に向かって口を利いているの!? 私は聖女セシルよ!」


反射的に罵倒しようと身を起こしたセシルだが、そこで自身の状況に気づいたらしい。


変身の過程で衣服などあるはずもなく、アレンが先ほど掛けてやったバスタオルが辛うじて肌を隠しているだけだった。


「きゃあああ! 見ないで! 変態! 下僕! ゴミ虫!」


「おいおい、命の恩人に随分な言い草だな。それに、その首輪を忘れたか?」


アレンが指差したのは、彼女の細い首に巻かれた革製のチョーカーだ。


中央に嵌め込まれた魔石が、妖しく明滅している。


「それは『従属のチョーカー』だ。


俺の魔力がないと生きられない体にしたうえ、俺の命令には逆らえない呪いをかけておいた」


もちろん、真っ赤な嘘である。


だが、今の彼女にはそれを確かめる術はない。


「じょ、従属……!? 貴方、私を奴隷にするつもり!?」


「人聞きが悪いな。ただの『飼い主』と『ペット』の関係だ。


……さて、元聖女様。


腹が減ってるんじゃないか? さっきのミルク粥だけじゃ足りないだろ」


その言葉に反応するように、セシルの腹が可愛らしい音を立てた。


「うっ……」


「次は特製マグロのテリーヌを作ってやる。極上の味だぞ。……食べるか?」


アレンは試すように問いかける。


セシルは屈辱に顔を赤く染めながらも、空腹と、漂ってくるいい匂いには抗えなかった。


頭の猫耳を悔しそうに伏せ、彼女は蚊の鳴くような声で呟く。


「……た、食べるわよ。毒見してあげるって言ってるの!」


「はいはい、素直でよろしい」


ツンデレ猫聖女の誕生に、アレンは暗い愉悦を噛みしめながらキッチンへと向かった。



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【アイテム・用語】

- 特製マグロのテリーヌ: アレンが次に振る舞う予定の料理。猫も人間も美味しく食べられるよう調整された極上の一品。


- 半人半獣化: 呪いが抑制されたことでセシルが取り戻した姿。人間の姿に近いが、猫耳と尻尾が残り、本能も猫に引きずられている。


- 従属のチョーカー(偽): アレンがセシルのために作った魔道具の首輪。アレンは「これをつけると俺の言うことを聞きたくなる呪いがかかっている」と嘘をついているが、実際はセシルの不安定な魔力を補助し、人型になれる時間を延ばすための優しさの塊。

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