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路地裏の猫を助けたら、実は前世で俺を振った聖女様だったので、今度こそ餌付けして手懐けようと思います  作者: 無響室の告白


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第2話 従属の首輪と、温かなミルク粥

激しい雨音を背に、私は重たい木の扉を押し開けた。


カラン、と乾いたベルの音が店内に響く。


「ようこそ、俺の城へ。……なんて言っても、泥だらけの猫には皮肉にしか聞こえないか」


腕の中の白猫――かつての聖女セシルは、私の体温にすがりつくように震えている。


かつて王城の煌びやかな広間で、冷徹な瞳で私を見下ろしていた彼女とは、もはや別の生き物のようだった。


私は急いで店の奥にある居住スペースへと向かい、ソファにタオルを広げた。


「ほら、まずは体を拭くぞ。暴れるなよ」


猫をタオルの上に降ろすと、彼女は微かに


「ミャ……」


と抗議の声を上げたが、逃げ出す気力もないらしい。


私はその痩せこけた体を慎重に拭いていく。


白い毛並みが泥と雨で灰色にくすんでいるのが哀れだった。


背中から腹へ、タオルを滑らせた時だ。


「……ッ!? なんだ、これは」


指先に走った不快な痺れに、私は思わず手を止めた。


猫の腹部、柔らかい毛の奥に、どす黒い痣のようなものが渦巻いている。


それはまるで生き物のように脈打ち、彼女の小さな体から生命力を吸い上げているように見えた。


(ただの野良猫になったわけじゃない。これは……呪いか?)


しかも、かなり質の悪い、魂を蝕む類のものだ。


このまま放っておけば、飢え死にする前に、今夜にでもこの命の灯火は消える。


あの高潔で、俺を「身分違い」と切り捨てた聖女が、こんな薄汚い路地裏の泥の中で、誰にも知られずに死ぬのか?


「……ふざけるなよ」


湧き上がってきたのは、かつての屈辱に対する怒りか、それとも別の感情か。


私は立ち上がり、魔道具が雑然と積まれた作業机を漁った。


ガラクタの山から取り出したのは、銀色の装飾が施された革製のチョーカーだ。


「おい、聖女様。お前に選択肢をやる」


私はぐったりとしている猫の目の前に、そのチョーカーをぶら下げた。


「これは『魔力循環機能付き安定化チョーカー』


俺の魔力を供給してお前の呪いの侵食を抑え込む道具だ。


……ただし、これを着けるってことは、俺に飼われるってことだ。


俺の魔力なしじゃ生きられない体に作り変えてやる」


セシルの瞳が、ぼんやりと揺らぐ。


かつてのエメラルドのような瞳が、今は助けを求めるように私を見上げていた。


彼女は残った最後の力を振り絞るように、私の指先に額を擦り付けた。


「……契約成立だな」


カチャリ、と小さな音を立てて、チョーカーを彼女の細い首に留める。


瞬間、チョーカーの宝石部分が淡く発光し、私の魔力が彼女へと流れ込んだ。


苦しげだった呼吸が、少しずつ穏やかなものへと変わっていく。


最大の危機は脱した。


だが、まだ終わりではない。


生きるためには、エネルギーが必要だ。


「さて、次は腹ごしらえだ。……泣いて喜べよ? 俺の料理は王宮のシェフより上だからな」


私はキッチンへと向かい、鍋に火を入れた。


冷蔵庫から新鮮なミルクを取り出し、蜂蜜をひとさじ、そして滋養強壮に効く薬草をわずかに混ぜて温める。


甘く優しい香りが、薄暗い部屋に満ちていった。


皿に注いだ特製の『ミルク粥』を、ソファの前の床に置く。


「ほら、食え。熱くないようにしてある」


猫はふらふらと起き上がると、皿に顔を近づけた。


一瞬、躊躇うように鼻を鳴らしたが、空腹には勝てなかったようだ。


ピチャ、ピチャと、小さな舌でミルクを舐め始める。


その必死な姿を見下ろしながら、私は昏い愉悦と、奇妙な安堵感を覚えていた。


(生かしてやるさ。そして、たっぷりと思い知らせてやる。お前を救ったのが、かつてお前が捨てた男だということをな)


私のこの人生の目的は決まった。


この元聖女様を完璧に餌付けし、骨の髄まで私に依存させてやるのだ。



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【アイテム・用語】

- 魔力循環機能付き安定化チョーカー: アレンが作った魔道具。装着者の魔力回路を安定させ、外部アレンからの魔力供給を可能にする。アレンは「従属の証」としてセシルに装着させた。


- 呪いの刻印: セシルの腹部にある黒い痣のようなもの。生命力を吸い上げる悪質な呪い。


- ミルク粥: アレンが作った最初の餌付け料理。ミルクに蜂蜜と薬草を加えた消化に良いメニュー。

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