表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

水神様の祟り

作者: 夕凪詩音
掲載日:2025/08/24

夏の夕暮れ、村外れの小さな池は水面を静かに揺らしていた。

誰も近づかなくなったその池には、古くから水神様が祀られていると伝えられていた。

子供の頃から祖母に聞かされていた話では、水神様は怒ると村人を水の底に引きずり込むという。


しかし、都会から来た青年・和也は、そんな話を信じていなかった。

村の祭りで知り合った友人に誘われ、好奇心だけで池のほとりまで足を運ぶ。

沈む夕日が水面に赤く反射する。和也が池を覗き込むと、底は黒く深く、何も見えない。

ふと、水面の揺れに合わせて、どこからか小さな声が聞こえた。


「……こっちにおいで……」


風のせいだろうと笑い飛ばそうとしたが、声は確かに人の形をして近づいてくるように聞こえる。

恐る恐る顔を近づけると、静まり返った水の中に、白い腕がひらりと浮かんだ。

和也は咄嗟に後ろに飛び退いた。心臓が激しく跳ねる。

だが、そこにいたのは友人二人だけで、池は再び静まり返った。


「なんだ、ただの夕日か?」友人が笑う。しかし和也は笑えなかった。

どこか、確実に誰かに見られている気配があった。


その夜、和也は夢を見る。深い黒水の中、白い髪の少女が手を伸ばしてくる。

声はささやきで、耳元で囁く。


「来て……一緒に……」


夢から目覚めても、胸の奥には得体の知れない重みが残った。

翌日、村の老人にその話をすると、彼は青ざめた顔で言った。

「……池には近づくな。水神様は、昔からよそ者に容赦がない」

その警告を聞いた瞬間、和也は背筋が凍った。好奇心の先に何か、

もう戻れない世界があることを、彼は直感した。

それでも和也は、その夜、懐中電灯を手に再び池へ向かう。

好奇心と恐怖が交錯して、足が止まらなかった。

水面に光を落とすと、そこには誰もいない。

しかし、波紋の中心に、人の影が立っていた。いや、影だけでなく、顔もある。


赤く光る瞳がじっと和也を見つめる。

「……こっちに来て」


声は、夢と同じだった。体が硬直する。走ろうとしても、足が地面に吸い付くように動かない。

水面の影は、ゆっくりと岸に向かって伸びてくる。


必死に手を伸ばした瞬間、水底から冷たい手が掴んだ。

和也は悲鳴を上げ、もがく。空気は次第に重く、息ができない。

周囲の景色はすべて黒く濁り、水の中の世界だけが現実になった。


そのまま和也は水の底へ引き込まれ、赤い夕日は遠くに揺れる。

水神様は静かに、しかし確かに、彼を抱き込んだ。


翌朝、村人が池を覗き込むと、水面には何も浮かんでいなかった。

ただ、深く澄んだ水の中に、誰かの影がゆらりと揺れていた――


水神様は、夏の終わりとともに、また静かにその場所で待っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ