球技大会前、忍び寄る影
入学してから数週間が経ち、桜の花も散り、緑の葉が生え始める5月となった。
「来週の水曜日に球技大会があります。男子はサッカー、女子はソフトボールなので各自練習しておくように。それではホームルームを終わります」
どうやらこの学校では5月中旬頃に球技大会あるらしい。転生する前はプロ野球ファンで、よく兄弟でキャッチボールなどはしていたが、バッティングや守備は初心者である。
チームに迷惑をかけないためにも練習をしなければならないか……。
そんな風に神妙な顔(無表情)で考えていると、いつもと同じく美月が雪を連れて席までやってきた。雪も回数を重ねるごとに慣れ始め、美月と2人でも緊張はしないようになったようだ。
「雫ぅ〜!さっき先生が言ってた球技大会のことだけど、私ソフトボールのルールなんてわかんないよぉ〜!」
「ん、私も」
どうやらこの2人はソフトボールのルールを知らないらしい。俺もソフトボールが野球のルールと似ていることぐらいしか知らないので、この機会に3人でルールを確認しておくのも良いかもしれない。
「なら、ソフトボール部の子に聞いてみよう。もしかしたら練習も手伝ってくれるかも」
「賛成!」
「ん、私も」
ということで、全会一致でソフトボール部の子に教えを請うことが決まったのだった。
そうと決まったら、まずソフトボール部の子を探すところからである。
「二人は誰か、当てある?」
「ん、ない」
「あっ、私は1人いまーす!」
「ん、そうなの?」
どうやら美月には1人思い当たる人がいるらしい。探し出すのにもっと時間がかかると思っていたけど、どうやら楽に済みそうだな。
「あ、でも最近学校来てないんだって。風邪でも引いたのかな?」
なんて考えてたお前の姿はお笑いだったぜ(嘲笑)。なんと間が悪いことに、その子は最近学校に来ていないらしい。ここは別の人を探すべきなのだろうか。
「ん、じゃあ家に凸る」
「ん!?」
び、びっくりしたぁ…。まさかあの雪からそんな提案が出てくるとは驚きである。この一ヶ月の間に、雪も人との関わり合いに慣れ始めたということだろうか。
あと、雪みたいな大人しい子から『凸る』なんて言葉が出てきたのは一体誰の影響なのだろうか?俺か……?いや、美月だな。そういうことにしておこう。
「でも私達その子の家知らないよ?」
「む、確かに」
雪はしまったとばかりに閉口した。確かに、雪の予想外の言葉に驚いて失念していたが、俺達はその子の家を知らないのである。
家を知らなければ凸することも出来ないので、仕方ないから今日のところは大人しく家に帰ろうという話に落ち着いた。
「じゃあまた明日ね」
「ん、また明日」
「また明日」
今日もいつもと同じく駅で雪と別れた俺と美月は、駅のホームで電車を待っていた。
「明日、真昼ちゃん来るといいなぁ」
「真昼?」
「あぁ名前言ってなかったっけ?松永真昼ちゃん、私が言ってたソフトボール部の子だよ」
「へぇ、そうなんだ。美月はその松永さん?とどこで知り合ったの?」
「入学してすぐにあった部活紹介のときだよ。雫は確か『めんどい』って言って来なかったでしょ?」
「…ん、そんなこともあった気がする」
そういえばあったなぁ部活紹介。放課後は家でダラダラしていたい俺からすれば、帰宅部こそが正義である。貴重な時間をしんどい部活に使うなんて俺は断固ごめんである。
「あ、電車きた」
「あ、露骨に話を避けたでしょ!」
「そ、そんなことない」
電車が来たのは本当のことだし?話を避ける意味なんか無いんだから言いがかりはやめてほしいものだ、失礼しちゃうね。
「あれ?あそこにいるの真昼ちゃん……?」
電車に乗り込み、揺られながら手すりに捕まっていると(つり革に手が届かない)、どうやら反対側の座席に件の松永さんらしき人を見つけたらしい。
「学校にも来ないでなんでこんなところに…?」
「ん、買い物とか?」
そう聞いてみると、美月はうーんと言いながら首を捻った。
「確かにその可能性はあるけど、学校に来れない事情があるときは普通親に任せたりしない?」
「ん、それはそうかも」
美月はしばらく考えたあと、意を決したように松永さんと思わしき人のところへ向かった。その間、俺は松永さんと特に親しいわけでもないので、ここでことの成り行きを見守ることにした。
「ねぇ、違ったら申し訳ないんだけど、あなたは真昼ちゃん?」
「!!??」
「あっ!やっぱり真昼ちゃんだ!その顔を見て確信したよ〜。ねぇ、真昼ちゃんは今どこに向かってるの?」
「えっ、あの、その……」
「あ、ごめん無神経だったかも。やっぱ言わなくてもいいから、いつから学校に来れるか教えてくれない?ソフトボールについて聞きたいの!」
「えっ、えっと、私もう、学校…行きたくないっす…」
「えっ、なんで!?」
美月が大声を出したせいで周りからすごい見られてる…。美月は気付いてないし、松永さんもそれどころじゃないし、私が注意しに行くしかないか……。
「美月、声大きい」
「あっ、ごめんね!(小声)あまりにも驚きすぎて声出ちゃった」
「松永さんも、美月が無神経でごめんね」
「あ、はい。大丈夫っす、気にしてないんで…」
そう言って松永さんは視線を足元に落とす。周りを見てみると、他の乗客が迷惑そうにこっちを見ていることに気付いた。
「はぁ、取り敢えず次の駅で一回降りる。積もる話もあるみたいだし」
そう俺が言うと、2人はとも了承し(松永さんは渋々)、次の駅で降りることとなった。
電車を降りたあと、俺達は徒歩で数分移動し、近くのスタ◯に入って話をすることにした。
「で、なにがあったの?」
「そうだよ!なんでいきなりそんなことになっちゃったの!?」
そう聞くと、松永さんは少し間を置いてから口を開いた。
「私、いじめられてるんす」
その言葉を聞いた瞬間から俺達の戦いが始まったのだった。
これ本当にコメディですか???
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