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義姉は暗躍(?)する


(もしかして私が禁断の恋に気付いたのを、気付かれた? つまりあれは、余計なことをするな。って意味??)


 数日前の二コラの様子を思い出し、冷や汗がぶり返す。


(やはりうちの弟、読心術の使い手なのでは…………あ、魔術書の位置がズレてたとかで、勝手に読んだのがバレた!?)

(もしそうなら、計画をいちから練り直すべきかしら……。どうしよ~。聖誕祭まであと数日しかないのに~~)


 その場でしゃがみこみ、頭を抱えて呻く。

 すぐに我に返ってあたりを見回した。陽光を反射してきらめく湖のほとりには、今はエリーゼしかいない。ほっと息をつく。

 対岸にはおしゃれな喫茶店が建っているのだが、今のところ湖を見渡せるテラス席に客の姿はなかった。


(……はぁ。久しぶりに食べた白鳥湖カフェのランチは美味しかったけど。あんまり気分転換にはならなかったわ)


 だが昼休みにわざわざ学院の裏手にある湖(とそのほとりのカフェ)に来たのは、気分転換のためだけではない。


 再び周囲を確認すると、エリーゼは制服のポケットから空の小瓶を取りだした。

 それを水面にくぐらせ湖の水で満たす。しっかり蓋をして、ポケットに戻した。


(惚れ魔術には魔力水が必要なのよね。本当はこっちの白鳥湖より、黒鳥湖の水の方が強力なんだろうけど……)


 立ち上がり、視界の先で鬱蒼と生い茂る木々を眺める。

 この森の奥には黒鳥湖と呼ばれるもう一つの湖がある。

 だが森を進めば進むほど、魔力の強い土地になっていき、その影響で黒鳥湖の周囲は“迷いの森”になっているのだった。


 生徒がうっかり迷い込んだ時のため、各所にナビ魔術が設置されてはいるのだが、それほど性能が高くないので脱出には最短でも1時間はかかる。

 なのでナビ魔術を使える者以外、一人で森へ入るのは校則で禁止されていた。


(地図を読むのすら苦手だから、ナビ魔術を習得できる授業は選択しなかったのよね。でも同じく選択してない二コラは使えるのよ。才能の違い、えぐ……)


 校則を破るわけにはいかない。それに迷えば確実に午後の授業に遅刻する。

 森の入口を未練がましく眺め、諦めてきびすを返そうとした、その時。


「――っ!?」

「ひゃっ!?」


 いきなり突風が現れた――ように感じて、思わず小さな悲鳴を上げる。

 それはエリーゼにぶつかる直前で彼女を避けると、音を立てて地面に転がった。

 呆然と背後を振り返る。そこには一人の男子生徒が地面に突っ伏していた。

 どうやら突風と思ったのは、魔術でスピードを上げて走っていたこの生徒だったようだ。


「大丈夫ですか!?」

「…………」


 慌てて駆け寄るが返事はない。

 見た限り転んだだけで大怪我には見えないものの、エリーゼはうろたえた。


(速度上げの術で走るのも校則違反。まさかナビ魔術が使えない代わりに、迷いの森からダッシュで戻ってきた? ……ってそんな分析している場合じゃないわ。早く保健室に……でも一人じゃ運べない。こういう時はえぇと、浮遊術で……)


 それまで無反応だった男子生徒が、がばっと身を起こした。

 驚いて固まるエリーゼを横目に見て、舌打ちする。


「……くそっ。あの方かと思って、避けて損した……」

「はぁ?」


 不満げに吐き捨てると、もうエリーゼには見向きもせずに走り去っていった。

(な……なんだったの)

 見覚えのない生徒だ。少なくとも同じ学年ではない。


(まあ元気に走ってたから怪我はないんだろうし、いいけど…………あれ?)


 視界の端に引っかかったものに、エリーゼは近寄った。

 森の入口、あの男子生徒が出てきたあたりに一枚の紙が落ちている。

 写真だ。そこにはひときわ美しい女子生徒が映っていた。


「――ブランシュ・ルナール様」


 エリーゼの一学年後輩である彼女は、レオンハルトの婚約者だ。

(たぶん、さっきの子が落としたのよね。……うーん)

 彼を探し出して、写真を返してやるべきか、悩む。


(んん~~~……いいや、放っとこ)


 態度が悪かった。というのもあるが、余計なお世話になる予感もした。

 男子生徒が特定の女子生徒の写真を持ち歩く理由――もしエリーゼの想像通りなら、拾って返してやるのはかえって気まずい結果になりそうだ。


 写真から目を離し、予定より長居しているのに気付いたエリーゼも、校舎へ向かって駆け出した。



   ~*~*~*~



(ついにこの日が来てしまったわ……)


 エリーゼは庭師の職人芸を感じさせる庭園の片隅から、大豪邸を眺めた。


 この優美なカントリーハウスは王族の所有物件。本日開催される第三王子レオンハルトの誕生日を祝う、通称『聖誕祭』の会場である。

 ちなみに祝日なので、パーティーは毎年間違いなく当日に開催されるのだった。


「今日は姉さんと一緒に過ごしたい場所があるんだ。いつもより早めに切り上げてくるから、そのつもりでいてね」

「え? うちでケーキを食べるんじゃないの?」

「その前に見せたいものがあって……。あとで携帯に連絡するよ」

「う、うん……わかったわ」


 出かける直前、二コラは(またほんのり有無を言わせない空気で)そんなことを言い置いていった。なので服のポケットには携帯が入っている。

 そしてもう片方のポケットには、万年筆――の姿をした“禁断の惚れ魔術”入りの道具が仕込んである。


(とりあえず計画の大枠は変えずに続行してみたものの。二コラってば、こんな時くらい姉孝行なんて考えなくていいのに)

 一旦大きな木の陰に身を隠し、ため息をつく。


(どうせ私と過ごしている間も恋で頭がいっぱいなんでしょ。それならいっそ優しくされない方が、こっちも気が楽……)


(だめだめ、今は作戦に集中集中。腕によりをかけて作製したこの禁断の万年筆を殿下の手に渡し、二コラの名前を書かせる。それで無事、任務完了よ)


 またこっそり魔術書を読み直し、惚れ魔術は二コラ本人が不在でも効果が出るものを選んだ。これならレオンハルトにその行動を取らせるだけでいい。


(問題はどうやって殿下に近付き、名前を書くように仕向けるか。それと……)

 自らの格好を見下ろし、もう一度重い息を吐いた。


(ミランタさん……このメイド服、なんかスカート短いんですけど!?)


 ミランタはリコルヌ家と契約している家政使い魔だ(週4・通い)。彼女が若い頃に着ていたメイド服が、王家のお抱えメイドの制服に似ているというので譲ってもらったのだが。


(ぱっと見のデザインと色合いはそっくりだったから、これで潜入は楽勝だと思ったのに~~!!)


 上流魔族の令嬢らしい格好で、庭の中までは怪しまれることなく入り込めた。だがパーティー会場には招待状がなければ入れない。

 とりあえず人気のない場所で着替えたものの、これでは偽メイドだとバレる可能性が高い。エリーゼはスカート丈まで事前に確認しなかった自分を呪った。


(あああ。どうしよう、もうパーティーが始まってるわ。急いで本物のメイド服を調達するか、他の潜入方法を考えないと……!)


 カントリーハウスからはかすかに賑やかな声が届いてくる。

 はじめのうちは主役のレオンハルトに万年筆を渡せるチャンスは少ないだろうが、かといってモタモタしていれば二コラから連絡が来てしまう。


 日を改めようにも、関わりの浅いエリーゼが人気者の王子にさりげなく近付くのは難しい。二コラにも警戒されているかもしれない今、本気で実行するなら今日が絶好の機会なのだが……。


 悩んでいると、ふいに近くの茂みから(一応声を抑えているらしい)怒鳴り声が聴こえてきた。


「――いったいどういうことなのじゃ!!」

「お、お嬢。落ち着いてくだせえ」

「できるかー! なぜここに隠しておいたメイド服がなくなっておるっ!? 念のため用意したピンク髪ウィッグまで! 説明せい!」

「すんません。用を足しにいったほんの数分の間に、こんなことに……」

「ふざけんな!そちは今日から減俸なのじゃ! ぐぬぬ、ルシアン先輩のご尊顔を近くで拝めるチャンスがぁ~~!! 盗っ人め、見つけ出してうちのニシキワニの餌にしてくれる!!」

「お嬢、さすがにそれは臭い飯を食うはめになるんで……」


(メイド服を盗まれた……?)

(それにしても、みんな似たようなことを考えるのねー。かわいそうだけど、今はのじゃロリ(?)の窃盗被害に協力してる暇は……)

 そこでふとひらめく。


(犯人はピンク髪のウィッグをつけてるのよね。もしまともなメイド服なら、交換してもらうように交渉できないかしら。ルシアンはきっとミニスカの方がお好みですよーとかなんとか言って。(いやお目当てがルシアンなのか知らんけど。))


 他にいい案も浮かばない。

 エリーゼは動くとひるがえりそうになるスカートの裾を押さえながら、なるべく目立たない入口を探しに豪邸の裏手を目指した。



   ~*~*~*~



(なんとか裏口からこっそり入れたわ。……でもピンク髪メイド、いないな~)


 きょろきょろあたりを見回しながら、こそこそと物陰を選んで歩く。

 廊下を行き交うメイドたちは皆忙しそうで、エリーゼを見咎める者もいない。それどころではないようだ。


 レオンハルトはお祭り好きだ。このパーティーも、ただ優雅に祝辞を受けるようなものではない。

 彼と友人たちが全力で企画したさまざまな催しが行われる。それらを成功させるため、使用人たちは一丸となって縁の下のサポートに奔走しているのだった。


「あなた、手があいてるなら第三ホールにこれを運んでちょうだい!」

「あっはい!」

「第三ホールに行くなら劇団かみのけ座の方々に『控室に追加の衣装が届いております』とお伝えして!」

「わかりました!」


(あれ? スカート、このままでもいけるかも……?)


 慌ただしく駆け回るメイドにまぎれ、時々彼女たちに言いつけられた雑用をこなし、いつの間にかエリーゼは宴もたけなわのメインホールへ辿りついていた。


「――審査員票は……5対0っ! 圧巻の毒舌、悪役令嬢ライムを止められる奴はいないのか!? 勝者、飛び入り参加のトレイC!!」

(……この声)


 ライトアップされた中央の舞台でマイクを握る進行役は、二コラだった。

 会場の盛り上がりと歓声で、エリーゼがまぎれこんでも気にする者はいない。


「ずっと二コラ様が場を回していらっしゃるわね。お疲れではないのかしら」

「きっと後でまとめて休憩されるのよ。たしか去年も、後半は二コラ様のお姿を見かけなかったわ」

(二コラ、ここまで出ずっぱりなんだ。……忙しいなか早退するから?)


 近くにいた令嬢たちの囁きに、改めて舞台に目をやる。

 なめらかなトークで場を繋ぎ、いつもよりテンション高めのキャラで盛り上げ、つつがなくイベントを進めていく。

 そんな少々疲れそうな役を前半に詰めこんでこなす理由は、心置きなくエリーゼと過ごすためだろうか。


(私のことも、ちゃんと本気でお祝いしようと思ってくれてるのね)

(大事な“家族”だから……)


 嬉しいはずなのに。なぜかエリーゼは、胸が切なく軋むような感じがした。

 思わず舞台から目を逸らし、メインホールを出る。


 一旦(脳内)作戦会議の必要あり、と自分に言いきかせ、そのまま近くにあったこの屋敷では小さめの応接室にとびこんだ。


「姉思いの優しい弟に、恋を成就させてあげなきゃ…………っな!!?」


 扉を背にして切ない息を吐き、顔を上げたエリーゼは驚きに目を見開いた。

 部屋に置かれた応接セット。そのソファの上に、脱ぎ捨てられたメイド服、それとピンク色のウィッグが無造作に置かれていた。


「うおぉこんなところに窃盗犯の痕跡が!! え、これちょっとの間だけ借りていい!? いいよね!?」


 ソファに駆け寄り、誰もいない部屋で興奮ぎみに独り言を呟いていると。


『よっしゃ。次は脱出ゲームだな!』


 天井に設置されたモニター画面に、レオンハルトのアップが映った。ここは休憩しながらパーティーの様子を確認できるように作られているらしい。


 どうやら仮面で顔を隠し、フリースタイルのラップでディスりあうイベントが終わったようだ。(優勝は謎の悪役令嬢トレイC。)

 続いてレオンハルトの号令に頷く二コラが映しだされる。


『はい。では皆さま、次の会場はホールを出て右手にある階段を……』

『いいや、場所を移す必要はない』


 突然かかった声に、二コラが訝しげに振り返った。

 映像が二コラたちから会場全体を見渡すものに切り替わる。

 ホールの入口には細身の少年が立っていた。カメラが寄っていき、どこか陰険そうに微笑む顔を捉える。


(……ん? この顔、どこかで見たような……)


 一度深く息を吸うと、少年が声を張りあげた。



『ニコラ・ノトルダム!! 貴様を断罪する!!』



「――――はあああぁっっ!!!!?」


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