か ふぇ おれ
白じゃ無い
黒じゃ無い
これじゃない
どうしたらいいのか。この狭い鉄の部屋で私は筆もペンも持たれぬ。
初めての事だ。よし、死のう。そう思って私は便器に頭を突っ込んだ。
少しまずいまるい水だ。
幸い和式便所だったおかげか助かった。
助かるも何もないが。
金時豆パン。何それ。
これを食えと看護師なる者に杜撰に手渡され食べた。
モサっとしていて柔らかくないそれの味は尖っていた。
昔から味覚や聴覚に不思議を感じていた。
味や音がモノに見える感じ。そう言う時ちょっとした優越感を覚える。
後から分かることで、それらは共感覚というものであったが私はそれを能力と思うことにしていた。
普段私は車に乗らないし自転車走行で全てを完遂していた。
スィーという走る感覚に乗せてスィーの文字が左下脇に見える。気持ち良い。
という自由ができたのは何日前のことだったか。
今は自由が効かない。なんと言ったって私は今、数回目の精神科病棟での隔離措置を受けているのだから。
曖昧なものは世の中に多い。
時間の長い会議なんかに答えを求めても
「いいえいいえ」「どうぞどうぞ」と
結局は曖昧だ。
そう、ここの朝食で出されるカフェ・オ・レなんかもその類いである。
コーヒーなのか、ミルクなのか。
わけ分からん。
美味しいのかも薬の副作用で舌がイカれてわけ分からん。
結局人と関わることの意味が分からなくてそこに生ずる曖昧さがカフェ・オ・レと似ていて嫌いである。
牛乳だけでいいじゃないか。と思う。
珈琲だけでええやないか糞が。と。
朝始まるラジオ体操も、ここでは新興宗教のようで私はとても嫌だった。
おいっちにーさんっすぃー 皆同じ。一様に手を振る腰を振る。気持ちが悪い。吐きそうだ。
わなわなする。詰所へ駆け寄った。
「リスパダールください」頓服薬を所望した。
「1日3回しか飲めないけど、今いいの?」
今いいから貰いに来たんだろォオオと猛る心を抑えつ私は頓服薬を貰った。
閉鎖病棟にくると、逐一小さな事に腹が立つ。
小さな怒りと縋る思いで私はこの頓服薬を服用するのだ。
暑い。病棟全域に渡るクーラーが故障したらしい。
普段開けてはごちゃごちゃ言われる窓を開ける解禁令が出た。
私はすかさずこの個室の窓を開け、匂いに気付いた。タバコか。
私はタバコが嫌いだ。タバコがというかタバコを所望する人物たちが嫌いなのだ。
タバコを頬張る者達は皆一様に自己中心的で懐疑的で口が悪い。私はそう思っている。
空調はいつ付くのだ。
神はいるのか?
"様"を付ける気にもならないくらい私は鬱気味だった。
私の中に鬱様ならいる。そう思った。
斯くいう私は医者から言わせれば"双極性障害"なのだそうだ。世間では躁鬱病と言われている。
それのII型なのだそう。
色々調べた。I型とは別物で鬱が多いそうだ。
I型は躁転(気分が上がること)すると気分が高揚して選挙に出馬するなど暴挙に出るらしい。
私はまあII型なので1年に1、2度来る躁を横目で見ながら普段は鬱状態(気分が沈み、希死念慮が出たりする)で過ごしている。
私はその状態のことを、マイナス2鬱と呼んでいる。それはフラットな私から20%ほど鬱気味だからである。
「佐藤さーん、今いいですかー?」
よくない。私は本を読んでいる。
ガラッ。ドアが開く。勝手にドア開けるな糞看護師どもが。
「レントゲン撮るからね、今から行けますか?」
私に拒否権はないので「はい。」と告げ、付いていった。
被曝しないのかなあ。レントゲンを撮られる時いつも思う。
レントゲン技師やその他それらに携わる人間達に放射能は危険ではないのか。
それと、私には変わった趣味があって医療器具やレントゲン写真、人体模型に至る医療用品にときめくので、それらの物を実家では集めていたりした。
「あの、すみません。」おずおずとレントゲン技師に声をかけた。こういう施設の職員というのは無愛想で、こちらをじっとみながら技師は「はい?」と嫌そうに言った。
「レントゲン、貰えないですか?」
「…それはちょっと。」
だよなあ。と小さく落胆する私であったが大体理解はしていたのでそれ程落ち込みはしない。
病棟に帰ったら実家から親が送ってきてくれた"優しい人体図"の本を読むのだ。と意気込んで、私は久しぶりの閉鎖病棟外の空気を吸い込んだ。
またカフェ・オ・レだ。
カフェ・オーレなのかカフェ・オ・レなのかもわからない、得体の知れないこの飲み物を食すことは、私の正義感を揺らつかせる。
まっすぐしたことがいいのだ。
牛乳や珈琲のアンバランス飲料などで私の心は満たされない。
昨日のレントゲンは貰えなかったし、病棟に戻り部屋の棚の上を見ると飴の袋が2個あったはずだが消えていた。
詰所に言いにいった。
「飴がありません。」
出てきた看護師に、「そんなところに置いておくから悪いのよ!!」と言われた。
ブスが。心まで染まったか。