夏蝉とモンシロチョウ
夏蝉とモンシロチョウ
作者 タケノコ
一話 夏の始まり
「ねぇ なんで蝉って早く死んじゃうのかな❓」
突然隣で捕まえた蝉を見ていた健司に
琴音が呟いた。
「そりぁ熱中症になって死んじゃうのさ
生まれてからずっと土の中にいたんだもん
外に出ても暑いのに耐えられないんだよ
うちのバカ兄貴みたいにさ」
健司がそう言うと買い出しから帰ってきた汗だくの
翔がデコピンを一発健司のおでこにくらわせた。
「悪かったな暑がりで お前は逆によくこんな
くそ暑い中むしとりにいけるもんだよ。」
そう言うと翔はレジ袋から花火を取り出し
二人に渡した。
「ほらこれ やるから夜お前ら二人でやりな」
「やるじゃんくそ兄貴 よし琴音線香花火は
勝負しような」
「負けないよケンちゃん」
その日の夜二人は水を張ったバケツと花火を用意して近所の花火可の草のない公園に向かった。
夕暮れの中二人のパチパチとした音色が
暗闇の中にこだましている
「あっ くそ負けたぁ」
「日頃の行いだよ ケンちゃん♪」
「うるせいやい 買ってきた花火が悪いんだよ」
「あっまたそうやってお兄さんのせいにして
そう言うところだよ」
健司は琴音にそう言われるとバツが悪そうに公園に
あったブランコに乗り始めた。
それをみた琴音も隣のブランコに乗り
健司に話しかける。
「ねぇケンちゃんって大人になったら
何になりたいの❓」
「ガオレンジャー!」
「もー子供ー」
「そう言う琴音は何になりたいんだよ?」
「私はピアニストになりたいの
ママみたいにたくさんのお客さんを
私の演奏で笑顔にさせたいの」
「琴音のママのピアノすごいもんなぁ
この前おれがガオレンジャーの歌弾いて
もらったけど楽しくて踊っちゃたもん」
「ふふっ そうでしょ
だから私もそんな風になりたいの」
「琴音は無理だよ音痴だもん」
「音痴は関係ないでしょ」
「いやあるね」
二人のくだらない言い争いは小一時間続いた。
2話 久しぶり
「あちぃ」
健司が店番をしてると隣の家に住んでる
拓也さんがポスターを持って走ってきた。
「おい健司これを見ろ」
ポスターには合唱コンクールと書いてあり
奏者のところに琴音の名前があった。
「琴音ちゃんが近くのコミュニティーセンターで
コンクールやるんだってよ
健司お前見にいってこいよ」
「いやでも俺その日は店番が」
琴音とは琴音が6年前父親の仕事の都合で
東京に引っ越すことになってから会っていない。
そんなに距離があるわけでもないがうちの駄菓子屋
を営んでたばあちゃんが病気で亡くなったことも
あり葬儀やら跡継ぎやらでバタバタしていて
それどころではなかったのだ。
結局駄菓子屋の方は三年間母さんが店を継ぎその後高校を卒業した兄貴が継いで今もまだ続いている
そんなこともあり今会うのは少し気まずいのだ。
そう健司が頭を悩ませていると店の中の居間から
発注書を整理をしていた兄貴が顔を出してきた。
「行ってこいよ 健司」
「いやでも店番は❓」
「別におれひとりでもいける客も来ねぇしな
久しぶりに会って飯でも食ってこいよ」
そう言うと翔は健司に千円札を二枚渡して居間に帰っていった。
当日健司は不安になりながら
自転車を走らせていた。
なんせ6年前ぶりになるのだ。背丈だって小学生から高校生になっているのですぐにわかるかも怪しい
向こうも6年もたっているし俺のことなんて忘れてるんじゃないか❓
いろんなことを考えていると目的地についた。
駐輪場に自転車を置き会場の方へ入り
受付の人から整理券をもらい席を探した。
「えーとEの5か」
席に着いて辺りを見回すと思ったより多くの人がいることがわかった。
待っていると閉じていた幕が開いた。
拍手と共に学生達が一斉にお辞儀をする。各々が互いのポジションについたあと演奏が始まった。
メンバー全員が楽しそうにしている合唱をみて観客も自然と温かい気持ちになる。
再び大勢の拍手と共に幕が閉じ観客たちが次々と帰る中俺も席をたち入り口へと向かった。
駐輪場にいき自転車の鍵を開けていると
後ろからだれかに話しかけられた。
「もしかしてケンちゃん❓」
あわてて後ろを振り向くとそこには学生服を
着たセミロングくらいの髪の毛をしている俺より
少しだけ背小さい女の子がいた。
琴音だ
「やっぱりケンちゃんだ!久しぶり!」
俺はビックリして目をそらしてしまった。
「久しぶり,,,」
分かってはいたがやはり気まずかった。
このままではいけないと話題をふる
「演奏聞いたよ上手だった。」
「でしょ!天才ピアニストですからね」
琴音がどや顔で胸を張るそう言うとところは昔から変わってないらしい
「ケンちゃん私今日はおばあちゃんちに泊まるの
先生からも今日土曜日だしそのまま
泊まってきていいよって言われたしね」
「そうなんだ なぁ琴音よかったら今から
飯いかないか?」
「いいよ もんじゃ食べたい!」
そう言うと二人は一緒に子供の頃よく兄貴と一緒に行っていたお好み焼き屋さんに向かった。
店に入り大きめの席に向き合わせで座る
「わぁこれだよこれ 久しぶりだなぁこの感じ」
懐かしい匂いや光景に琴音か騒いでいると健司が
店員さんを読んでメニューを注文した。
「明太子チーズもんじゃと豚バラお好み焼きを
一つお願いします。」
これが俺たちがここに来たら
必ず頼む鉄板メニューだ
しばらくすると定員さんが具材の入った器を持ってきた。
慣れた手つきで健司がもんじゃ焼きを作る
「わぁやっぱりケンちゃん上手だね」
「駄菓子屋の息子だからな」
得意気にヘラをリズミカルにトントンと叩く
そして完成したもんじゃ焼きを二人でふーふーしながら食べる
なんせ二人と猫舌なのだ
「熱いけどやっぱり美味しいね」
そういって食べすすめお好み焼きも食べ終わると
二人は子供の頃の話を始めた
「ケンちゃんがおみせの水風船全部使って
良太くんたちと投げあいっこしててさ」
「懐かしいな そのあとびしょ濡れで帰って
兄貴に怒られたんだっけ あん時のげんこつ
痛かったなぁ」
「ケンちゃんが悪いんだよ」
そう言うと琴音はクスクスと笑った
やっぱり可愛いなぁと健司は密かに思った。
3話 健司上京する。
三年後高校を卒業した健司は都内にある大手お菓子メーカーに就職した。
理由は元々駄菓子屋育ちというのもあるが
自分も琴音の様にだれかを笑顔にできる仕事を
したいと思ったからだ。その後自分にはなにができるかと考えた結果やはりお菓子を売ることだと思いこの会社に入った。
しかし現実は厳しい
新人はこまづかいとレール確認を主にやらされ
商品開発に全く携わることが出来なかった。
「なんか思ってたのと違うなぁ」
正直なところ健司はやる気を失っていたが
上京する別れ際に兄貴にどうせすぐに帰ってくるよ
と言われたこともありなにくそと思いながらも仕事に励んでいた。そんな生活が3ヶ月続いたところ
ようやく健司ははまとまった休みをもらい琴音の家に向かった。
インターホンをならすと琴音の父親が笑顔で出迎えてくれた。
「やぁよく来たね健司くん さぁあがって」
リビングに向かうと琴音のお母さんが切ってあるリンゴと紅茶を出してくれた。
「どうかね仕事の方は❓」
「いやぁこまづかいばかりで疲れちゃいますよ」
そう健司が言うと琴音の父親はクスッと笑った
「まぁ初めはどこもそんなもんだ
私が若い頃はなぁ、、、」
「こらこらまた人に自分の若い頃の話をしないの
あなたの話長いんだし」
そういって琴音母が止めるとしぶしぶ琴音父は食い下がった。
相変わらず仲良しだなぁと健司が思っていると
琴音が二階から降りてきた。
「わぁケンちゃんきてたの❓」
「琴音元気だった❓」
「うん めちゃくちゃ元気だよ
今専門で音楽の勉強してるのケンちゃんは❓」
「おれは就職 森山製菓だよ」
「えっ森山製菓なの!?
すごっ めっちゃ大手じゃん やるぅ」
「そんなことねぇよ」
琴音に褒められ少しだけ口角が緩む
次の日琴音のお父さんに言われて琴音と二人で
水族館に行った。
「わぁすごい 鮫だよ」
琴音がはしゃぐ様子みて子供かよと思っていた
健司だったが気がつくと自分も楽しんでいた。
「わぁすげぇクラゲだぜ」
「ケンちゃん子供じゃん」
「お前にはいわれたくねぇよ」
しばらく楽しんだ二人はフードコートで中食をとったあとに近くの広間に向かった。
いつもみたいにたわいもない話をしていると
健司が真剣な顔で琴音の方をみてこう言った
「琴音 好きだ 付き合ってほしい」
突然のことで動揺する琴音だったが
二つ返事でOKをした。そのあと
ふたりが気まずそうに琴音の家に帰ると
琴音父と琴音母がなにやらニコニコしていた。
「やったな母さん」
「ほんとね父さん」
「もう二人ともほんとに奥手なんだから
こっちからしたらようやくって感じよ」
どうやら二人で仕組んでたらしいのだ。
全くやられてしまった。
一番被害者は琴音ださっきから部屋の角で体育座り
で顔を伏せている。
「ほらもう しっかりしなさい琴音」
琴音母がそういうとようやく顔をあげいっしょに
何故か無駄に豪華にしてある夕食を
みんなで一緒に食べた。
4話 幸せな生活
付き合って三年たった二人は都内のマンションで
同棲をしていた。
健司は仕事の方が落ち着き会社での地位もそこそこになり開発にも携わっていた。
琴音の方は専門を卒業してアーティストとして活動しながら都内の小さなコンサートに出てたくさんのひとを楽しませていた。
そんな幸せな生活が続いていた二人だったが
しばらくすると琴音の様子がおかしいことに
健司が気づいた。
「なぁ大丈夫か 顔色悪いぞ」
「大丈夫だから心配しないで」
琴音は大丈夫というが激しく息切れをしていた。
心配になった健司は琴音を病院に連れていった
検査が終わりしばらくするとお医者さんが二人を
診察室によんだ。
「落ち着いて聞いてください。」
医者が真剣な様子でこう言った。
「琴音さんは肺がんです。」
衝撃のひとことに一瞬固まってしまった健司がだったが気をしっかり保ち医者に進行の方はと聞いた。
「幸いなことにまだレベル1です。
ですが念のためこれからは通院をなさって
ください。」
「原因はなんですか❓」
「おそらく遺伝的なものだと思います。」
心当たりはあった。琴音父の父親たちは代々肺がんで亡くなっているからだ。しかしなぜか琴音父は肺がんにならなかったため琴音の代から大丈夫だろうと思われていたのだ。
今後の話をお医者さんとしたあとふたりは病院を
後にした。
健司は助手席に座っている琴音になにか励ましの言葉かけたい健司だか何も浮かばない。
「大丈夫だよケンちゃん」
そういった琴音の顔は笑っていたが
目の奥の悲しいさを健司は見逃さなかった。
「そだよな バカは死なないもんな」
健司も冗談をいって笑わせようとする。
ふと外に目をやると雨が降り始めていた。
5話 いかないで
肺がんと診断されてから通院していた琴音だったが
あまり症状は改善されていなかった。
見かねた健司が入院を医者に相談すると
医者も賛成し琴音の入院がきまった。
入院生活の最初は気丈に振る舞っていた琴音だったが抗がん剤の影響で髪の毛が抜け落ちてくると流石に元気をなくしていた。
それを見ていた健司は琴音に小さいキーボードピアノを渡した。
「久しぶりに演奏を聞かせてくれないか
天才ピアニストさん」
そう健司が言うと琴音ははにかみながらピアノ弾いて見せる。軽快な音色が病室に響き渡る。
演奏を終えると琴音が健司に手を差し出した。
「はい 500円」
「はぁ 金とんのかよ」
「当たり前だよ天才ピアニストの演奏だもん
なかなか聞けるもんじゃないよ」
というと琴音はおかしそうにわからった。
久しぶりに琴音の笑顔を見れた健司は心から笑った
それからも琴音はピアノを弾き続けた。
毎日毎日病室に旋律が鳴り響き日がたつにつれて
腕が上がっていた。
しかしそれとは対象的に症状は悪化していき
やがて呼吸器がないとダメな状態になってしまった。
「もう私ダメなのかな」
人生で初めて弱気になっている琴音を健司は見た
「大丈夫だよおまえは不死身だよ。」
医者が部屋に健司だけを読んで話す。
「もう琴音さんはレベル4になっております。
これまでこちらもたくさんの処置をしましが
もう手遅れです。大変申し上げにくいのですが
あともって1ヶ月の命でしょう。」
薄々分かってはいたが信じることができなかった。
それからどんどん状態が悪化していく琴音を
健司は1ヶ月だけだと分かっていながらもまだ生きてほしいと琴音の両親ともに励まし続けた。
しかし2ヶ月がたった頃琴音の心音がなくなった
健司は自分でも信じられないくらいに泣いた
土からでた瞬間の蝉のように永遠となき続けた。
やがた声が枯れたあとにみた白い病院服を着た
琴音の姿は小さなモンシロチョウのように
とても美しかった。
6話 土の中
琴音が亡くなってからぬけがらのようになってしまった。健司は実家の方に戻っていた。
ひとりではまずいと思った翔が実家にもどるように
健司に伝えたからだ。
しかし相変わらず元気は戻らず食事もあまり食べなくなりやせてしまっていた。
しばらくは酒の飲んで悲しみを紛らわしたり
昔の写真をみて現実逃避していた。
しかしある日翔にもう大丈夫とつたえて店を手伝っていた。
最終話 夏蝉とモンシロチョウ
ある日翔は店を一旦閉めてある場所に向かっていた
琴音のお墓だ。微笑みながら水をかける
隣のお墓にも悲しそうに水をかけてお祈りして
かえっていった。
店に戻るとひとりの子供が質問してきた。
「あれお店にいた細いお兄ちゃん
どこいっちゃったの❓」
「熱中症になっておやすみしてるよ」
「あいつはなずっと暗いところにいたから
暑いところに耐えられなかったんだ。」
「ふーん そうなんだお大事にね」
そういって子供は走り去る。
翔は悲しそうに空にむかって言う
「なんだよおまえの方がよっぽど
暑がりじゃねぇかよ」
おわりです。
読んでくれてありがとうございます。




