新世界編2
「ジーク様、お手紙です。」
「ありがとう………。」
俺は封を開けて中を見ると、そこには、組織の印が押してある。
まさか組織から手紙がくるとは思っていなかった俺は軽く心臓が飛び跳ねる、こんな事は、初めてだった。
『海岸沿い、倉庫、7時に集合、怪しまれることはするな』
その文章のあとに、番地やら地図やらが書き込まれていた。
「仕事、途中から上がらないとな………。」
「と、言うわけでジョナサン、あとは頼んだぞ。」
「へっ!?コーレフさんっ!!?そりゃないですよ!!」
俺はさっと上着を着ると暗くなった外に出る、列車に乗って、駅を降り、海外の倉庫まで歩いて向かう。
倉庫はみんな暗くなっている中、目的のところだけは明るいのですぐにわかった。
「俺だ、ジークだ。」
「よし、入れ………。」
俺は中に入るとみんなが声をかけてくれた、俺を含めて皆が私服だった、俺の服を見た男が工場はどうだったと聞いてくる。
「ボチボチだ、薬品で怪我しないかとヒヤヒヤしながらやってるよ。」
「薬品よりお前の場合は爆発の方を心配したほうがいいぜ?そうだろう?」
「ジーク、ジーク・コーレフ。」
「ハッ。」
振り返るとザビスが歩いてくるところだった、大半の人間が労働者風の格好で来ている中、ザビスは貴族が着るような(貴族なのだが)上等な服を身にまとっている。
「ここはあのお方がメンバーを集合させるために用意した倉庫だ、以後ここはエルスペニア帝国帝都支部として機能させるつもりのようだ。」
「ここをですか?」
「あぁ、目立たなくて、かつ広いスペースがあって、何より安かったらしい。」
「一番気に入ったのは値段というわけですか………。」
「そういうことだ………さぁみんな、聞いてくれ、私はあのお方の代理、そして今後支部長を務めるザビスだ、クラスはフィフティファイブ………君たちは記念すべき最初の、そして恐らく、本部を除けば組織の中でも最大の支部となるだろう帝都支部の生えある第一次メンバーとなった、これからも、よろしく頼む………さぁ、酒はあのお方のおごりだ、自由に注いでくれ…………行くぞ、カンパーイ!!」
「「「カンパーイ!!!」」」
「ジーク、話したいことがある、こっちに来い。」
「ハッ、わかりました。」
俺は倉庫の片隅に連れて行かれ、ザビスはそこらへんの木箱を持ってきて椅子にする。
「帝都支部に限らず、もっと多くの同志を呼び込んで、規模を拡大しなければならない。」
「はい、わかっています。」
「少しずつ、組織の人間の数は増えているが、裏でコソコソしていては微々たるものだ、だから私は、この際もっと大規模に、大々的にやっていきたいと思う。」
「ですが、それはあの人の意思にはそぐわないものでは?」
「まぁな、だがお前もわかっているだろう、このままでは我々の目が黒いうちに勝利の旗など上がりはしない、あのお方はともかくとして、我々は千年先を見据えた構想なんて付き合えるわけがない。」
「………。」
「………そうか、お前は、悪いことをいったな、ほら、これがお前の任務だ、所属員をまとめ上げて、本格的に組織を形成させる、お前には現場指揮官として頑張ってもらう。」
「行ってきま〜す!!」
「まぁ、行ってらっしゃい、死なないようにね!!」
僕、ジョナサンはこうして帝都の大通りへと躍り出ます。
自分はいま帝都のある部屋を借りて生活しています、お金は自分の給料から出しています。
一人暮らしは大変です………でも、もっと大変な思いをしている人はいくらでもいるので文句はいえません。
「ジョナサン、ただ今来ました!!」
「来たか、取りかかれ。」
工場長がそう言って作業に戻ります。
今回はずいぶん丸いですが、一度酷く遅れてしまったときなど顔を真っ赤にして怒りだし、何度も何度も殴ってきた恐ろしい人です。
みんな工場長が怒り出してなにかしでかすのを恐れて内心ビクビクしています………まぁ、ある一人を除いてですが。
ジーク・コーネフさんはどうやらここは副業でやってるらしく、工場長が首だっ、と言っても知らん顔、殴られても抵抗一つしませんが、ケロッとしていて傷一つ付きません。
たまにすっぽかすことを除けば月に自分の給料の10分の1ほどの額で夜まで働いてくれるのでなんとか首は免れているようです。
「よぅし、やっるぞぉ!!」
「来たか。」
ジークさんがそう無表情で出迎えて、僕は作業に取り掛かります、人体には猛毒の薬剤を濃縮魔石に吹きかけて安定化させる作業です、これ適当に吹きかければいいわけじゃなくて何回もひっくり返してまんべんなくかけないとだめなんですよね、おまけに少しの振動で大爆発、だから機械化も難しいそうです。
なれない器具で抑えながら吹きかけ続ける作業もだいぶなれてきて、20秒で一つ仕上げられるようになりました、まぁ10秒で仕上げる人間もいますけど。
この作業を全く休憩も許されずに行うのです、昼食の時間も20分、それが終わればすぐに戻ることになります。
そう、昼食の時間でした。
「すみません………。」
「誰だぁ!!関係ねえやつが立ち入るんじゃねぇっ!!」
工場長が思いっきり怒鳴ると入り口の方で悲鳴が聞こえてきました。
「今すぐ出ていけぇっ!!」
「ちょっ、待ってください!友達がここで働いてるんですよっ。」
「おめえにあわせる暇があるかっ、そんな暇あったらもっと働かせてるわっ!!」
「ちょっと、待ってくださいよ!!」
その声の主が誰かに気づいた僕は急いで走って追い出すのを止めます。
「ジョナサン………!!」
それは、僕の近所の友達でした、ここに来るまでずっと毎日遊んでたので忘れるわけがありません。
「おいっ、てめえも仕事場へ戻れっ!!」
「待って、一言言いたいだけなんです!!ジョナサンっ、大変なんだ!!」
「カナードがっ、カナードが鉱山に連れて行かれたっ………!!!」
その言葉を聞いたとき、僕は頭が真っ白になりました。
「ふざけやがって!!」
僕の頬にすうどく拳が突き刺さります。
「いいか、つぎ小便以外で席を立ったら給料半減か首か、どっちか選ばせるからな!!」
「ぐっ………。」
工場長が去ったのを見計らってジークさんが走ってきます。
「おい………大丈夫か?」
「………コーネフさん、頼みがあるんですけど、自分の仕事、変わってください。」
「なに?」
「ほらっ、この前の恩返しと思って!!今すぐ故郷に戻らないとならないんです!!」
「なっ………まぁ、別に構わない………何があったんだ、ほら、いっぺん言ってみろ。」
「………。」
僕の故郷は帝都から300km離れ、列車でも半日ほどかけてやっとたどり着ける田舎です。
一年前まで、列車に、それも自分のお金で乗るなんて考えもしなかった自分ですが、もう平気になってしまいました。
「………。」
どこまでも続くかに見えた帝都の町並みも過ぎ去って、のどかな田園風景が続いています、あっ、いま馬車が道を走っていたのが見えました。
列車を降りた僕は、真っ先に両親の家に向かいました。
コンコンと扉を叩くと、どちら様ぁという声が中から聞こえ、母さんが出てきました。
「!?!?」
「ジョナサン、帰ってきました!!」
「え、え、えぇ〜〜〜!!!!!?」
「ねぇ、父さん、母さん、カナードが鉱山に連れて行かれたって、本当なの!!?」
「………いきなりなんだお前はっ、ここに帰ってきたと思ったら、そんな話かっ!!」
「ちょっと、この歳で列車に乗って帰ってきたのよ?そんな言い方ないじゃない。」
「馬鹿野郎、だいたい、お前仕事はどうしたんだ、サボってきたのか。」
「他の人に頼んできた、で、カナードはどうなってるの!?本当に鉱山に連れて行かれたの!!?」
しばらく両親は沈黙して、顔を見合わせてから言った。
「まだ連れては行かれない、連れて行かれるのは3日後だ。」
「なんで………なんであんなところに。」
「カナードの家は、借金を背負ってる、何千と言う額のな、もう父親は工場に出稼ぎで、母親は畑の世話をせにゃならん、もうカナードが行くしかなかったんだ。」
「………。」
「………畜生!!カナードの両親を悪く思うな、全部貧乏が悪いのさっ、そうだ、確かに生活は豊かになったさ、もう蝋燭から電球に変えたところは多いし、水道も通る、日常品もすべてが金で賄える、金があればの話だがなっ!!俺たちにはそんなものありゃしない、だからって昔の生活に戻れるかっ!?今更引き返せるわけがねえんだよ!!畜生めっ!!」
そう一息に吐き出した父親はそれでも言い足りない様子でブツブツ言いながらもう終わりだと切り上げる。
父親が出ていってから、母さんが静かに言う。
「会うなら今のうちよ、行ってきなさい。」
「………あなたは。」
「ジョナサンです、入ってもいいですか?」
「………いいわ、あなたはカナードと仲良くしてくれてたからね。」
僕が中にはいると、二階から人が降りてきます。
「カナード!!」
「ジョナサン………?」
「………みんなそうだ、ここは葬式会場じゃないし、僕はまだ死んでない、なのにどいつもこいつも、涙をハンカチで拭きながらお別れの言葉をダラダラ述べてさ………。」
「………お前いいのかよ、本当に鉱山に行って。」
「いいんだよ、もう、仕方ないだろ、お金がない、どころか借金までしてるんだうちは、というかジョナサンだってそうだろ?」
「僕は、借金まではしてないよ、それでも生活は苦しい方だったから、仕方なく………君も、僕の工場に来たらいいのに。」
「僕は爆発事故で死ぬのは嫌だよ………死ぬなら五体満足だ………なに、やればできるって、もう何人も言ってるし、そいつらは辛い辛い言いながらまだ生きてるじゃないか、あいつらができるなら僕だってできるさ。」
「でも、鉱山労働の辛さは知ってるだろ、何ヶ月もやってると病気にかかるとか、食事以外休みがもらえないとか、簡単に事故で死人が出るとか。」
「いいんだよ、いいんだ、もうよしてくれよ………そんなお別れの言葉を言うくらいなら、トランプ遊びに付き合ってくれよ、あっちに行ったらこんなささやかな楽しみも無くなるだろうから………。」
ジョナサンがカナードと別れてから、しばらくした時だった。
その時、ラジオのある周波数に合わせれば、すぐにその知らせを受け取ることができただろう。
『………失礼しました、ただ今、ニュースが飛び込んできました………。』
『………。』
『………帝国、帝国皇帝政務局より発表、です………。』
『………かつて、ある神人が地上に降り立ち、畑を耕し、人を集め、エルスペニアに国をつくりたもうた………。』
『………我々は、神帝となり、天界へ帰っていったかの御方のために、ときに土地を切り開き、ときに猛々しく戦った………。』
『………現在は過去に通じ、我々の過去は、神帝によりつくられたもうた、神帝のなき日に過去はなく、過去なき日には今はない………。』
『………帝国、帝国は、今こそ太古よりありし、我らを見守る神帝の名のもとに、剣を取らねばならない………。』
『………今朝、神帝の末裔たるシュルディン皇帝殿下は、大使館を通じゲリストリ王国に、宣戦布告、した………。』
『………破竹の勢いでかの王国は、いま我々の前にたち、神帝と、我々により築かれた帝国を突き崩そうとしている………。』
『………我々の感ずるべきは怒りであり、するべきことは憤り、剣と弓をとり戦うことである………。』
『………今こそ、今こそは、神帝の加護のあらんことを………。』