再会 後編
外に出てみれば、吹雪はまだまだ続いている、おそらくもうしばらくはやまないだろぅ。
俺は寒さに耐えかねすぐに中に戻っていく。
「ボス、これどうぞ。」
「あぁ………。」
俺は部下が作った紅茶を取ると、それを啜る。
「………なぜだ。」
「へ?」
「いや、お前の話じゃない、俺は戻るよ。」
………似ている。
俺は聖女のことを思い出す、彼女とはほんの数回言葉を交わしただけだが、あの人と重なって仕方ない。
いや、やめておけ、そんな筈がない、彼女はあのとき一介の修道女だった筈ではないか、それが、聖女に?
「………。」
そうか、そうか、なに、直に確認すればいい、顔を見たいから防寒具を取れというだけでいい、なにも怪しくはない、そうだろうが、俺はそう思って扉を開ける。
「………!!」
「おい、ちょっと顔を見せろ。」
「………どういう意味でしょうか。」
「文字通りだ、少しの間そのマフラーやらを取るだけで構わない。」
彼女は黙ってそれを取り………。
「っ………。」
必死に隠そうとするがしかし、俺は、内心では心臓が止まる思いだった。
「………それでいい!俺は戻る、寒いならまた自分で」
「ねぇ!教えて!本当にあなたなの?」
「!!?」
俺は振り返る。
「………やっぱり、あなたなのね。」
「………。」
「顔を、見せて。」
俺が黙っていると、彼女が手を伸ばして俺のマスクを下にずらす、きっと彼女も、俺と同じ思いだっただろう。
「………悪いが仕事だ、たとえあんただとしても、逃がすわけには行かないぞ。」
「………いいわ、構わない。」
「俺はもう行くよ、じゃなあ。」
「まだ、聞きたいことがある。」
「………。」
「ねぇ、私からあなたか離れていったとき、あなたには何があったの、それ以前に何があったの、あなたの過去には、何があるの………?」
「………話せないよ、もう………話せるわけがない!!」
「なんでなの!!!」
「話せるわけがないだろうが!!!なんて言えばいいんだよ、あんなことを!!奴らをなんて呼べばいいかもわからない、あの出来事をどんな言葉で表せばいいかもわからない、きっと、世界中の文学者を総動員したって、あれを言い表すことなんか出来っこない、あまりにも言葉が足りないんだよ!!………もう、嫌だよ………なんでなんだよ………。」
彼は私の部屋の机にもたれかかり、頭を抱えてうずくまっていた………彼のような人間は何人も私は見てきました、つまり、心の奥底まで絶望しきった人間です、なんで生きているのかも分からなくなった人間です。
ひたすらになんで、なんでと机によりかかりながらつぶやいて、突然心の臓のあたりをかきむしると、そのまま逃げるように飛び出し、鍵をかける音が響きます。
朝、呼び出されたとき、彼にはもうあのときのような座礁しきった様子は何一つなく、顔はマスクで覆い隠されて見ることはできません。
「俺達は今日でここを出る、ありもしないが、身支度を整えるんだな。」
「………。」
「それと。」
「昨日のことを、もう、聞くな………今はただ、心の奥底に押し込むことしかできないから。」
「うおっ、何だあ!!?」
「なんでいきなり曲がるんすかっ、そんなに俺を落としたいんすかっ!!」
だが、ハルはまったく速度をゆるめることなく、何処かの方向に突っ走っていく。
「………!!まさか、見つけたっつうのかよ、おいっ!!」
「そんな、サーラ様の姿なんて、影も形も見えませんよっ!!?」
「そうなれば、ほら走れよっ、ほらっ!!」
「乗り込め。」
「これは、馬車ですか………?」
「お前には関係ないことだ。」
私は馬車の奥におしこまれました、両手には手錠がはめられガチャガチャと動くたびに音がします。
やがて、馬車が動き出しました。
「………おい、ここは。」
「道っすよね、それも第三の方に続く………。」
ハルは全く気にもせず走り続ける。
「………馬車だっ、馬車だぞっ!!!」
「本当だっ!!」
狼は馬車をさっと食い破り、中があらわになる。
「………ハルっ!!?」
「サーラ様っ、お早くっ!!」
さっとサーラ様が飛び乗ってくれたのをみたハルはそのまま馬車から飛び降りて、反対の方向へ駆け抜ける。
馬車は急停止して、旋回するのが見えたその時、馬車の馬に飛び乗り、紐を切って追いかけてくる男がいた。
「彼よっ!!」
「どれですかっ!?」
ハルは凄まじい速度で走り抜けるが、馬も負けてはいない、少しずつ差が縮まる。
「なんだとぉっ!!」
信じられない、やつは馬の上で立ち上がり、グワッと飛び上がったのだ、魂が相当に強い人間だったとしても同じことはできまい。
その黒いマントの影からチラチラと銀色のものが見えてー
パァンッ!!!おれのリボルバーが火を吹いて、やつの胸元を貫いた。
「っ!!!!」
それは、聖女様の喉元にナイフが突き立てられるかそうじゃないかの、ギリギリの戦いだった。
やつは反動で半身をのけぞらして雪の上に転がった………。
「………がはっ。」
俺は、胸元を見る、血は、血は、出ていない。
俺は服をナイフで切り裂いて、傷口を確認する、どうせ穴が空いた服を着る気もない。
出てきたのは、肌色の地肌ではなく、鈍く輝く鎧だった。
「………助けられたな。」
「ボスッ!!ボスッ!!」
向こうから馬車が走ってくる、もともと二頭で引くものなのだが今は一頭だけだ、絶対走れるわけがないが走っている。
「大丈夫ですか!!」
「あぁ………。」
いや………やはり大丈夫じゃないかもしれない、俺は、任務の為とはいえ、彼女に刃を向けたのだ。
その事実に、泣きそうになる、俺は、俺はいつからこんな情けのない男になってしまったのか、いつからかつての恩人にまで刃を向ける男になってしまったのか。
「………ボス?」
「いい、いいんだ、あ〜あ、今日はだめだぁ、帰るぞ、ザビスに怒られたっていいわな、あぁ、でもせっかく上げたクラスが降格するのは………。」
「………。」
「聖女様?」
「………いえ、なんでもありません。」
そう、なんでもありません、分かっていたことです、彼にとって、私は敵なのです、傷ついてなんか………!!
見れば、吹雪の先から、神々しい太陽の光が私を照らしてくれています、自分で言うのもなんですが、心の奥底に傷を癒やしてくれようとするかのように。
「………きれい。」
私はその光に、手を伸ばそうとして、やめてしまいました。