再会 前編
「あぁぁっ!!?教会の花瓶がぁ!!?」
そんな彼の叫びが聞こえたので、私を含む、修道士は急いで向かうと、案の定花瓶が割れてしまっていた。
「こんのクソガキッ、何してくれてんだバカッ!!!」
「いったぁ〜!!!」
彼はげんこつを主犯と思しき子供に振り下ろし、子供は頭を抱えて地団駄を踏んでいました。
「何すんだよっ!!」
「てめえが花瓶割るからだろうがっ!!」
「うるせぇっ!!やーい、バーカバーカ!!」
「なんだとぉっ!!!」
「ねぇ?」
「うわぁっ………なんだ、あなたか。」
「ねぇ、君、花瓶割っちゃったの?怪我はない?」
「え、え?なんで?その、ない、です。」
「そう?良かったわね、でも花瓶を割るのは悪いことだから、これから牧師さんに謝りに行こう?ね?」
「は〜い………。」
「なんで彼女の言うことは聞くんだよ…。」
ともかく、そのままあの子と私は牧師さんのところへ言って一緒に謝りました、牧師さんは「君も一緒に遊んでいたのかな?」と苦笑いしてそれから一緒に片付けることになりました。
「なんであなたの言うことは聞くのかなぁ。」
「う〜ん、なんででしょうねぇ………?」
私自身、首をかしげていました、なんでみんな子供は誰でも素直に言うことを聞いてくれるのだろうか。
「おーい!一緒に遊ばないっ!!」
「えぁっ?おまえなぁ………。」
「いいわ、遊びましょう?」
「えっ!?」
「やったぁ!!」
私は彼の蹴り上げたボールを胸でとって蹴り返します、ここの子供達は、暇さえあればこのボールを蹴り合って遊んでいます、そして、私も彼らに付き合ってよく遊んでいました。
男の子と一緒私はその時間、ずっとあの子と遊び続けました、それを彼は黙って見ています、そして、終わったとき声をかけてきました。
「………なんとなく、分かったかもしれない。」
「何がですか?」
「………う〜ん、なんていうかなぁ…………いやさ、あいつらが君の言うことを聞くのは、君と仲がいいというか、君が頼られているからだよ。」
「私が………?」
「君は、とにかく彼らに頼られてて、仲がいい、だからこそ彼らは言うことを聞いてくれるんだよ。」
「普通は、どちらかというと、仲のいい人の前のほうが、ふてぶてしくなりそうだけれど………。」
「そういう人もいるかもしれない、いやいる、いるはずなんだけど君がやるとなぜかそうなる、ずっと思ってた、君がやると、なぜかいろいろなことが全ていい方向に向かっていく、凄いなぁって、ずっと思ってたよ。」
「………。」
「………俺が君だったら、あんなことにはならなかったのかもしれないな。」
「おや?遅いお帰りですな。」
「牧師様!」
「もう夕方だ、早く中へお入りなさい、おおっと、君まで入られると困ってしまうよ、それとも今日からここで暮らすかい?嫌だろう………?なにせ修道士は断食したり、教会の仕事をこなしたり、大変だからね。」
「は、はは………。」
「………しかし、君たちは、こうしてみると、いい感じの恋人同士に見えるな………。」
「ちょっと、牧師様!修道士は恋愛禁止ですよっ!?滅多なこと言わないでください!」
「お、俺が彼女と………!?」
なになに?そんなに私が慌てる様子が思い浮かばない?それもそうかもしれませんね。
………私も、だめですよね、それ以来、どこか彼の事を意識する日が続くようになってしまいました、未熟者ですよね、でも、何をしても、治らなくて、見るたびに、胸が苦しく………ああぁ、今の忘れてください、ねっ?
「………う………。」
「起きたか。」
「!!!」
私の喉元にナイフが突きつけられていることに気がつくと、体がこわばります。
「お前は、今日からここで生活することになる、お前はここから一歩も出ることはできないし、食事は運んできてやる、だが………お前がもしもなにかしたときは、俺達は生死を問題とはしない。」
「………。」
そう言って、男は去っていきます。
………この人は………もしかして………。
「………ここは、一体どこでしょうか。」
とても、寒いところでした、防寒服はそのままだったのでそれをより深く来て、転がっていた毛布をさっとかぶって私は耐え忍びます。
「………クリス?」
「す、すみませんっ!!申し訳ございませんでしたぁっ!!」
「お前が謝ってすむ問題かっ!!貴様ぁ、聖女様を、サーラ様を、みすみす攫われたというのかぁ!!!」
魂の強度で身体能力はまるで異なる、そのため人々の身体能力格差は途方もなく広がっていて、ピラミッドの底辺にいるクリスはあえなく地面に沈むことになる。
「………というかっ、お前も謝れよっ!!このクソ犬がっ!!」
「………(ぷいっ)………。」
「そっぽ向くなよこのばかぁっ!責任はどっちかっつうとお前にあんだろっ、こっちなんて、銃と我が身を落とさないように必死だったんだよ!!」
「………!!」
「食事だ。」
「………。」
私はそれを受け取りました。
食事の内容は、意外にも普通で、温かいスープなど、何かとありがたいものでした。
「………。」
私は、看守の方をじっと見ますが、扉は窓がなく、のぞみ窓くらいのもので看守の顔は見ることができません。
「………。」
彼は、私の正体に気づいているのでしょうか、いや、そもそも彼は本当にあのときの彼なのでしょうか。
「………。」
気になって、仕方がありませんでした。
「………フィフティファイブ、彼女をどうするんですか?」
「その呼び名はもういいぞ、他のメンバーと紛らわしい、本拠地では本名で呼び合え。」
「………ザビス、彼女はどう利用するつもりなのですか。」
「何かしらの要人というだけで利用価値は必ずある、それが軍事組織であろうと、一介の商会であろうと、とにかく、次の幹部の召集では彼女の利用方法について合議していくつもりだ。」
「………。」
「なにか不服か。」
「いえ………。」
不服、不服か。
不服ではない、不服などではないはずだ。
「………なぜだ。」
なぜ彼女の事を気にするんだ、俺は戻りながら考える。
「おおっ、新たなボスの登場だぞ!!」
「………。」
みんながそう言って駆け寄ってくる。
我々の組織には、クラスという格付け制度が存在する、それは100段階に小刻みに分かれているのだが、自分のクラスはいま30、そして、部隊を指揮する事ができるようになるのも30からだ。
ザビスはとっくに精鋭とはいえ、こんな小部隊を指揮する立場ではなかった。
しかし、後釜に座れる人間がいなかったためやむおえず座り続けていたのだ。
それも、今日で終わる、これから部隊は俺が掌握し、ザビスは出世街道に戻っていくだろう。
「整列っ!!!」
そう俺が言うとダラダラしていたメンバーは顔色を変えて並ぶ、我々の組織はこういう細かなところも厳しく指導するため、気を抜く事は許されない、無論、彼らが精鋭部隊というのもあるが。
「我々の最初の任務は、いま捕縛した聖女サーラの移送である、移送にあたってとことんついて回るのは、どこをどう移動するか、ということである、まず思いつくのは峡谷を通って帝国に向かうルートだがこれは敵の只中を突っ切るようなものでありまずありえない、そしていまの時期この山を正規のルート以外で降りることは不可能である、となれば我々が取れるのはただひとつ、旧第三帝国領へ降りて、そこから数百kmの道を馬車で移動、最後に途中にある川にそって海に出る、あとは組織の手配した船で自由にどことなり行けばいい、明日からは具体的な行動計画を考える、いいな。」
「「「サーイエッサーッ!!!」」」
「………!!!」
扉が突如開くと、外から黒いフードを被った人間がドタドタと入ってきました。
「俺達はこれからお前を移送する、今のうちに心の準備をしておけ。」
「待って、どこへ連れて行くの。」
「言えるわけがないだろう、俺達はそれを伝えに来ただけだ、じゃあな。」
「待って、あなたは…………言ってしまった。」
私が駆け寄る前に彼らは扉を締めて、どこか遠くへ行ってしまう。
勇気を出して、真正面から聞くべきだっただろうか、私はそう悶々と悩んでいた。
「おい、急げよ、ほらっ、こんなところじゃお前だけが頼りなんだよっ!!」
そう言ってクリスが狼の尻をひっぱたくと、更に速度は早く、更に荒々しくなる。
「うおっと、あぶっな。」
「機嫌を損ねるなよ、こいつ次第で俺達は八つ裂きだぞ。」
部下は先に陣地への帰還を命じて、事の次第を報告させる。
その間に俺達は何が何でも聖女様を探し出す、でなければ、でなければ、クビをはねられる運命が待っている。
幸い、こっちには雪山育ちの狼という最大の専門家がついている。
「頼んだぜ、狼、いや、ハルッ!!」
「グルルォォォォォン!!!」